思いがけず急に2日間の休暇が取れたら、どうするだろう? 家にいるのも面白くないし、せっかくなら夫婦でどこかへ行ってみたいが、とはいえ今からどこか旅行先を検討し手配するのもなんとなく億劫だ。遠くへ行って帰ってくれば、それだけで逆に疲れてしまいそう。近場でゆったりと休日を過ごせるところはないか……。

そんなときに選択肢としてアリなのが、都心のホテルに泊まること。それも、できれば滞在をゆったり楽しめる、コンパクトで静かなホテルであれば好適だ。

ということで、今回は『サライ』読者でもある加賀辰一さん(57歳)と知哉子さん(54歳)ご夫婦に、東京都港区にある『ホテル ザ セレスティン東京芝』に1泊してもらった。

ともに別の仕事をもつ共働きのご夫婦。スキーが共通の趣味で、「スイスのツェルマットで、スイスとイタリアをスキー板でまたいで国境を越えたことが印象深い旅の思い出です」と知哉子さんが語るように、仕事の合間を見つけては、しばしば2人で旅行やクルーズにも出かけるという。

『ホテル ザ セレスティン東京芝』については、「知る人ぞ知る良いホテル」との知人の評判を聞いて気になっていたそう。「前日から楽しみでしかたなかった」と顔をほころばせて現地へとやってきた知哉子さん。「今日は妻が主役ですから」と語る謙虚な辰一さん。そんなご夫婦の、リアルな“都心の休日”をご紹介していこう。

*  *  *

某月某日の午後3時。地下鉄三田線の「芝公園」駅の2番出口から、ビジネスマンが行き交う都心の街を数分歩くだけで『ホテル ザ セレスティン東京芝』に到着する。「こんなところにホテルがあるのね」と奥様も意外な思い。

「じつは昔、薩摩藩の屋敷があったところなんだそうだよ」と事前リサーチの成果を披露するご主人の辰一さん。「へえ、そうなのね!」今年はNHKの大河ドラマを楽しみに見ている奥様にとって、一気に関心をかきたてる情報であったようだ。

ビジネス街から一歩館内に踏み入ると、別世界がひろがっている。高い天井、木をふんだんに配した落ち着く空間。エントランスの壁には薩摩切子を模した大壁面「KIRIKO WALL」が広がる。

「お、ここにも島津の丸十字だ」ロビーの広い空間を柔らかく区切っている間仕切り「KOMMON SCREEN」の模様を、ご主人が目ざとく見つけて奥様に教える。このように館内には、薩摩藩にまつわるモチーフが随所に施され、この地の歴史的な背景を言外に醸し出している。

煌めくシャンデリアも分厚い絨毯もない。けっして豪華ではないが、落ち着いた品位を感じるシンプルな空間と調度品に、不思議な心地よさを感じる二人であった。

そしてフロントでチェックイン。スタッフに荷物を預けて一緒に客室へと向かう。

エレベーターで14階へ移動。ホテルは14~17階の4階部分のみで、エレベーターの利用にはカードキーのタッチが必要となる。まさに宿泊者のためだけの高層階ホテルなのだ。セキュリティも万全だ。

14階でエレベーターを降りると、正面には木をふんだんに配したゲストラウンジが広がる。そこは宿泊客だけが利用できる特別な空間。その先には、光が降り注ぐパティオも見える。ラウンジのそこここで、新聞を読んだり、会話を楽しんだり、他の宿泊客がのんびり思い思いに過ごしているのを眺めてから、部屋へと向かう二人。「あとであそこで何か飲みましょう」「おお、いいね!」

宿泊する部屋は、同じ14階の角部屋のツインルーム「セレスティンコーナーツイン」。広く取られた窓のカーテンを開けると、遠く東京湾まで見渡せる、見事な眺望がひろがる。「これは凄いな」「すてきね!」しばし窓外の眺めに見とれる二人。

部屋には140cm幅のゆったりしたベッドが2台、窓外の展望が楽しめるように配置してある。

なお『ホテル ザ セレスティン東京芝』には、セレスティンコーナーツインを、世界三大織物のひとつである「大島紬(おおしまつむぎ)」のインテリアでアレンジした特別な部屋「つむぎ」もある。鹿児島の伝統工芸のひとつである本場大島紬を、クッションやヘッドボードなどに大胆に取り入れた。

ゆったりとしたカジュアルウェアに着替えた二人は、客室を出て、さっそく先ほど通りがかったゲストラウンジへと向かう。ラウンジの入り口でコンシェルジュがご挨拶。「ようこそいらっしゃいました。なにかございましたらお尋ねください」「ありがとう、とりあえずのんびりさせていただきます」

シックなインテリアで統一された室内には、座り心地のよい椅子や机が配され、自由に腰掛けてくつろげる。

ライブラリーコーナーには、日本文化や工芸に関する書籍が並べられていて、自由に手に取って眺めることができる。

ドリンクコーナーもあり、好きな飲み物がいただける。

「外にも行ってみましょう!」奥様にうながされるままドアを開けて屋外のパティオへ。スペイン風の柱が並ぶその先に、ウッドデッキとテーブルが並ぶ。

「すてき、まさにスペインのパティオ(中庭)みたい」とよろこぶ奥様。地上14階にこんな極上空間が広がっているとは、外を歩くビジネスマンは知るよしもないだろう。和とスペインの雰囲気が絶妙にマッチした空中庭園で、テーブルに腰掛けて、お茶を飲みながらしばしのんびり。吹き渡る風が心地よい。

あれこれ話をしているうちに、あっという間に時は過ぎ、時刻はそろそろ17:00。奥様のためにスパを予約しておいたご主人に促され、二人は同じ14階にある「SPA AMUSTAS(スパ アマスタス)へと向かう。

引き戸を開けると、木につつまれたやわらかな空間が奥へと誘う。

受付を済ませ、奥の部屋へ向かう。手前が一人用のシングルルーム、奥が広々した2人用のカップルルームだ。

「せっかくだから、あなたも試してみない?」と誘う奥様。俺はいいよ、といいながら、好奇心が頭をもたげる。「ちょうど空いているので、よろしければご主人様もご一緒にいかがですか?」とスタッフに促されると、「うーむ、では、せっかくだから」とご主人もリラックス ボディトリートメント「The Amustas 60分」にトライしてみることに。夫婦二人並んでの、優雅な癒しの時が流れる。

コースが終了して部屋に戻ると、窓外に暮れゆく東京の夕景色がひろがっていた。「東京ってのも、綺麗なものだ」と、つい見とれてしまう。

「アロママッサージ、気持ちよかったわね!」と奥様。「なかなかいいものだな。気持ちよくてつい眠ってしまったよ。ああいうところは女性のためと思っていたけれど、そんなこともないんだな。なんだか病みつきになりそうだよ」と照れるご主人。さあ、着替えてディナーへ出発だ。

19:00から、予約していた1階のレストラン『ラ プルーズ東京』でディナー。天井の高い、開放的な空間が心地よい。

まずはシャンパンで乾杯する二人。「次は焼酎にしようかな」と、お酒が好きな知哉子さんは笑顔でリストを眺めていた。

シェフが腕によりをかけた美味が次々に供される。鹿児島にゆかりの食材や料理もならぶ。「ボリューム満点だな」と、食いしん坊のご主人も満足げだ。

※コースの料理は日替わりです。

食事を終えて、部屋に帰ろうとロビーに向かう二人。途中の通路に展示されている「大島紬」の着物に目が留まる。「素敵な柄だわ」と眼を細める奥様に、説明プレートを読んだご主人が「かなり歴史のあるものらしいぞ」と教える。

ロビーに戻った二人だが、その一画にあるバーカウンターが気になる。日が落ちて、仄かにライトアップされた空間がなんとも雰囲気がよく魅力的。「せっかくだから、もう一杯!」と歩み寄る知哉子さん。やや呆れつつ「はいはい」と後を付いていくご主人。

カフェ&バーラウンジ『セレクロワ』のカウンターに腰掛けた二人に、バーテンダーが語りかける。「じつはこの近くで、100年ぶりに復活した酒蔵があるんです」との説明に驚く二人。その酒蔵の酒「江戸開城」のボトルを見せてもらう。

「幕末の島津藩主だった島津斉彬(しまずなりあきら)公ゆかりの焼酎もあります」と出されたのは、「思無邪(しむじゃ)」という名の芋焼酎。「“思い邪(よこしま)無し”と読みます。斉彬公の座右の銘だったそうです」という説明に関心しきり。そして、この焼酎を使った2種類のオリジナルカクテルをいただくことに。

「ご主人様には、男性むけに柚子の香りを効かせたドライなカクテルを、奥様には香りのある炭酸を使った飲みやすく爽やかなカクテルをご用意しました」

お互いに飲み比べて味の違いを楽しみつつ、話題は幕末のことから、大河ドラマの好きなシーンや配役へ。夫婦の何気ない会話が続いていく。いつも家ではこんなに話さないのに、なぜか今日は次々と話がはずむ。

ほろ酔い心地で部屋に戻る。窓の外には煌めくような東京の夜景がひろがる。遠くで光る観覧車のネオンが、まるで打ち上げ花火のようにも見える。あえて部屋の灯りを落として、思う存分眺めるうち、夜はふけていった。

*  *  *

翌朝。いつもより早く目覚めた二人。窓外には朝の光が街を満たし、遠く東京湾のレインボーブリッジまで輝かせている。

朝食まではまだ時間がある。ご主人はスポーツウェアに着替えてスニーカーをもって、同じ14階にあるフィットネスルームへ。

カードキーを使って部屋に入る。光あふれるパティオに面した大きなガラス窓に向かって、6台のランニングマシーンが並ぶ。

先客の白人男性がひとり、マシンの上で走っている。軽く目で会釈をして、辰一さんも走り始める。汗が流れ、体が目覚めるのを感じる。

軽く走ってから、部屋へと戻る。「腹減ったな」「朝ご飯に行きましょう!」

 7:00、1階のレストランでビュッフェスタイルの朝食。和洋のフードがならぶなか、奄美大島名物の鶏飯(けいはん)やその他、鹿児島に縁の食事が並んでいるのも面白い。

毎朝工場から直送されるという、名店メゾンカイザーの美味しそうな焼きたてパンも並ぶ。

取り皿も薩摩焼のような渋い色味でご主人の好み。奥様はシェフズ・カウンターで、コックさんに卵を焼いてもらう。

夜は気がつかなかったが、天井近くには大島紬が巡らせてある。「細かい所まで徹底しているなあ」と感心するご主人。めいめい好きなものをとって席へ。朝の光の降り注ぐ席でゆっくりといただく。ここが都心とは信じられない思いだ。

食後は腹ごなしに近くを散歩することに。ホテルを出て芝公園のほうへと歩く。

まだ外は涼しい。平日の朝、会社へと急ぐビジネスマンの間を夫婦ならんで逆方向に歩くのは、なんともおかしな感じだ。ある意味、非日常感とはこういうことではないか。それぞれ仕事をもつ二人にとって、休暇の有難み(とささやかな優越感)を感じる瞬間でもある。

ホテルの裏手には「芝さつまの道」というエリアがあり、江戸幕末や薩摩藩の旧跡に関するモニュメントや展示が並ぶ。ご主人は案内板を前に、幕末の歴史について予習の成果を奥様に披露。

隣接するNEC本社ビルの脇には、薩摩屋敷跡の石碑がひっそりと佇む。“西郷吉之助(隆盛)書”の字に目を留めたご主人。歴史上の偉人の筆跡を興味深く眺める二人であった。

信号を渡って首都高の下をくぐると、緑溢れる芝公園エリアに入る。

さらに道沿いに歩いていくと、芝東照宮。軽くお参りして、さらに先へ進めば、ぽっかり広々とした芝生が広がる。視線の先には、東京タワーが雄渾にそびえ立つ。平日の朝の公園は、なんだか現実離れしているようだ。

さらに歩くと、趣ある土屏の先に、歴史と風格あふれる「大本山 増上寺」に出る。徳川将軍家ゆかりの由緒ある古刹だ。

通りに面した巨大な三門(三解脱門)をくぐり、広く気持ちよい境内をしばし散策して、ベンチで休憩。やがてまた三門をくぐって、一路『ホテル ザ セレスティン東京芝』へと戻る。所要40分程度の短い散策ではあったが、歴史と緑あふれる都心のオアシスを二人でゆったりと歩くことができて、大満足の様子だ。

散策を終えて部屋に戻り、荷物をあらかた片付けまとめてしまえば、あとはチェックアウトまでぽっかり白紙の時間。ゲストラウンジに行き、コーヒーをいれて、テラス席に腰掛ける。何気ない会話を交わし、そしてそれぞれ自分の世界へ。ご主人は文庫本を片手に長いすに寝そべって読書、奥様は室内で備え付けの画集を眺める。

チェックアウトまで、まだ時間はたっぷりある。ここは、徹底的にからっぽな時間を過ごすぞという気持ちになる。ちょっと退屈するくらいが、いちばん贅沢な時間の過ごし方なのだ。

まもなく12:00。ぎりぎりまで滞在してのチェックアウト。「おくつろぎになれましたか?」「ええ、おかげさまでゆっくりさせてもらいました!」

さあ現実世界に戻るときがやってきた。でも遠隔地に来たときのような億劫な感じはしない。ホテルを出てほんのすこし歩けば、もう地下鉄の駅に着けるのだから。

1泊2日の都心ホテルステイ。急な短い休暇の使い方としては、悪くない。そして今回選んだ『ホテル ザ セレスティン東京芝』は、確かな落ち着きと安らぎが得られる、コンパクトで居心地の良い都心の隠れ宿であった。

「ずっと都心にいたなんて、信じられないな。1泊2日じゃ足りないよ」「このサイズ感が丁度いい。まるでクルーズに来ているみたい」。お互い定年退職したら、1週間くらい長めに滞在してみたいね……そんなことをどちらともなく言い出す、そんなホテルである。

※ホテル『ホテル ザ セレスティン東京芝』についてもっと知りたい方は、
下記をクリックして公式サイトをのぞいてほしい。
↓↓↓

https://www.celestinehotels.jp/tokyo-shiba/

<ホテル ザ セレスティン東京芝>
 
【住所】東京都港区芝3−23-1
【Tel】 03−5441−4111
【チェックイン】15:00
【チェックアウト】12:00
【宿泊料金】モデレートタイプ:1室1万7,600円~
      つむぎ:1室3万1,000円~
     (税・サービス料込、東京都宿泊税別)
【URL】https://www.celestinehotels.jp/

取材・文/編集部
撮影/川上尚見、編集部(一部)

 

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