そろそろ更年期かなと思う年齢は、実はまだ人生の折り返し地点です。人生100年時代を生きるためには、更年期と上手に付き合わなくてはなりません。更年期を迎えた時に、まずは何をすればいいのか? 体、心、食、生き方の4テーマで、「対馬ルリ子女性ライフクリニック」の院長である、産婦人科医の対馬ルリ子先生に聞きます。
まずは更年期症状について伺いました。
更年期は30代から始まっています
個人差はあると思いますが、更年期は何歳ぐらいからはじまるのでしょうか。
「女性の更年期とは、閉経の時期をはさんだ前後10年間を指します。平均的な閉経年齢は50歳頃ですが、早いケースでは45歳で閉経を迎える方もいます。更年期になると、卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンの量が急激に減少するため、体がうまく適応できず、自律神経の乱れや脳機能の低下、感情や免疫の働きが不安定になるなど、それまで女性ホルモンのおかげで抑えられていたさまざまな不調が表に現れてきます。更年期の前段階となる、女性ホルモンが減少し始める時期を“プレ更年期”といいますが、30代後半~40代前半からこうした症状が表面化することもありますね」
更年期症状は心身に現れ、しかも多岐にわたることから更年期と気づかず、病院で検診をしても、原因がわからないことも多いようです。
「エストロゲンという女性ホルモンには、若さと健康を保つ働きがあります。閉経すると、このエストロゲンの分泌がほぼゼロになってしまいますから、皮膚や粘膜、関節、骨、そして脳が急速に老化してきます。個人差や症状の程度に違いはありますが、骨粗しょう症、アルツハイマー、皮膚のかゆみ、発汗、動悸。めまい、のど・口・目の乾燥、尿失禁といった多様な症状があげられます」
女性ホルモンの減少は脳機能の低下にも影響する
人生100年時代、健康長寿を願うシニアにとって最大の関心事の一つである脳機能にも、更年期は影響を及ぼします。
「若い方でも月経不順でエストロゲンの分泌レベルが下がると、脳機能は一時的に低下しますが、治療をして卵巣機能が元に戻ると、脳機能も復活します。けれども、更年期以降は、老化によって脳機能が低下し認知機能や集中力、判断力が落ちてしまうと、治療をしてもエストロゲンの分泌レベルは元に戻らないのです。男性も老化によって脳機能が衰えますが、女性の場合、更年期以降、老化による脳機能低下とエストロゲンの減少による脳機能の低下がダブルでやってきます。認知症にならないためにも、女性ホルモンの減少からくる心身の機能低下をいかに穏やかにするかが大事なポイントになります」
心身から危険信号が出たら、すぐに対処することが予防のファーストステップとなります。
「更年期は男女ともにやってきます。男性は心筋梗塞やがんなどの大病につながりやすい特徴があるものの、ほとんど自覚症状が現れません。一方、女性はホルモンがゆらぎやすいことで、心も体も揺らいでしまいますから、先にお話をした症状のほか、手の震え、不眠、むくみ、便秘など、男性より圧倒的に多い自覚症状が出てきます。調子のいい時もあれば悪い時もあるというように波がありますので、ふだんとは明らかに違う体調の変化を感じたら更年期障害を疑い、かかりつけの婦人科に来院されるといいと思います」
更年期症状を改善させるホルモン補充療法
更年期症状の対策として、減少したエストロゲンの不足分を補って、女性ホルモンを安定させる「ホルモン補充療法(HRT)」が知られています。対馬先生は、かなり早い段階から治療にHRTを取り入れています。
「効果と安全性について長く議論されたこともあり、不安を抱いている人もいらっしゃるかもしれませんが、現在では予防医学としても注目されています。HRTでほとんどの更年期症状に緩和や改善がみられます。例えば、女性の認知症発症率は男性の2.5倍~3倍も高いのですが、HRTを行っている人は、男性と同程度まで下がることがわかっています。またHRTは動脈硬化や糖尿病などの予防に役立つこともエビデンスがあります。飲む、貼る、塗るなど、自分に合った投与方法も選べますので、10年間も続く更年期を乗りきり、快適に暮らすための選択ともいえます」
ただし、HRTの服用だけではなく、更年期症状を悪化させるストレスや生活スタイルを見つめ直し、自分に合った食事や運動などを通じて、心身をケアすることも基本的なことだといえます。自分の心身を整える上で、いい生活習慣を手に入れることが、更年期から身を守ることへとつながります。
お話を伺ったのは……
医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/
取材・文/安藤政弘 写真提供/対馬ルリ子女性ライフクリニック