ストレス社会の現代日本ではうつ病をはじめとする気分障害患者の数が急増しています。厚生労働省の調査によれば、1996年に約43万人であった患者数が、2017年には約3倍となる約128万人に増えました。うつ病は持続的なストレスが誘因となり、毎日憂うつな気分が続き、ものごとへの関心や興味、喜びを感じられなくなる病気です。最近では精神的なストレス以外に、現代社会の生活習慣に起因した「隠れストレス」もうつ病発症のリスクを高め、私たちの身近でも軽いうつ症状で悩んでいる人は増加しています。メンタルヘルスの研究者であり、帝京大学医学部精神神経科学講座教授の功刀(くぬぎ)(ひろし)医師に、軽度なうつ病の予防や症状改善のための運動、睡眠、食事の整え方について伺いました。

一年以上続くコロナ禍の混乱で、「プチうつ」や不安障害を訴える人が増えていると思います。ワクチンを接種したからといっても、元の生活に戻るまでには時間がかかりそうです。

まずはコロナ禍ならでは不安との向き合い方、周囲の人とのコミュニケーションのとり方について聞きました。

長引く在宅勤務でテレワークうつが急増中

「コロナ禍の一番の問題は、感染対策として家にこもる時間が増え、これまでのような周囲とのコミュニケーションが取りづらくなったことですね。ビジネスパーソンの方は、テレワークの広がりに加え、同僚とともに飲食をする機会がめっきり減ったことで、上司や同僚に仕事の進め方や仕事上の悩みを相談することが難しくなりました。問題が解決されないまま仕事を進めても、効率はどんどん落ちていきますから、これがストレスとなり、軽いうつ病を発症する人が目立ってきています。コロナ禍で人と会うことはできなくとも、オンラインでも結構ですから、積極的にコミュニケーションの場をつくることで予防になると思います。また、深く悩んだりせずに、“コロナ禍では仕方のないこと”と気持ちを切り替えることも大事です」

外出を自粛する生活が長引く中で発生した新たな問題もあるといいます。

「一つは、通勤や外出の減少や感染予防で家飲みが多くなり、飲酒量が増えている実情です。お店で飲む場合は、ある程度酒量をセーブできますが、家だといつまでも飲んでしまい、知らぬ間に酒量が上がってしまいます。寝酒は寝つきがよくなる一方、睡眠が浅く、早く目覚めてしまうため、睡眠の質が下がり、うつ病の症状を悪化させます。もう一つ、直面している大きな問題が、外出を控えることで、心の健康を整える上で大事な有酸素運動がしにくくなっていることです。運動は神経細胞を増やし、大脳皮質を広げ、脳を元気にする働きもあります。運動習慣がある人ほど、うつ病や認知症になりにくいというエビデンス(※1)もありますので、特にシニア世代の方は、意識的に生活の中で、運動の時間を確保していただきたいですね」

運動の習慣化はメンタル機能も元気にする

コロナ禍では感染の懸念から自由に運動できない状況が生まれています。どのぐらいの運動量が望ましいのでしょうか。

「最初は1日5~15分のウォーキングからはじめ、少しずつ時間を増やしていくのが理想です。私の患者さんには、週4回以上、1回30~40分ぐらい、半分早歩きを入れたウォーキングをおすすめしています。それが苦行のようになってしまうと長続きしませんし、運動すること自体がストレスになってしまうと元も子もありません。高齢の方はフレイル予防も兼ね、毎日近所を散歩するだけでもいいので、体をしっかり動かしてください。コロナが続く限り難しいかもしれませんが、自分で管理できない方はスポーツクラブで適度な運動をするのもいいですね。忙しくて運動時間をとれないという方は、自宅に居ても座りっぱなしはやめ、30分から1時間に1度小まめに動いたり、家事をすることでも、運動をした時のような活動量を上げることができます」

外出できないシニアは生きがい探しが大切

シニア世代はうつの発症リスクが高いことも、功刀医師が不安視する点です。

「シニアになると、仕事を失くしたり、大事な人を失ったり、喪失体験の連続で、うつ病になりやすいのです。私の患者さんにも、コロナ禍になってスポーツクラブに通えなくなったり、友達と一緒にカラオケを楽しむ機会がなくなるなど、残されていた生きがいの場を失った人は少なくありません。コロナがうつ病を促進する要因として働いているわけです。高齢になっても趣味をもっている方は、認知症やうつ病にもなりにくいといわれています。運動以外に、生きがいとなる趣味を探してみるのもいいですね」

※1 出典

認知症:Guure, C. B., Ibrahim, N. A., Adam, M. B., & Said, S. M. (2017). Impact of Physical Activity on Cognitive Decline, Dementia, and Its Subtypes: Meta-Analysis of Prospective Studies. BioMed research international, 2017, 9016924. https://doi.org/10.1155/2017/9016924

うつ病:Schuch, F. B., Vancampfort, D., Firth, J., Rosenbaum, S., Ward, P. B., Silva, E. S., Hallgren, M., Ponce De Leon, A., Dunn, A. L., Deslandes, A. C., Fleck, M. P., Carvalho, A. F., & Stubbs, B. (2018). Physical Activity and Incident Depression: A Meta-Analysis of Prospective Cohort Studies. The American journal of psychiatry, 175(7), 631–648. https://doi.org/10.1176/appi.ajp.2018.17111194

お話を伺ったのは……



功刀(くぬぎ) (ひろし)先生
帝京大学医学部精神神経科学講座主任教授


1986年東京大学医学部を卒業後、帝京大学精神科学教室を経て、1994年、ロンドン大学精神医学研究所にてRobin Murray教授の指導下に疫学、分子遺伝学的研究を行う。以後、精神疾患の生物学的研究を継続的に行っている。専門は統合失調症やうつ病の脳科学、新たな診断・治療法の開発。最近は、脳脊髄液を用いたバイオマーカーや創薬標的分子に関する研究に精力的に取り組む。また、食生活・栄養に着目した研究も積極的に行っている。「心の病を治す 食事・運動・睡眠の整え方 ココロの健康シリーズ」(翔泳社) 、「こころに効く精神栄養学」(女子栄養大学出版)など多くの著書がある。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘  写真提供/功刀 浩医師

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