文/松村むつみ

自分の身は自分で守る!|乳がん検診はどれを選ぶべき?

女性の罹患率一位は、乳がん

日本において近年、乳がんにかかる女性が増加の一途を辿っています。
2018年度の罹患数予測は86,500人で、女性のがんでは罹患率1位(1)。ただ、死亡数予測は14,800人(女性がんの5位)(1)で、罹患数とは開きがあり、早期に発見されれば比較的、治癒の望みやすいがんでもあります。

乳がんは小さなうちに発見すれば、手術と放射線療法、ホルモン療法などを組み合わせることで、完治が望めます。大腸がんなどと並んで、「検診が有効とされるがん」のひとつなのです。ただ、わが国では検診の受診率が高いとはいえず、いかに高くしていくかが課題となっています。

過剰な検診が問題にも

一方で、最近では「過剰診断」が話題になっています(2)。検診により、がんが疑われるけれど、がんでない例および、早期のがんで、まだ治療が必要ないもの。これらに対し、過剰な検査や治療が行われる事態も起こっています。

過剰な検査は、生存率の上昇に効果が無いばかりか、逆に受診者の負担を増やしたり、放射線の被曝を増やす結果になっています。
検診は、回数が多ければいいというものではありません。勤務先の都合などで、検診を受けたらまた半年後に検診を受けるというケースもありますが、これは効果がありません。1回とばして、一年半後の検診でも一般的には問題はありません。

また、無駄な検査のひとつに、「腫瘍マーカー」が挙げられます。企業検診のオプションになっていることが多いと思いますが、女性の場合、ほとんど早期発見はできません。相当、進行しているがんでないと値の上昇が見られないので、画像の検査を受けて問題ないのであれば、追加料金を支払ってまで受ける意味はほとんどありません。(「腫瘍マーカー」検査の中で、スクリーニングの意義があるのは、前立腺がんのPSAのみです。しかしこれも議論は分かれています)。

40歳以上にはマンモグラフィがオススメ、ただし「高濃度乳房」に注意

乳がんの画像検診として行われているものに「マンモグラフィ」「超音波」の2つがあります。このうちマンモグラフィは、自治体が一部費用を負担する「公的検診」が広く普及しており、40歳以上は、2年に1回、公費の補助で受けることができます。超音波検査は、企業検診や人間ドックのコースで選択できます。さらに一部の人間ドックでは、MRIによる検診も行われています。

1)40歳以上は、マンモグラフィがお勧め

40歳以上では、現在のところ、乳がん死亡率を減らせる(エビデンスのある)検診はマンモグラフィとされています。これには異論もあるようですが、現在のところ、ベストな検査と考えられています。ただ、乳腺の量が多く、乳がんがかくれやすい「高濃度乳房」の場合は、正しく診断できる確率が下がってしまいます。検診の結果説明のときに、自分が「高濃度乳房」かどうか、医師に確認してみるのもいいかもしれません。「高濃度乳房」の場合、検診で異常が無くても、しこりが気になったら、すぐに病院を受診しましょう。

2)30代以下には、超音波検査が有用な可能性

乳がんは、20〜30代の若い人でも発症することがあります。若い人に対して、マンモグラフィはがんを見つけるメリットよりも、被曝などのデメリットが大きくなる可能性があります。
しかし超音波検査は被曝がなく、痛みもありません。また、若い人に多い「高濃度乳房」であっても、がんを見つけることができます。こう書くと、いいことずくめのようですが、欠点は「見つけられるかどうかが、技師の『腕』にかかってくる」というところ。それでも、40歳以下の方で、肉親に乳がんなどがあり任意型検診を希望される場合や、マンモグラフィで高濃度乳房と言われた方は、超音波検査を選んでみるのもひとつの選択肢です。

3)乳がんにMRIやPET検査は必要?

MRI検診は、「ハイリスクグループ」の人のみ行うようにガイドラインでは勧められています(3)。「ハイリスクグループ」とは、遺伝性がんが疑われる人々のことで、検診というよりは、高度に専門性のある病院で経過観察してもらう際に受ける検査と考えた方がよく、今のところ、自己判断で受けるような検査ではありません。また、PET検査も、内部被曝をすることもあり、乳がんの検診としては一般的ではありません。

適切な検診受診によって、早期発見を心がける

乳がんにかかる女性は増加の一途を辿っていますが、適切な検診で発見されれば治癒が望めます。賢く検診を活用していきましょう。

【参考資料】
(1)国立がん研究センター がん情報サービス
(2) Welch et al. “Breast-Cancer Tumor Size, Overdiagnosis, and Mammography Screening Effectiveness.” N Engl J Med 2016;375:1438-47.
DOI: 10.1056/NEJMoa1600249
(3)乳癌診療ガイドライン2 検診・疫学編 2018年版

松村むつみ文/松村むつみ 放射線診断専門医 核医学専門医 日本乳癌学会認定医 医学博士
1977年 愛知県生まれ。2003年名古屋大学医学部医学科卒。国立国際医療研究センターにて初期研修。外科医を経て、2009年 より横浜市立大学にて乳房画像診断、PETを中心に画像診断を習得。2017年より、フリーランスの画像診断医となり、神奈川県内の大学病院や、複数の病院で、乳腺や分子イメージングを中心に画像診断を行う。医師業の傍ら、医療ジャーナリストとして、医療制度やがん、日本の医療の未来を中心とした記事の執筆も行う。プライベートでは、非医療職の夫、2人の子どもがいるワーキングマザー。

 

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