コロナ禍の巣ごもり生活で、食べ過ぎ・飲みすぎ、運動不足がたたり、体重が増えたという嘆きが聞かれるようになりました。肥満は生活習慣病を引き起こす原因となり、年齢を重ねるごとに病気によるリスクが高まっていきます。最近、患者数が急増している「逆流性食道炎」も、肥満が発症の要因といわれる病気の一つです。胃酸が食道に逆戻りすることで胸やけや、酸っぱいものがこみあげてくる呑酸が典型的な症状であり、病気が進行すると、不眠や激しい咳などがあらわれ、生活そのものに支障をきたすこともあります。 逆流性食道炎にかかる仕組みや原因、どうすれば予防でき、どんな治療法があるかを、消化器内科の専門医である京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長の内藤裕二先生に、4回に分けてお話をお聞きします。2回目は「 かかりやすい年代 」について。

ピロリ菌がいないことが逆流を引き起こす?

逆流性食道炎は、以前は欧米に多く日本での患者は少ない病気でしたが、食生活の欧米化や、胃粘膜に生息する細菌・ピロリ菌感染率の減少で一転。胃酸の分泌量の多い丈夫な胃を持つ人が増えたこともあり、患者数が急増しました。現在では成人の10~20%が逆流性食道炎にかかっていると推測されています。

「ピロリ菌は世の中が衛生的ではなかった時代に広がったもので、社会の衛生環境の向上によって、現代のピロリ菌の感染率は大幅に減っています。年齢が高いほど感染割合は高く、50代以上ではその半数以上がピロリ菌に感染していますが、50歳以下の感染率は20%以下、20歳以下では5%という報告があります。ピロリ菌がいないと胃は元気ですが、逆に胃酸の分泌は活発になるため、胃酸が逆流する可能性が高くなってしまったというわけです。最近はみなさん健診を受けているので、自分のピロリ菌抗体が陽性か陰性かわかっていると思います。ピロリ菌に感染していない人は逆流性食道炎のリスクがあることを理解して、予防することが大切です」

逆流性食道炎は高齢者がかかりやすいという印象がありますが、実際はピロリ菌の感染割合が低く、仕事のつきあいで飲み歩く機会の多い、30~40代の働き盛り世代の方がリスクは高くなっているそうです。

働き盛りだけではなく高齢者も要注意

「高齢者は老化による筋力の低下で下部食道括約筋が緩み、食べたものが逆流しやすくなります。高血圧の治療薬である、カルシウム拮抗薬を服用していると、下部括約筋が弛緩し、開き気味になり、逆流性食道炎を起こしやすくなるので注意をしてください。また、背骨の老化や骨粗しょう症の影響により背中が曲がってくると、食道と胃の繋ぎ目が圧迫され、食道の機能が低下し、胃酸が長時間食道にとどまるので、逆流性食道炎の原因となります。にもかかわらず高齢者の感染割合が少ないのは、70歳以上のほとんどの方がピロリ菌に感染しているためです。胃酸の量が少なく、逆流性食道炎にかかりにくいと考えられます」

とはいえ油断は禁物です。定年後も現役時代と同じような暴飲暴食を続けていると逆流性食道炎にかかる可能性は格段に高まっていきます。なぜなら、生活習慣の乱れの積み重ねが逆流性食道炎の根本的な原因になるからです。それでも食べ過ぎ、飲み過ぎを改めず、逆流性食道炎が増え続ける背景には、特効薬の存在が大きいと内藤先生は指摘します。

薬で抑えても病気の根本は治らない

「逆流性食道炎の原因となる、胃酸を抑える薬がたくさん世の中に出たことで、薬を飲むと途端に胃酸が出なくなり、症状もスーッと収まってしまいます。一時的な飲み過ぎ、食べ過ぎで胃酸が逆流した人にとっては幸運なことですが、怖いのは、悪しき生活習慣を続けたことで肥満になったり、高血圧になった人も、薬を飲み続ける限り症状がなくなるということです。薬は驚くほどよく効くのですが、やめた途端に再発し、また病院にやってくることになります。これを繰り返すと一生、薬に頼る生活になってしまうのです。“苦しい症状がなくなるのであれば、薬を飲み続けます”という人も中にはいますが、専門医としては看過できません。逆流性食道炎の根本の理由は、生活習慣にありますから、生活習慣を改善しない限り、完治しないわけです」

欧米では、胃酸の逆流を防止するシステムを修復する手術が高頻度で行われているといいます。日本でも手術で治すケースが増えているのでしょうか?

「先ほどお話ししましたように、逆流性食道炎は、消化器系のみならず、喉の違和感、咳、不眠などをともなうため、患者さんのQOL(日常生活の質)は極めて悪いといわれています。ですから、外科的に手術をして治すことが成立する病気でもあるのです。日本では“生活習慣を改善して根気よく治していきましょう”という発想が根付いていますから、悪い生活習慣を放っておいて手術をするというケースはまずありません。高血圧や糖尿病と同じように、まずは生活習慣を改善することが一番。生活習慣を正すことができれば、逆流性食道炎は自然と治っていきます」

今からでも遅くはありません。生活習慣を見直してみましょう。

【次回】 生活習慣の改善が自分で治す最大のポイント !に続きます

お話を伺ったのは……




内藤裕二 先生
京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長


1983年に京都府立医科大学卒業後、附属病院研修医(第1内科学教室)を経て、2001年に米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、2005年に独立行政法人科学技術振興機構科学技術振興調整費研究領域主幹、2009年京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授を歴任。20015年より京都府立医科大学附属病院内視鏡・超音波診療部部長を務める。腸内フローラやピロリ菌をテーマにした書籍も数多く上梓している。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘 

 

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