東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とする文化プログラムが本格スタート

日本博
スポーツの国際大会に併せて行なわれる文化の祭典としての「日本博」。日本人と自然をテーマに、この機会にしか体験できない豊かな催しが全国各地で始まる。「日本人とは?」を探る旅へ。

美術・文化財

縄文から近代の国宝や重要文化財を、日本の自然と関連させて。
『北斎師弟対決!』 すみだ北斎美術館 2月4日~/葛飾北斎「冨嶽三十六景 御厩川岸より両国橋夕陽見」 すみだ北斎美術館蔵

『北斎師弟対決!』 すみだ北斎美術館 3月17日(予定)~4月5日/葛飾北斎「冨嶽三十六景 御厩川岸より両国橋夕陽見」 すみだ北斎美術館蔵

メディア芸術

新旧テクノロジーと融合した作品や創作、そして体験・共感。
『光と食のアンサンブル2020 〜花宵の宴 Directed by NAKED〜』 京都国立博物館 3月6日~

『光と食のアンサンブル2020 〜花宵の宴 Directed by NAKED〜』 京都国立博物館 (3月6日~15日 中止)

生活文化・文芸・音楽

日常/非日常の生活に涵養される美、ことば、しらべ。
『光と食のアンサンブル2020 〜花宵の宴 Directed by NAKED〜』 京都国立博物館 3月6日~

『三菱創業150周年記念 三菱の至宝展』三菱一号館美術館 7月8日~/国宝〈曜変天目(稲葉天目)〉建窯 南宋時代(12~13世紀)公益財団法人 静嘉堂所蔵

舞台芸術

見る/見られるの関係による一期一会の芸術体験。
『みやざきの神楽』

『みやざきの神楽』

デザイン・ファッション

造形や意匠、常に変わり、再発見されていく流行(ファッション)。
特別展『きもの KIMONO』東京国立博物館 4月14日~/重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館所蔵

特別展『きもの KIMONO』東京国立博物館 4月14日~/重要文化財 小袖 白綾地秋草模様 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館所蔵

共生社会・多文化共生

十人十色や多種多様なあり方に触れ、文化の豊かさを再発見。
『東京2020大会・日本博を契機とした障害者の文化芸術フェスティバル–2020グランドオープニング–』滋賀県びわ湖大津プリンスホテルなど 2月7日~/木村佑介「仏像」(撮影 : 大西暢夫)

『東京2020大会・日本博を契機とした障害者の文化芸術フェスティバル–2020グランドオープニング–』滋賀県びわ湖大津プリンスホテルなど 2月7日~9日/木村佑介「仏像」(撮影 : 大西暢夫)

食文化・自然

日本の自然と人々が育んできた豊かな食文化。
『芸術を生み出す縄文文化体感プログラム』十日町市博物館および笹山遺跡 6月頃~/火焔型土器による調理と試食、祭礼衣服・弓矢体験及び縄文レストラン

『芸術を生み出す縄文文化体感プログラム』十日町市博物館および笹山遺跡 6月頃~/火焔型土器による調理と試食、祭礼衣服・弓矢体験及び縄文レストラン

被災地復興

多種多様な被災地の民俗芸能で、各地の震災復興をアピール。
『東京シシマイコレクション2020プレ ~東日本大震災から復活したシシマイ~』/東京文化財研究所

『東京シシマイコレクション2020プレ ~東日本大震災から復活したシシマイ~』/東京文化財研究所

※上記には、既に行なわれた催しを含みます。今後の関連催事は、「日本博」のウェブサイトをご覧ください

オリンピズムも掲げる文化の祭典

東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機に、日本文化の豊かさを国内はもちろん海外も含めて発信する文化プログラム「日本博」が本格的に始まる。

なぜ、いま日本の文化なのか。この問いの答えは、近代オリンピックの始まりに理由がある。

近代オリンピックは、フランスの教育家ピエール・ド・クーベルタン男爵が提唱したオリンピズムの精神を受け継ぎ運営される。

このオリンピズムの根本原則には、〈オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである。〉という箇所があり、2012年のロンドン大会以降は、スポーツの祭典であると同時に「文化の祭典」という側面にも軸足が置かれている。日本博は、この文化の祭典の中核プログラムであり、今年から本格的に展開されていく。

総合テーマは「日本人と自然」

日本の文化は、多様な風土のなかで人間と自然が心を交わし、共鳴・共感し、美を見つけながら、縄文時代から現代に至る1万年以上の歴史のなかで豊かに育まれてきた。これらを「美術・文化財」「舞台芸術」「メディア芸術」「生活文化・文芸・音楽」「食文化・自然」「デザイン・ファッション」「共生社会・多文化共生」「被災地復興」などのテーマで発信し、次の世代に文化を伝えることを通じて、未来への希望を作っていく。

ここでは、日本博の見どころを『サライ』が厳選して紹介する。

日本博の幕開けの催し 芸術の森・上野で文化の宴

「日本博」は、昨年から段階的に行なわれ、3月14日開催の東京国立博物館前庭の「月雪花に遊ぶ—日本の音と声と舞—」で、本格的に始まる。

この催しは、日本博の開幕を告げる記念式典と記念公演の2部構成。

これに合わせて東京では特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」など、大型の企画展が続々と行なわれる。何か所かを通覧、通観すれば、日本の文化の豊かさや多様さを知ることができる。

「日本博」オープニング・セレモニー

『月雪花に遊ぶ-日本の音と声と舞-』

第一部は『刀剣乱舞』など、第二部は能や歌舞伎などの舞台芸術を。

●3月14日(土)。東京国立博物館 本館前庭、上野公園噴水広場。18時~

※詳細は日本博ウェブサイトをご覧ください。

和食の魅力を再発見、再認識

特別展「和食 ~日本の自然、人々の知恵~」

標本・資料などを用いた科学的解説、高精細映像やデジタルアートの映像演出でわかりやすく解説する。

標本・資料などを用いた科学的解説、高精細映像やデジタルアートの映像演出でわかりやすく解説する。

ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」の魅力を、「自然と食材」や「技術や調理法」など多角的な視点で紹介する。

●3月17日(火)(予定)~6月14日(日)。国立科学博物館。

※詳細は展覧会ウェブサイトをご覧下さい。

法隆寺の美と文化財の保護

特別展「法隆寺金堂壁画と百済観音」

国宝 観音菩薩立像(百済観音)飛鳥時代・7世紀 法隆寺蔵 写真:飛鳥園

国宝 観音菩薩立像(百済観音)飛鳥時代・7世紀 法隆寺蔵 写真:飛鳥園

今年は文化財保護法成立から70周年。これと深く関わりのある法隆寺の国宝などを展示。

●3月17日(火)~5月10日(日)。東京国立博物館・本館 特別4室、特別5室。

 

歌舞伎と文楽で楽しむ「通し狂言 義経千本桜」

文楽と歌舞伎 同一演目で見較べられる『義経千本桜』が実現

「日本博」のなかでも一際、話題を集めそうなのが『義経千本桜』の歌舞伎と文楽での上演。

『義経千本桜』は、1747年(延享4)11月に人形浄瑠璃として大坂竹本座初演で、翌年には歌舞伎に移され、両方で代表的な人気演目となる。九郎判官源義経の稗史や伝説などに取材した「判官物」の代表作のひとつ。

今回、尾上菊之助さんが、忠信、知盛、権太の三役に挑む。

公演に先立って記者会見をした尾上菊之助さんは、この公演について「『義経千本桜』で三役を勤めることは子どもの頃からの夢だった」としたうえで、次のように見どころを紹介してくれた。

「『義経千本桜』は、普遍的なテーマを扱っています。それは、人間が行なったことが自分に返ってくるという人間の業です。勝利者ではない知盛や義経のような敗者や追われる者の物語として描かれる。こういうところは現代の映画作品などでも扱われているテーマなので、お客様にもご納得いただけると思います」

なお、この歌舞伎と文楽の公演と同時期に、日本の伝統芸能を体験しながら楽しめる催しも、東京国立博物館で行なわれる。こちらにも、ぜひ足を運んでいただきたい。

五代目 尾上菊之助 1977年生まれ。父は歌舞伎俳優の七代目尾上菊五郎、母は女優の富司純子、岳父は歌舞伎俳優の二代目中村吉右衛門。長男は、2019年5月に歌舞伎座で七代目尾上丑之助を名乗り、初舞台。撮影/松田麻紀

五代目 尾上菊之助
1977年生まれ。父は歌舞伎俳優の七代目尾上菊五郎、母は女優の富司純子、岳父は歌舞伎俳優の二代目中村吉右衛門。長男は、2019年5月に歌舞伎座で七代目尾上丑之助を名乗り、初舞台。撮影/松田麻紀

尾上菊之助さんが、三役完演に初挑戦

歌舞伎公演「通し狂言 義経千本桜」

二段目「渡海屋」の新中納言知盛。

二段目「渡海屋」の新中納言知盛。

三段目「鮓屋」のいがみの権太。

三段目「鮓屋」のいがみの権太。

1747年11月、大坂竹本座で人形浄瑠璃で初演され、翌年歌舞伎でも上演された『義経千本桜』。主人公の忠信、知盛、権太の三役完演に尾上菊之助さんが初挑戦。

●3月16日(月)(予定)~26日(木)国立劇場小劇場。

※詳細は国立劇場ウェブサイトをご覧下さい。

人形浄瑠璃でも『義経千本桜』

文楽公演「通し狂言 義経千本桜」

『義経千本桜』大物浦の段。撮影:二階堂健

『義経千本桜』大物浦の段。撮影:二階堂健

人形浄瑠璃の三大名作のひとつ『義経千本桜』の本格通し公演が東京・大阪で行なわれる。

●4月4日(土)~26日(日)※15日は休演。国立文楽劇場(大阪)。

●5月9日(土)~25日(月)国立劇場小劇場(東京)。

伝統芸能の世界を体験できる展覧会

ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感!日本の伝統芸能―歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界―」ユネスコ無形文化遺産 特別展「体感!日本の伝統芸能―歌舞伎・文楽・能楽・雅楽・組踊の世界―」

歌舞伎、文楽、能楽、雅楽、組踊の世界をまるごと体感できる体験型展覧会。再現舞台に衣裳・小道具など盛りだくさん。

●3月17日(火)(予定)~5月24日(日)。東京国立博物館表慶館。

※詳細は展覧会ウェブサイトをご覧下さい。

『サライ』が注目した日本博の主な催し

「日本博」は、この春から全国各地で本格的な取り組みが始まる。日本の文化の魅力を探す旅に出かけたい。

京都にゆかりのある国宝と、皇室の名宝

特別展「京の国宝―守り伝える日本のたから―」

国宝 木造梵天坐像 平安時代 教王護国寺蔵(提供:便利堂)

国宝 木造梵天坐像 平安時代 教王護国寺蔵(提供:便利堂)

奈良時代から江戸時代の京都ゆかりの国宝と、京都と関係の深い皇室の名宝を集めた展覧会。文化財を残し、伝える取り組みにも注目。

●4月28日(火)~6月21日(日)。京都市京セラ美術館 本館北回廊2階。

西国三十三所の観音信仰の至宝

西国三十三所 草創1300年記念 特別展「聖地をたずねて -西国三十三所の信仰と至宝-」

不空羂索観音坐像 鎌倉時代(13世紀)京都国立博物館蔵

不空羂索観音坐像 鎌倉時代(13世紀)京都国立博物館蔵

日本最古の巡礼路で、総距離約1000㎞におよぶ「西国三十三所」。各札所の国宝、重要文化財など観音信仰とともに伝えられた至宝を公開。

●4月11日(土)~5月31日(日)。京都国立博物館。

江戸から続く素人役者の地歌舞伎が勢揃い

清流の国ぎふ2020地歌舞伎勢揃い公演

堂に入った迫力ある演技、観客との一体感が醍醐味だ。

堂に入った迫力ある演技、観客との一体感が醍醐味だ。

江戸期より伝わる地歌舞伎が今なお盛んな「地歌舞伎大国・岐阜」。各地で受け継がれる地歌舞伎の魅力を堪能したい。

●4月~7月。ぎふ清流文化プラザ。

ウポポイなどで、イランカラプテ

アイヌ文化魅力発信プロジェクト~アイヌが歩む。アイヌと歩む。~

文化庁提供

文化庁提供

アイヌ文化の魅力を「民族共生象徴空間(ウポポイ)や北海道各地で発信。アイヌ語のあいさつ「イランカラプテ(こんにちは)」で触れ合いたい。

●10月頃。ウポポイ、北海道各地。

琉球王朝の美次の100年に向け

沖縄の伝統芸能・ユネスコ無形文化遺産「組踊」~300周年の誇りを世界に~琉球王朝の美~組踊と琉球舞踊、その継承と発信~

研究公演「御冠船踊と組踊」

研究公演「御冠船踊と組踊」

昨年は組踊上演300周年。次の100年を見据えて3月には新作組踊『春時雨』を上演する。また8月には参加型の組踊、11月は多言語上演を実施。

●3月21日(土)、8月15日(土)、11月21日(土)。国立劇場おきなわ。

日本博は全国各地で参加型プログラムに注目

既に触れたとおり、「日本博」は、今年を中核に日本の文化を国内や国外に発信していく。これを通じて人々の交流が促され、世界の多様性の尊重や人類共通の願いが再認識されること、さらには訪日外国人を含む人々が全国各地へ足を運ぶことが期待される。

「日本博」の催事であることを意識せずに足を運んだ際も、「日本人と自然」や、縄文から現代への文化の継承などのテーマを意識すると、理解が深まるはず。

多くの催しが体験型プログラムを用意しているのも特徴のひとつ。「見る」「聞く」だけでなく、参加して楽しむのがおすすめだ。

今年は、日本の文化を再発見する好機です

人間は、感情や美意識などの心を芸術などの文化として伝えています。国宝などの文化財は、人の生命に直接関わるものではありませんが、そうしたものに表現された文化なしには人間らしい営みはできません。

文化庁長官の宮田亮平氏。東京藝術大学学長を経て、現職。金工作家として現在も作品作りをする。

文化庁長官の宮田亮平氏。東京藝術大学学長を経て、現職。金工作家として現在も作品作りをする。

今後の日本博の催しは、公式サイトへアクセス

「日本博」は、今後も全国各地で次々と新しい取り組みが公表されていく。最新情報は公式サイトで順次公開される。地域や開催時期で探せるので、重宝するはずだ。

https://www.ntj.jac.go.jp/nihonhaku

 

beyond2020beyond2020は、日本文化の魅力を発信し、2020年以降も受け継がれる文化を応援する文化庁のプログラム。「伝承の心」は、日本文化の豊かさや魅力を紹介する『サライ』の取り組みです。

 

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