新型コロナウイルスの、重症化リスクのひとつとして挙げられているのが慢性腎臓病(CKD)です。CKDは、腎障害や腎機能低下が慢性的に継続するすべての腎臓病のこと。日本全体で患者数は1330万人にのぼり、20歳以上の日本人の8人に1人がかかっていると考えられています。コロナ禍では特に高齢者はより深刻です。健康で長生きをするためには、慢性腎臓病にならないことが重要。予防法や早期発見・早期治療の大切さ、実際にかかってしまったときの食事制限について、東京医科大学病院腎臓内科主任教授の菅野義彦先生に伺いました。

家庭ではできない腎臓病のたんぱく質制限

腎臓病を進行させない治療法として「たんぱく質制限」という食事療法が有名です。これは、患者が自宅で実践するには極めて難しいものです。食材宅配などの便利なサービスはありますが、費用がかかります。コストを抑えた比較的実践しやすい食事療法を教えていただきます。

「腎臓病の治療といえばたんぱく質制限なわけですが、今は少し考え方が変わってきています。たんぱく質制限は、食事のメニューがかなり制限されます。また、たんぱく質制限を苦労して頑張ってもらうほどの効き目は?と問われると、エビデンスが不十分なんですね。本来、たんぱく質を制限する代わりにエネルギー量は摂るというのが絶対条件なのですが、『たんぱく質制限』だけを実行しても、単なる栄養失調食になってしまうんです。それにたんぱく質を減らすと食事が魅力的じゃなくなるんで、食事の量も一気に減ってしまいます。ひと昔前の腎臓病は若い人の病気だったので、多少たんぱく質を減らしても目立った害はなかったんです。しかし、2002年に慢性腎臓病(CKD)の概念が提唱され、高齢者の疾病となった今、エネルギー量が満たせない状態でたんぱく質だけを制限するとどうなるか。筋力低下や虚弱が現れる『サルコペニア』や『フレイル』になり、足腰が立たなくなってしまうのです。体力のない高齢者に対しては、よほどのことがない限りたんぱく制限を強くすすめていないのが現状です」

低たんぱくでエネルギー量の確保もできる、管理栄養士が指導したメニューを作ることができれば、問題はないといいます。

「ただ、食事療法は非常に難しく、低たんぱくでエネルギー不足も補う食事を、毎日実践できる家庭はほとんどないでしょう。『たんぱく質を控えるために肉も、魚も、豆腐もダメ』というだけの中途半端な指導であったら、やらない方がいいわけです。私のところに相談にくる患者さんには『やるんであればきちんとやってください』といっています。もちろん、しっかりできる、どうしてもやりたいという患者さんには、きちんとした指導をしています」

調味料なし生活」が腎臓を救う

たんぱく質制限のような難しさはなく、誰でも簡単に実践できる食の知恵として、菅野先生は「減塩」を提唱しています。

「とにかく塩だけ制限すればいいのです。そうすれば血圧も血糖も一緒に下がっていくことが少なくありません。実のところたんぱく質制限をしてそれが腎臓によい効果をおよぼしていても、血圧や血糖のように検査値が変わるとは限らないですよ。腎臓の悪い人がたんぱく質を制限すると、血中のクレアチニン(体内から発生する老廃物の一種で、腎臓のろ過機能が低下すると増加する)の濃度の数字が下がるかというと、下がらない。頑張って肉や魚を我慢しても、目に見えるような改善が見られないわけです。一方で減塩は塩を減らすだけですから、コストもかからなければ、特別な介護食もいりません。塩だけを控えた普通の食事でいいんです」

一例として、実践可能な減塩のコツを教えてください。

「例えば宅配食やコンビニ弁当に、小さいしょうゆやソースがついていますよね。あれを使わないだけで塩分が1g減ります。また、とんかつなど揚げ物を食べるときにかけるソースをやめるだけでも、1g違います。私たちは習慣的に調味料やドレッシングを使っていますが、料理にはたいてい下味がついているので、薄味に慣れればおいしく食べられます」

患者にいうだけでは説得力がないと、菅野先生自らも減塩を実践し、お刺身やお寿司もしょうゆなしで食べているといいます。

「『調味料なし生活』は、1か月くらいで慣れました。塩分を含まないレモンや山椒などは使えますから、苦になりません。食卓にしょうゆやソースをおかない生活が一番効果的ですね。それでも難しいという方は、外食で定食を注文する際に、漬物やみそ汁を控えるだけで塩分が2g減ります。できる範囲内でやればいいのです。1日6gじゃなくて1週間で40g減らすと考え方を変えれば、継続しやすく、これを1年続けると現在服用している薬の一つや二つ減らすことができるかもしれません。食事に制限をかけるより、日常の中で無理なく塩分を減らすことの方が長続きすると私は考えています。40代、50代の方が、この先40年、50年健康長寿を目指すのであれば、今からこれまでと違う、減塩食に合った味覚に変えていくことが必要です」

【次回】定年後は健康意識の変革で腎臓病と向き合う!に続きます

お話を伺ったのは……



菅野義彦先生
東京医科大学病院腎臓内科主任教授

1991年慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院医学研究科、米国留学、埼玉社会保険病院腎センター、埼玉医科大学腎臓内科、慶應義塾大学医学部血液浄化・透析センターを経て、2013年4月東京医科大学病院腎臓内科主任教授に就任。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘 

 

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