文/中村康宏

認知症や高血圧の予防にも万能?! スーパーフード「ビーツ」に注目

「ビーツ」という野菜をご存知でしょうか? 「食べたことがない」という方もいらっしゃると思いますが、実はビーツは栄養素が豊富で、さまざまな効能が期待できる“スーパーフード”なのです。ビーツは日本ではあまり馴染みのない野菜ですが、欧米では長い歴史のある野菜で、煮込み料理やサラダの彩りにと、日常的に使われています。例えば、ロシア料理の代表格“ボルシチ”には欠かせない野菜です。そんなビーツが“スーパーフード”たる所以を解説します。

■ビーツの糖分にはカラダに嬉しい効果がたくさん

ビーツは野菜としても食べられていますが、日本では「サトウ大根」というビーツの別名の方が、馴染みがあるかもしれません。砂糖の原料として北海道などで盛んに栽培されています。ビーツが砂糖の原料になっていると聞くと、「糖質が高そう」「健康にあまり良くない野菜なのでは!?」と思ってしまいますよね。しかし、ビーツの糖質量は100g中7.3g(熱湯加熱後)。他の糖質が高めな野菜と比べてみると、100g中の糖質量はカボチャが17.1g、レンコンが13.5gと、ビーツの糖質量はそこまで多くないことがわかります。(※1)

また、ビーツから作られる砂糖には、上白糖やグラニュー糖に比べ、以下のようなさまざまな健康に嬉しい特徴があります。

(1)カリウムやカルシウムなど天然のミネラルが多く含まれている

(2)ビフィズス菌など良い菌の栄養源になると言われる天然の“オリゴ糖”が5%以上含まれていて、おなかに嬉しい効果が期待できる

(3)ビーツから作られる砂糖のGI値は「65」と低く、血糖値が上がりにくい(白砂糖のGI値:109、グラニュー糖のGI値:110と比較すると一目瞭然)

次に、野菜としてのビーツについて見ていきましょう。これまでの研究で、ビーツには強力な抗酸化作用抗炎症作用、血管を保護し血行を改善する作用、運動パフォーマンスを高める作用など、さまざまな健康に良い効果があることがわかっています。(※2)ビーツはまさに“スーパーフード”であると言えるでしょう。

<抗酸化作用>

ビーツの特徴と言えば鮮やかな赤色です。この赤い色は“ベタレイン”という成分で、アントシアニン系の色素です。ベタレインは植物四大色素の一つであり、アカザ科やヒユ科など限られた一部の植物に含まれます。(※3)このベタレインにはとても強い抗酸化作用があります。その抗酸化作用の強さは、抗酸化素材として知られるカテキンやトマト、赤ブドウなどの抗酸化力を凌駕しています。(※4)

<パフォーマンスの向上>

ベタレインは強い抗酸化作用だけではなく、血行改善に役立つ「窒素」の源である“硝酸塩”を豊富に含んでいます。ベタレインによって供給された硝酸塩は体内で窒素に変換されるのですが、窒素には血管をやわらかく拡げやすくし、血行を改善する作用があります。そのため、ビーツは高血圧の改善に効果的であることがわかっています。(※4)血圧を低下させ、血管を保護し、血栓の予防、冷えの改善にも役立つほか、運動パフォーマンスの向上にも効果があることが報告されています。これは、窒素の血管拡張作用によって血流が増加し、細胞内のエネルギー産生工場であるミトコンドリアへの酸素の供給も増加することで、エネルギーが作られやすくなるからです。また、食事から硝酸塩を摂取すると、筋力の増強につながるということもわかっています。(※2)

実際に、アメリカでサイクリング選手を対象とした研究があります。選手を2つのグループに分け、片方にはベタレインを豊富に含むビーツのサプリメントを投与し、もう片方には投与しませんでした。その結果、ビーツサプリメントの投与を行なった群ではパワー、運動効率、運動後の血流量に改善が見られました。(※5)

<抗炎症作用>

また、ビーツには高い抗炎症作用も期待されています。ビーツジュースを飲むと、抗酸化能が上昇し、体内の炎症が減少したという報告もあります。(※6)この研究では、被験者に250mLのフレッシュビーツジュースを2週間飲んでもらいました。その後で(CRPやTNF-αなどの)体内の炎症を示す数値が測定したところ、顕著な減少が見られました。

〈高血圧や認知症予防効果も〉

ビーツには葉酸やカリウムも豊富に含まれます。葉酸は赤血球の形成を助けるため造血や細胞増殖に必要とされ、認知症の予防にも効果があると言われています。カリウムはナトリウムを排出し、高血圧の予防に有効です。(※2)

【ビーツの食べ方】

それでは、ビーツはどのように食べれば良いのでしょうか?

ビーツは基本的には火を通してから食べます。ゆでる際に美しい赤色が流れ出てしまわないように、皮ごとゆでるのが原則です。皮をむいた後は、煮込み料理、サラダ、ピクルスや付け合わせとして美味しくいただけます。最近では下処理をしたビーツやビーツの缶詰が売られているスーパーマーケットもあり、すぐに使えて便利です。また、インターネットで探せばビーツのジュースを購入することもできます。ぜひ皆さんの食卓に取り入れてみてください。

以上、栄養素が豊富で、さまざまな効能が期待できるスーパーフード「ビーツ」について解説しました。ビーツには強力な抗酸化作用抗炎症作用、血管を保護し血行を改善する作用、運動パフォーマンスを高める作用など、さまざまな健康に良い効果があることがわかっています。また、砂糖としてのビーツには、血糖値が上がりにくく、ミネラルやオリゴ糖を含むため健康に優しいのが特徴です。あまり馴染みがないという方も、最近では手軽に入手可能ですので、ぜひ食卓に取り入れてみてください。

【参考文献】
※1 吉田企世子『色の野菜の栄養事典』2017
※2 Health and Disease Nutrients 2015: 7; 2801-22
※3 日本植物生理学会年会講演要旨集 2009; 884
※4 Physiol Rep 2018: 6
※5 Eur J Appl Physiol 2018: 118; 2465-76
※6 J Hum Hypertens 2016: 30; 627-32

文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。近著に「HEALTH LITERACY NYセレブたちがパフォーマンスを最大に上げるためにやっていること」(主婦の友社刊)がある。

HEALTH LITERACY NYセレブたちがパフォーマンスを最大に上げるためにやっていること

http://shufunotomo.hondana.jp/book/b454468.html

【クリニック情報】
虎の門中村康宏クリニック
ホームページ:http://tnyc.tokyo
住所:東京都港区虎ノ門3-22-14日本FLP虎ノ門ビル12階
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【お問い合わせ・ご予約】
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