暮らしを豊かに、私らしく

『猫のダヤン』を描いた絵本や旅のエッセイなど、さまざまな作品を発表し続けている作家の池田あきこさん。今年2023年は、『猫のダヤン』の生誕40周年。そんな記念すべき年に、花人日和では今月から4回にわたって、池田さんご自身が日々の暮らしの楽しみを綴った連載エッセイをお届けします。

第1回 ふんわり幸せ=猫との暮らし

文・池田あきこ

家の中に猫がウロウロしている暮らしが続いてもう44、5年になるかしら。父が鉄道員で引っ越しばかりしていたから、子どもの頃は動物を飼うことなんかできなかった。

初めて一緒に暮らした猫はダヤン。叔母が拾った猫で家族との折り合いが悪くなり「あっこちゃん、もらってくれない?」と言われて夫と2人暮らしの家族になった。

ダヤンのモデルとなった
飼い猫ダヤン 

猫って、犬と違って面倒もかからず、適度な距離感。愛情表現も淡々と、通りすがりにしなやかな身体をこちらの脛にさりげなくこすりつけたり、急に伸び上がってしっとり冷たい鼻を押し付けてきたり。布団に滑り込んでくる猫の温もりにふんわりした幸せが胸に込み上げる。そして毎日見ていてもまったく飽きない猫のフォルムや表情の美しさ、面白さ。抱けば、ずっしり持ち重りのするその大きさのなんとちょうどいいこと。

そのうち娘が生まれると、ダヤンは自分より後から来た生き物と思ってか、それとなく守っている様子を見せた。2階で赤ちゃんが泣いているとニャアニャア鳴いて知らせに来る。

ダヤンとダヤンが赤ちゃんを見守る

娘が2歳になった頃、革メーカーのキーショップを自由が丘に開くことになり、私は迷わず看板や包装紙に使うシンボルマークを猫にすることにして、『ダヤン』と名付けた。

自由が丘本店スケッチ
その後今日まで使うようになったダヤンとロゴ

本物のダヤンと模様なんかは違うけど、猫のエッセンスはどの猫も一緒。それから都合9匹の猫と暮らしたけれど、どの猫も性格はさまざまでそこもまた面白い。頭が良くって遊び上手な猫もいれば、ボーッとして頭の中には食べることと寝ることしか詰まっていない猫もいる。

今の家族は、あんちゃんとりんちゃん。あんちゃんは伊勢から、小振りの猫キャリーに入って近鉄と新幹線を乗り継いでうちにやってきた。列車の中で鳴き立てたりしないかな? との心配は杞憂。あんまり静かなので、もしや死んでるんじゃ? と何度もキャリーを覗き込んだほどひっそりした猫で、その性格が今も続いている。臆病者でカタッと物音でもしたなら霞のように姿を消す。普段無口なあんちゃんが唯一大口を開け、ハッキリした口調で「ニャア!」と鳴くのはご飯の時だけ。あんちゃんはほぼ黒の下にうっすら縞が見え隠れ、毛裏が白っぽくて言っちゃ悪いがあまり見栄えのしない猫だった。

りんちゃんとあんちゃん

その頃うちにはチビというオス猫がいて、チビはあんちゃんをそれこそ舐めるように可愛がった。ひとりぼっちでやってきたあんちゃんには幸せなひと時だったけど、そのうちチビが病気になって、ふいに死んでしまった。

チビとあんちゃん。
ふたりは出会い、そして唯一無二の猫になった

「おい、猫をもらいに行くぞ」。夫がそう言い出したのは半年後。高崎で保護猫活動をしている友人からもらってきたのが、りんちゃんだ。大勢いる子猫の中でダントツに顔がかわいくて、フワフワッの毛並み。先住猫のあんちゃんはチビにしてもらったのとまったく同じように、小ちゃなりんちゃんを舐め回し抱きしめて眠った。

まったく同じようにりんちゃんを見守るあんちゃん
車のフロントに乗ってるもらわれ中のりんちゃん

ちっぽけりんちゃんは驚くほどの食いしん坊。自分のご飯をムシャムシャ食べると、隣のご飯に首を突っ込む。優しいあんちゃんはりんちゃんを叱るどころか、身を引いて大事なご飯を譲るのだ。おかげでりんちゃん、あっという間にお姉ちゃんを追い越してムックムクのたぬきになってしまった。

どんどん太るりんちゃん漫画

つい先日、あまりにお尻が汚いので、獣医につれていったら「コリャ、太りすぎだ! 飛び散ったおしっこが毛にこびりついちゃってる」。医者は器用にお尻の周りの毛をバリカンで刈って消毒薬と軟膏をくれ、舐めると効果がなくなるから必ずカラーをつけるよう、言い渡した。猫はカラーが大嫌い。あんちゃんも側に寄らず、りんちゃん落ち込んで寝てばかり。

「絶対痩せなさい!」。誰にとっても辛い状況の中、救いは獣医推薦のダイエット食をりんちゃんが大好きだったことだ。量も減ったまずそうなカリカリをりんちゃんはガツガツ食べて、お姉ちゃんの分も食べようとするから、食事は別々に。甲斐あって、年末には晴れてカラーも外れ、お尻もきれいなピンク色! カラーが取れたりんちゃんをあんちゃんはペロペロ舐めてやり、りんちゃんは自分を舐め回すという平和な光景が我が家に戻ってきたのだった。

池田 あきこ(いけだ・あきこ)
本名池田晶子。東京吉祥寺生まれ。1983年に初めてダヤンを描き、その後ダヤンを主人公とした物語を多数生み出していく。旅をイラストとエッセイでつづったスケッチ紀行のシリーズや教科書の挿絵なども手がけ、幅広く活躍。’96年から笠間日動美術館ほかで「池田あきこ原画展」、’99年春には日本橋高島屋で「猫のダヤン 池田あきこ原画展」を開催、大好評を博す。画集、長編物語、旅のスケッチ紀行シリーズなど作品を多数発表。2023年6月末からは、40周年を迎える猫のダヤンの原画展が全国で開催予定。2023年6月28日から7月10日まで、銀座松屋にて「猫のダヤン40周年記念 池田あきこ原画展ーダヤンの不思議な旅ー」が開催されます。

『猫のダヤン』 40周年特設サイトはこちら
https://www.nekono-dayan.com/40th/


 

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