父が寂しくないように、ただ必死だった

兄は就職を機に実家を離れ、大学生のときから暁子さんは父親と2人暮らしになった。父親が寂しい思いをしないよう、暁子さんは結婚が決まったときも父親と夫との3人暮らしを希望した。

「父と兄との3人暮らしのときから、ふと父親を見ると寂しそうというか、父親が小さく見えるようになったんです。それが母親がいなくなったからなのかもしれないと思うと、いたたまれなくて……。私は父の寂しさが少しでもなくなるように、父に対しての反抗期なんて一切なく、ケンカすることや言い合いになることもなく、いい子でいようと努めました。大学も、就職先も実家から通いやすいところを一番の条件に選んだんです。そして、結婚も。私の家の事情を話して、父と同居してくれる人を選びました」

しかし、父親は娘夫婦との生活を拒否。それでも一緒に暮らそうとする暁子さんに対して父親は疑問を持ったという。

「私が『結婚してもこの家で一緒に暮らしたい』と実家に残ることを伝えると、父親は『お金がないのか? 相手の男に借金があるのか?』と心配してきました。そうじゃないと伝えると、『夫婦2人で暮らしなさい』と言われて。どうしても父親と一緒に暮らしたかった私と、一緒に暮らすことを拒否する父親との話し合いは平行線のままで、押し問答になったんです。そのときに私は『お母さんがいなくなったのは私のせいだから』と言ってしまいました。そうしたら、『お前のせいじゃない。離婚は夫婦2人だけのせいだ』と言い、父は私に謝ってきました。そこで両親が離婚に至った経緯をちゃんと聞いたんです。父はこれまで話さなくてごめんと謝っていました」

暁子さんはその後結婚して、父が暮らす暁子さんの実家から徒歩圏内のマンションで夫婦と子どもとの3人で暮らしている。母親とは離婚時の泣き顔を見たきりで、やっとその泣き顔を思い出さなくなったとのこと。父親とは一定の距離を保ち、良好な関係を続けているという。

暁子さんのように母親から直接暴言を吐かれた場合でなくても、子どもは離婚を含め家庭内で起きていることを自分のせいだと感じてしまうことがある。子どものせいではなく、夫婦の問題で離婚をすることになった経緯をしっかりと伝えることは、子どもが受けた傷を広げないためにも、離婚する夫婦が子どものために一番に取り組むべき大切なことなのだ。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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