中米に位置しながら生活水準が高く、平和な国コスタリカ。安定的な経済成長により首都サン・ホセ近郊の人口が増加する一方で、住宅に農園を侵食されてしまったコーヒー産地もある。
首都から程近い産地セントラル・バリーも都市化が進んでいるが、そこでまけじと孤軍奮闘するのがブルマス農園主のフアン・ラモンさんだ。
住宅地の中に農園と豆の処理場が位置する他にはない環境下で研究を重ね、本年度のカップ・オブ・エクセレンス(各産地の最高のスペシャルティコーヒーを選出する品評会)で第1位を獲得した。
中米南部に位置する共和制国家。軍隊不保持で教育や福祉などの制度も整っている。熱帯雨林がありエコツアーも有名。
「セントラル・バリーは標高1500m程度。もっと田舎に行くと1800m級の産地があり、良質なフレーバーを有する豆がたくさん採れます。それで昔は評判の高かったセントラル・バリーは、終わりとまではいかないがトップの座は譲った、というのが専らの噂でした」と話すのは、年間140日以上、世界の各産地に足を運ぶ、丸山珈琲の丸山健太郎さん。では、どうやって起死回生したのか。
「ラモンさんはホンジュラスの有名な農業大学を出た農業博士。とても勉強家で、肥料や収穫のタイミング、ロットのセレクションなどに多くのエネルギーを費やし、最良の豆を生み出した。標高の高さなど素質で育てる他の産地に、努力と技術で勝った。匠の技で勝ち得たのです」(丸山さん)
1位を獲得した瞬間、品評会会場は驚きと感激の渦に。彼の努力を知る多くの生産者が共に涙した。
やや深煎りのコスタリカ・ブルマスは、エスプレッソとしても楽しめる。重厚な味わいで、香り高く、チョコレートの風味が際立つ。
「ラモンさんの人柄ですね。頭がいいことを鼻にかけない。丸山珈琲も2004年ごろから買い付けていますが、訪問するたびに彼の心意気に胸が熱くなります。今回1位を獲得した豆はカトゥーラという品種で、代表的な品種であるブルボンの矮小種。彼に似て(笑)ずんぐりむっくりとした豆で、情熱がたっぷり入っているせいか密度が濃く、他の豆より焙煎に時間がかかります。チョコレートの風味をいかし、少し深煎りにして味わいたい」と丸山さん。
コーヒーは老木になると剪定して若返りを図るのが通例だが、ラモンさんは丸ごと抜いて植え替える。新しい木は収穫までに3年ほどかかるため、他の生産者は二の足を踏む手段だ。また、肥料の実験も繰り返し行なっているという。
北緯8〜11度の熱帯に位置し、地球上の生物の約5%が棲息しているといわれ、国策としてエコツーリズムを促進しているコスタリカ。この国の最高品質コーヒーをじっくり味わってみたい。
コスタリカ・ブルマス
アン・ラモンさんの農園で生産される豆。どっしりとした中にミルクチョコレートのニュアンスがあり、やや深煎りにすると風味がいきる。ナッツ系の香りで酸も強くなく、飲みやすいと人気の銘柄。100g788円から。
丸山珈琲
電話番号:0267・26・5556
ウェブサイト:http://www.maruyamacoffee.com/
取材・文/須永久美 撮影/中村文隆、中山ノリ
※本記事は『サライ増刊 男のだいどこ』2012 秋号に掲載されたものです。
※記事の内容は掲載当時の情報です。