もっとも手軽にできる健康維持方法として、ウォーキングを日課にする人が増えています。コロナ禍となってからは、在宅ワーク中の運動不足の解消策として、ウォーキングを始めた人も多いのではないでしょうか。済生会横浜市東部病院周術期支援センター長/栄養部長の医師・谷口英喜先生は、歩くことを推奨する一方、夏場のウォーキングには、熱中症や脱水症予防として、こまめな水分補給を呼びかけています。水分補給の重要性は知っていても、どのように補給するかは案外知られていません。今回は脱水にならないための正しい水分補給について伺いました。

水分補給の目安は1日あたり体重の値の40倍ml

発汗量が多く、熱中症になりやすい夏場でも、運動習慣として、涼しい時間を選び、ウォーキングを続けている方は多いでしょう。しかし、夏は朝晩でも気温が高いため、時間帯にかかわらず、小まめな水分補給は不可欠です。

「暑さによって、ウォーキング中に頭がぼんやりしてきても、それだけですぐに本格的な熱中症に進むことはありません。その危険信号を見逃さず、一旦休憩を入れて、水分を補給すれば、体がクールダウンされます。ただ“家の周りの短い距離を歩くだけだから”といっても油断や過信は禁物です。ウォーキングに出かける時は必ず水筒を持参し、いつでも水分が補給できる準備はしておきたいですね」

ウォーキングに限らず、こまめな水分補給は脱水症対策として重要なポイントになります。さらに、1日の水分摂取量の目安と、飲み方のコツを知ってこくことも大切です。

「健康で、ふつうに暮らしている方であれば、1日あたり体重の値の約40倍mlの水分摂取が必要だと考えられています。体重が50kgの方であれば2000mlが目安となります。ここで誤解しないでいただきたいのは、そのすべてを飲み物からとるのではなく、飲み物と食事の両方からとるということです。かりに2000mlが目安であれば、半分にあたる1000mlは食事からとれますので、飲み物で1000 mlとれば必要な水分量は十分に維持することができます。意外なことに食事からとれる水分量は多く、1食あたりで500ml、食の細い方でも300~400mlはまかなえます。1日3食きちんと食事をとっていれば、それだけでもかなりの水分を補給できます。目安となる体重を毎日計測しておけば、目標の量とさほどぶれずに水分がとれると思いますね」

塩分や糖分のない水やお茶がベスト

ウォーキングなどの運動を含め、どんな飲み物が水分補給に適しているのでしょう。

「塩分や糖分は食事からとればいいので、飲料では、水かお茶がいいですね。カフェインをとるとすぐに尿意を催すという方以外は、カフェイン入りの飲料でも問題はありません。カフェインは飲んでいるうちにだんだん耐性がでてくるので、日頃から飲み慣れている人はコーヒーや緑茶でも大丈夫です」

果汁100%のジュースは、水分補給用には適していないといいます。

「できれば避けていただきたいですね。血糖値があがって糖尿病になるということより、血糖値があがるとお腹がいっぱいになって食事がとれなくなってしまうことが問題ですね。食事からとった1Lの水分は体に残りますが、同じ1Lを飲み物でとっても水分は体から出ていってしまいます。私としては、できれば食事から水分を摂取していただきたいので、食欲が落ちるような糖分の多い飲み物はあまりおすすめしません」

飲み方のコツとしては、少量ずつ何度かに分けて飲むことだといいます。

「体というのはよくできていて、水分をとると尿として出してしまおうとするのですが、少しずつ飲むと体が気づかず、水分を体にためておくことができます。デスクワークの際は近くに水筒をおいて、キャップ1杯くらいをちょこちょこ分けて飲むのがいいですね。また、気温が高いと冷えた飲料を飲む機会が増えますが、体温に近い常温飲料の方が、体内の消化液の温度に近く消化や吸収に適しているでしょう」

アルコール飲料は体から水分を奪う

脱水を感じた時の水分補給として、NGなのがアルコール飲料です。

「ふつうの水分は小腸で吸収されるのですが、アルコール飲料は胃で吸収されます。水やお茶はペットボトル1本を飲み干すのにも時間を要しますが、ビールならいくらでも飲めてしまいますよね。それは、胃にある血管から吸収されて体中に回っていくからです。しかも、アルコールには利尿作用があり、体の水分を奪う働きがあります。飲んだ量以上の水分が奪われてしまいますので、水分補給にならないのです。少し話がズレますが、利尿作用のあるアルコールだけを飲むと脱水になりますが、トマトやきゅうり、枝豆といったおつまみを食べながらビールを飲むと、食事から水分が入ってくるので、脱水にはなりません」

お話を伺ったのは……


谷口英喜先生
済生会横浜市東部病院患者支援センター長/栄養部部長
医学博士

1991年、福島県立医科大学医学部卒業。麻酔科医師。学位論文:経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究。神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授を経て、済生会横浜市東部病院周術期支援センター長兼栄養部長。神奈川県立がんセンター麻酔科非常勤医師。東京医療保健大学大学院医療保健学研究科客員教授。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急学会専門医、日本静脈経腸栄養学会認定医・指導医、日本外科代謝栄養学会・教育指導医、「かくれ脱水」委員会副委員長。著書に『すぐに役立つ 経口補水療法ハンドブック』、『イラストでやさしく解説! 「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』、「はじめてとりくむ水・電解質の管理 基礎編・応用編」などがある。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘  写真提供/済生会横浜市東部病院

 

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