“台湾の二郎系”と言われる麺に挑戦!
充実の展示を見ていると、お腹が空いてくるものです。そこで国立台湾博物館から徒歩7分のローカルな市場・城中市場に向かいます。向かうのは『城中市場 老牌牛肉拉麵大王』。牛肉麺が有名ですが“台湾の二郎系”と呼ばれる麺があるのです。ただ、かなりローカルなので、衛生的に不安がある人は、途中の『點水樓 懷寧店』で小籠包ほか、肉や魚料理を楽しんでもいいかもしれません。

城中市場は、オフィス街や高層ビル群へ再開発される台北駅界隈から、一歩裏に入ったところにあります。「ここはいつの時代?」と思うほど、商店がひしめいています。ここは、清朝統治時代(1683年から1895年)末期に発展した市場で、食べ物からアパレルまで幅広く扱う。飲食店も多く、地元の人に支持されているお店には行列が。皆が支持しているお店は美味しいだろうと、訪台のたびに複数のお店をお試し的に行っていますが、はずれたことはありません。

さあ、目的の『城中老牌牛肉拉麵大王』に到着。約70年の歴史がある名店で、テレビドラマ『路(ルウ)〜台湾エクスプレス〜』(NHK /2020年度)のロケ地にもなりました。

目的は“台湾の二郎系”と評判の炸醬麵(Sサイズ90NTD/約450円1TWD=5円換算)。ニンニクが効いた濃厚な醤油ベースのひき肉タレに、極太でコシが強く、小麦の香りと歯ごたえが特徴の麺を絡めて食べる料理です。

地元の人たちでごった返し、活気あふれる店内を見ていると、祭壇に気がつきます。おそらく関聖帝君(関羽)か土地公(福徳正神)だと拝察。台湾で『三国志』で有名な武将・関羽は、信義を重んじるから、商売の神様(財神)として崇められ、多くのお店が祀っているのです。商売には信用が大切。関羽は、敵である曹操から厚遇を提案されても劉備への忠義を貫きました。その姿勢に学んでいるのでしょう。
またよく台湾では、道の前で何かを燃やしているところに出会います。あれは、毎月旧暦の2日と16日お店の前や祭壇で豪華なお供え物とお香を捧げ、紙銭(神様に捧げるあの世のお金)を焼く「拜拜(バイバイ)」という神事。土地公(福徳正神)やご先祖様など、あらゆる対象に祈りを捧げています。この精神性は、八百万の神と共に生きる私たち日本人と似ているようにも感じますね。さて、ガッツリした麺を食べた後、余力がある人は徒歩2分の『城中豆花伯50年老店』もおすすめ。シンプルな豆花(豆乳プリン)にさっぱりとした蜜をかけたデザートが楽しめます。
台湾の歴史を五感で味わった後は、台湾の産業の起源を知る最新スポットも見ておきたいもの。そこで城中市場から国立台湾博物館に再び戻るルートを7分ほど歩き、南陽街38巷(路地)に向かいます。現在、台湾といえば半導体産業が有名。世界最大の半導体受託製造(ファウンドリ)企業『TSMC』の名前を知っている人もいるでしょう。2024年に熊本に工場が建設されたときも話題になりました。
なぜ、台湾は半導体産業に舵を切ったのか……発端は、1974年にこの南陽街38巷にあった飲食店『小欣欣豆漿店』で行われた朝食会議でした。当時、オイルショックなどに直面した台湾政府は、労働集約型産業からの脱却を志します。そこで、政府の要人、高官や在米華人技術者がここに集まり、台湾の未来をかけ、集積回路(IC)産業の育成を決議。その歴史的現場に、2026年にモニュメントが作られたのです。

朝食会議の後、台湾政府はアメリカのRCA(Radio Corporation of America)社と技術移転契約(約350万ドル)を締結。最新技術の導入に踏み切ります。そして1976年、選抜された19名の若手エンジニアが、半導体の製造・設計・テスト技術を徹底的に学ぶため渡米しました。「許されるのは成功のみ、失敗は許されない」という言葉を胸に刻み、1年間台湾の未来を背負って学び続けたのです。メンバーには、後にUMC(聯華電子)を創業する曹興誠さんや、TSMC元副会長の曾繁城さんなど、のちに台湾の産業界を牽引する錚々たる顔ぶれが揃っていました。

たった1年で帰国した若手技術者たちは、新竹市(台北から鉄道で約90分の都市)に建設されたモデル工場の立ち上げに着手。RCAで学んだノウハウを即座に実用化し、工場稼働直後から米国工場よりも高い歩留まり(良品率)をたたき出すという快挙を達成します。この経緯は、ドキュメンタリー映画『造山者-世紀的賭注』(邦題:チップ・オデッセイ 台湾の賭け)に詳しいです。彼らの強靭な精神力、現場で働いている人の使命感に、日本統治時代はどのように影響しているのかな、と考えつつ、ゼロからたった50年で産業を作り上げ、成長させていることに敬意を払って路地を歩きました。ここに来ると「私もまだまだ頑張ろう」と勇気が湧く人も多いはずです。
以上のコースは、地図アプリなどを活用し、寄り道をしながら半日で十分に回れるでしょう。ここで体感できるのは、清朝末期の台北城内、日本統治時代の近代化、そして現代の半導体産業の隆盛に至るまでの、130〜140年ほどの時間の流れ。街の表情を楽しみつつ、台湾の変化と発展を感じつつ、歩いてみてください。
【参考】
台北記憶倉庫 私たちについて
三井広報委員会 商いの大理想を新たな店章に託して
みんなの台湾修学旅行ナビ 台湾博物館 鉄道部園区 鄧南光影像紀念館 国立台湾博物館本館 国立台湾博物館古生物館
『台北エリア別満喫旅 食べまくり!』門司紀子著(小学館)
『地図で読み解く日本統治下の台湾』陸傳傑著、河本尚枝翻訳(創元社)
『南光』朱和之著、中村加代子訳(春秋社)
法政大学 写真家・鄧 南光の視界 ―台湾から法政大学へ―
国立台湾博物館 本館
點水樓 懷寧店
『増補版 台北・歴史建築探訪』片倉佳史著(ウェッジ)
『台湾の歴史』若林正丈著(講談社学術文庫)
映画『造山者-世紀的賭注』(邦題:チップ・オデッセイ 台湾の賭け)蕭菊貞監督 2025年
『TSMC 世界を動かすヒミツ』林宏文著、 野嶋剛監修、 牧髙光里翻訳( CCCメディアハウス)
●写真・取材・執筆/前川亜紀

1977年東京都生まれ。大学在学中より編集兼ライターとして『プチセブン』『CanCam』『VoCE』ほか女性誌に執筆、出版社勤務を経てフリーに。現在は著名人インタビュー、東京史、介護、恋愛、育児など幅広く執筆。近現代史、旅、酒などに詳しい。台湾は戦前の建築物に心惹かれ、2018年から頻繁に訪台し、気づけば30回以上に。台北、台南、台中のほか宜蘭、台東などの都市を巡る。現地では食、宗教観、歴史、若者カルチャー、音楽シーンなどをリサーチしている。
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