コロナ禍の巣ごもり生活で、食べ過ぎ・飲みすぎ、運動不足がたたり、体重が増えたという嘆きが聞かれるようになりました。肥満は生活習慣病を引き起こす原因となり、年齢を重ねるごとに病気によるリスクが高まっていきます。最近、患者数が急増している「逆流性食道炎」も、肥満が発症の要因といわれる病気の一つです。胃酸が食道に逆戻りすることで胸やけや、酸っぱいものがこみあげてくる呑酸 (どんさん) が典型的な症状であり、病気が進行すると、不眠や激しい咳などがあらわれ、生活そのものに支障をきたすこともあります。

逆流性食道炎にかかる仕組みや原因、どうすれば予防でき、どんな治療法があるかを、消化器内科の専門医である京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長の内藤裕二先生に、4回に分けてお話をお聞きします。1回目は「逆流性食道炎という病気」について。

括約筋の力の低下で胃酸が食道に逆戻り

食べ過ぎや飲み過ぎの数時間後、ひどい胸やけや酸っぱい胃酸がこみあがる呑酸に悩まされた経験は誰にでも一度はあるはずです。大抵は胃腸薬を服用したり、症状が収まるまでそのまま放置し、後日、病院で診断を受けるケースは少ないのではないでしょうか。しかし、たびたびこの症状が起こったら、胃酸が食道へ逆流する病気である逆流性食道炎かもしれません。まずは、どのような体の異変で、食べ物の逆流が起こるのか、内藤先生に解説いただきました。

「食道と胃の境目には下部食道括約筋という筋肉があります。たとえが少し極端ですが、私たちはふつう逆立ちしても、一度食べたものは逆流しませんし、逆立ちしたまま水を飲むこともできますよね。これは、下部食道括約筋が、食べ物などを通す時だけ開き、通過したらキュッと閉じることで、胃の中にあるものが逆戻りするのを防いでいるのです。筋力の低下で下部食道括約筋の締まりが悪くなったり、揚げ物や高脂肪な食べ物を多く摂り、胃酸の分泌量が増えてしまうと逆流しやすくなります。このように、胃の内容物が逆流し、食道が炎症を起こした状態が逆流性食道炎です。

食道は食べた物が胃に至るまでの通り道で、胃は食べ物を消化する器官。食べ物の消化にあたり、胃では胃酸が分泌されています。胃酸は細菌などを滅する役割も担う、とても強い酸性の消化液です。胃酸を浴びても胃自体が炎症を起こさないのは、胃の内壁から分泌される胃粘液が胃を守っているからです。しかし、食べ物の通り道である食道は、通常は胃酸にさらされる場所ではないので、胃のようなガードシステムをもっていません。そのため、一旦、胃酸が逆流してしまうと、炎症を起こしてしまうことになります」

逆流のストレスから不眠になるケースも

「食道がダメージを受けると、胸やけや呑酸だけではなく、ゲップをする回数が増えたり、胃もたれや胃痛、むかむかといった症状が引き起こされます。さらに逆流性食道炎というのは、胃酸が逆流するという症状だけではなく、消化器官と関係のない場所にも影響があらわれます。胃酸が喉まで逆戻りして喉や口腔に痛みや違和感を覚えたり、気管支に流れ込んで激しいせきや喘息を起こすこともあれば、不快感や痛みによるストレスが原因で不眠になる人もいます。飲み過ぎ、食べ過ぎで胸やけしても1回薬を飲んで治まるようなら問題はないと考えていいですが、本当に逆流性食道炎で困っている人は、毎日薬を飲まないと抑えることができません」

逆流性食道炎にかかっても軽症であれば、自然に治癒するといわれます。しかし、胸やけや呑酸の症状が長く続き、日常生活に支障をきたすこともあります。また、炎症がひどくなると、食道潰瘍になり、潰瘍を繰り返すことで、食べ物が飲み込みにくい「嚥下困難(えんげこんなん)」が起こることも。さらにそのまま放っておくと、食道がんにつながる恐れもあるそうです。

胃腸薬の服用で逆流性食道炎がわかる

「胸やけや呑酸が継続するようであれば、一度消化器の専門医を訪ねてみるといいでしょう。やや面倒なのが、胸痛や咳、不眠など食道以外の症状も出ているケースです。胃に異常を感じたら消化器内科にやってきますが、“咳が出る”、“眠れない”という症状ですぐに逆流性食道炎を疑い、私たちを訪ねてくる人はほとんどいません。かりに胸やけや呑酸の自覚症状があり、咳や不眠にも悩まされているのであれば、一度、胃酸の出過ぎを抑える市販のH2ブロッカー胃腸薬を服用されるといいと考えます。薬で不眠や咳の症状が軽くなれば、原因は逆流性食道炎だということになります」

病院では問診に加え、診断シートがあり、アンケート項目にチェックすることで、逆流性食道炎の可能性が高いことがわかるといいます。

「病気にかかってしまったら受診されるのが一番ですが、それ以上に大事なのは、日常生活の中で、ご自身が予防をするということです。逆流性食道炎にかかる原因はわかっていますから、日頃の食生活や行動などに気を配れば、自分で治すこともできます」

【次回】 ピロリ菌の減少で50代以下のリスクが高まる! に続きます

お話を伺ったのは……




内藤裕二 先生
京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長


1983年に京都府立医科大学卒業後、附属病院研修医(第1内科学教室)を経て、2001年に米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、2005年に独立行政法人科学技術振興機構科学技術振興調整費研究領域主幹、2009年京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授を歴任。20015年より京都府立医科大学附属病院内視鏡・超音波診療部部長を務める。腸内フローラやピロリ菌をテーマにした書籍も数多く上梓している。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘 

 

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