体重を落としたい。でも、食べる量を減らすダイエットはつらく、なかなか長続きしませんよね。そこで、池上敏郎医師の著書『お腹いっぱい食べて内臓脂肪を落とす 大豆ミートダイエット』から、植物性タンパク質である「大豆ミート」を食事に取り入れて、無理なくダイエットする方法をご紹介します。
文・池谷敏郎
大豆ミートダイエットの魅力は、やせるだけでなく、健康も手に入ることです。原料の大豆は日本が世界に誇る健康食材ですから、大豆ミートには大豆の健康効果がギュッと詰まっています。そのほかにも、大豆ミートならではの健康効果もあるので、まとめてご紹介しましょう。
良質なタンパク質を含んでいる
大豆ミートのタンパク質に“良質な”とついているのには、ちゃんと意味があります。タンパク質は野菜などの植物にも含まれているのですが、そのほとんどは必須アミノ酸のバランスが悪く、体内で効率的に利用できません。一方の大豆は、アミノ酸バランスのよい良質なタンパク質を含んでいるのです。
タンパク質を構成する成分であるアミノ酸は、約20種類あるのですが、そのうち9種類は体内で合成することができず、食事での摂取が必要な「必須アミノ酸」と呼ばれています。必須アミノ酸が含まれている割合は「アミノ酸スコア」と呼ばれ、100に近いほど良質なタンパク質といわれます。
肉や魚、卵などはアミノ酸スコアが100ですが、精白米は65、ブロッコリーは80と、ほとんどの植物のアミノ酸スコアは100に届きません。そんななか大豆は、植物のなかで唯一アミノ酸スコアが100と、良質なタンパク質を含んでいます。大豆ミートの原料は大豆なので、もちろん大豆ミートも同様です。
脂質のバランスが調整できる
大豆ミートの原料である大豆(ゆで)に含まれる脂質の量は、100gに9.8gと肉に比べるとごくわずかです。製品によって多少は異なりますが、肉より少ないことは間違いありません。この点が大豆ミートの大きな魅力です。なぜなら、油のバランスを自分で工夫して調整できるからです。
例えば、調理するときの油をオリーブオイルにすれば、体内の炎症対策になって動脈硬化予防になります。オリーブオイルは、体内の炎症を促すリノール酸(オメガ6系脂肪酸)の含有量が少ない植物油です。さらに、強力な抗酸化作用をもつポリフェノールが含まれているため、動脈硬化の予防に役立つことがわかっています。
大豆でつくった大豆ミートに体の状態をよくする脂質を加えるのですから、大豆ミートダイエットはあらゆる意味で健康的なダイエットです。
“やせたけど老けた”にならない
極端なダイエットをすると、必要な栄養が不足してしまって、肌のハリがなくなって老けて見えたり、筋肉が落ちてしまったりすることがあります。
大豆ミートダイエットでは、肌や髪の毛、筋肉などの原料になるタンパク質がしっかり摂れるので、そうした心配がありません。もっと言えば、アトピーや花粉症などの要因となる炎症を促す脂質の摂取量が減るので、肌の状態がよくなります。やせたうえにツヤツヤして若々しい肌や髪が手に入り、見た目が若返ります。
若返りに一役買っているのが、大豆に含まれるイソフラボンです。イソフラボンには女性ホルモン(エストロゲン)と似たような働きがあるので、更年期前後の女性の体調維持に役立つことがわかっています。
イソフラボンは骨粗しょう症の予防にも有効で、大豆ミートは骨と筋肉を強くしてくれる、高齢者のロコモ(※)対策にも理想の食材です。
※ロコモ=ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の略称。運動器の障害や衰えによって、要介護になるリスクが高まる状態。
腸内環境が整って免疫力もアップ
食物繊維が豊富な大豆ミートは、腸内環境の改善にも役立ちます。そして、腸内環境の改善は免疫力をアップさせ、多くの健康効果をもたらします。最近、免疫細胞の6〜8割が腸に存在していることがわかり、腸内環境が免疫機能を左右することが明らかになりました。感染症の予防にも有効です。
腸内には腸内環境をよくする善玉菌、増え過ぎると腸内環境を悪化させる悪玉菌、優勢なほうの味方をする日和見菌がいます。それぞれに役割があり、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の比率が「2:1:7」が理想的な割合とされています。そしてダイエットに関しては、善玉菌が食物繊維をエサとして、脂肪の蓄積を抑えて燃焼を高める効果を期待できる短鎖脂肪酸をつくることがわかっています。
なんらかの要因で悪玉菌が増え過ぎると、日和見菌が悪玉菌に加勢して、腸内環境はどんどん悪化していきます。その結果、免疫機能が低下して病気にかかりやすくなり、腸での消化・吸収が低下して健康を維持できなくなってしまいます。
腸内環境が悪化する原因には、食物繊維不足、高脂肪食などが指摘されていますが、大豆ミートはそのどちらもカバーし、腸内環境の改善とダイエットに役立ちます。
がん予防も期待できる
国立がん研究センターが発表した「科学的根拠に基づいた『日本人のためのがん予防法』」のなかには、「適正体重を維持する」という項目があります。
これまでの研究から、肥満度の指標であるBMI(Body Mass Index/肥満度を表す指標。値が高くなるほど肥満度が高い)の数値が、男性の場合は21.0〜26.9でがんのリスクが低く、女性は21.0〜24.9で死亡のリスクが低いことがわかりました。BMIの21.0〜26.9は、いわゆる標準体重のことです。
太り過ぎてもやせ過ぎてもよくないということなのですが、女性に限ると30.0〜39.9(肥満)では死亡リスクが25%高くなっています。特に、閉経後は肥満が乳がんのリスクになることが報告されています。女性にとってはダイエットに成功することが、がん予防につながるのです。
認知症予防に役立つ
タンパク質が不足すると認知症のリスクが高まることは、これまでの研究で明らかになっています。また、豚肉や鶏肉に多い炎症を促す油は動脈硬化を進行させ、血管性認知症のリスクを高めます。これら2つの懸念が解消できる大豆ミートダイエットは、間違いなく認知症予防に役立ちます。
さらにステップ1の「大豆ミートファースト」で血糖値の上昇をゆるやかにすることも、認知症予防に役立っています。近年の研究で、認知症は「第3の糖尿病」と呼ばれるほど血糖値との関連が深く、高齢者では血糖が高い状態が続くと認知症になりやすく、認知症になると血糖コントロールが難しくなる(血糖値が上がりやすい)と言われるほどです。
ステップ2の「大豆ミートファースト+ゆる糖質制限」を実践すれば、ステップ1よりも血糖値が上がりにくくなり、さらなる認知症予防効果が期待できます。
池谷式「大豆ミートダイエット」の4つのポイント
ポイント1:肉を大豆ミートで代用し、カロリーを大幅にダウン
牛肉や鶏肉、豚肉の代用として大豆ミートを使えば、おいしさはそのままにカロリーは大幅に減らせます。脂質もコレステロールも減らせるので健康効果もアップ。
ポイント2 大豆ミートファーストで血糖値の急上昇を抑制
食べる順番を変えるだけで、ダイエット効果がアップ。最初に大豆ミートのおかず、最後に糖質(米・めん・パン)を食べることで、血糖値の上昇がゆるやかに。
ポイント3 ゆる糖質制限を組み合わせる
ゆるやかな糖質制限(糖質の量をこれまでの1/2〜1/3の量に減らす)を組み合わせることで、ダイエット効果がさらにアップ。短期間で体重が減ります。
ポイント4 “やせる大豆ミート”にしてダイエット効果をアップ
そのままでも肉より格段にヘルシーな大豆ミートですが、さらにダイエット&健康効果をプラス。「かつお粉」と「しょうが」でパワーアップさせて使います。
“やせる大豆ミート”の作り方
* * *
『お腹いっぱい食べて内臓脂肪を落とす 大豆ミートダイエット』 池谷敏郎 著
(アスコム)
池谷敏郎(いけたに・としろう)
池谷医院院長、医学博士。1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。専門は内科、循環器科。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。血管、心臓などの循環器系のエキスパートとして、現在も臨床現場に立つ。30代のころ15kgの減量に成功した経験を基に、健康的に無理なく痩せるダイエット理論を確立。50歳を超えてからも体脂肪率10.6%をキープする「ダイエットの名医」として、数多くのテレビ出演、新聞・雑誌への寄稿、講演会などでのわかりやすい医学解説が好評を博している。著書に『「血管を鍛える」と超健康になる!』(三笠書房)、『血管・骨・筋肉を強くする!ゾンビ体操』(アスコム)など、数々のベストセラーがある。