日々是好日

人の生き方は、本当にさまざまです。ふと目にした記事や番組で、ある人物の人生に心を打たれることがあります。羨ましさや反省が入り混じり、「自分はどうだっただろう?」と考えさせられることもあるでしょう。

どこで差がついたのか… 運や環境だけでは片づけられない何かがあります。志を持ち、機会を逃さず、行動を重ねる。先人の言葉には、その要点が短く、鋭く残されています。今日の一文が、あなたの選択を少し整えるヒントになりますように。

先人たちが残した名言や金言の中に、その答えを見つけることができるかも知れません。

今回の座右の銘にしたい言葉は「日々是好日」(にちにちこれこうじつ) です。

「日々是好日」の意味

「日々是好日」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「毎日毎日が無事でよい日であるということ」とあります。映画のタイトルや書道の題材としても人気があるため、見聞きしたことがある方も多いでしょう。一見すると「毎日がいい日」という前向きな言葉に思えますが、実際にはもっと深いニュアンスがあります。

たとえば、予定どおりに進んだ日だけがいい日というわけではありません。うまくいかなかった日、気持ちが沈んだ日、思いがけず誰かの優しさに触れた日もまた、その人にとっての大切な一日です。つまり、目の前の出来事を受け入れ、与えられた一日を丁寧に過ごそうとする心構えだといえます。

「日々是好日」の由来

「日々是好日」の由来は、中国禅の名僧、雲門文偃(うんもんぶんえん)の言葉にあるとされています。禅宗の代表的な語録である『碧巌録』(へきがんろく)という書物に収められています。

ある日、雲門禅師は弟子たちに向かってこう問いかけました。
「これまでの十五日間のことは問わない。これからの十五日間について、一句言って心境を示してみなさい」

しかし、弟子たちは誰一人として答えることができませんでした。

そこで雲門禅師は、自らこう答えました。
「日々是好日」(毎日が最高の日である)

過去への執着を手放し、まだ見ぬ未来を案じることもなく、ただ目の前にある「今、この瞬間」に集中して生きる。そんな禅の教えが、この短い六文字に凝縮されています。

この「十五日」を、悟りの前後と読む解釈もあります。悟る前も悟った後も、どちらも問わない。ただ今日という日があるだけだ、と。禅語の読み解きには諸説ありますが、「特別な日を待つのをやめよ」という向きの言葉であることは、どの説でも共通しています。

その後、この一句は茶道の掛け軸として広く使われるようになりました。茶室に禅語を掛ける習慣は利休の時代に定着したとされ、床の間の一行が、その日の客をもてなす心づもりを表します。

茶道
写真:photoAC

「日々是好日」を座右の銘としてスピーチするなら

座右の銘を披露するときには言葉の解説を長々とするのではなく、「なぜ自分がその言葉を好きになったのか?」「その言葉から何を学んだのか?」という、自身の個人的なエピソードを交えることが大切です。以下に「日々是好日」を取り入れたスピーチの例をあげます。

今日を大切に生きる重要性を語るスピーチ例

私の座右の銘は、「日々是好日」です。毎日が楽しく、何をしてもうまくいくという意味ではありません。晴れの日だけでなく、雨の日や、思い通りにならない日も含めて、その一日を大切に受け止めて生きるという意味の言葉です。

若い頃の私は、仕事でもプライベートでも「もっと上へ、もっと完璧に」と気を張り詰めていました。思い通りにいかない日があると、「今日は最悪な一日だ」と周囲に八つ当たりをしてしまったこともあります。今振り返ると、本当にお恥ずかしい限りです。

しかし、年齢を重ね、自身の体力の変化や、親の介護、そして大切な友人との別れなどを経験する中で、少しずつ考え方が変わってまいりました。

「日々是好日」とは、毎日楽しいことばかりが起きるという意味ではありません。嵐の日も、心が折れそうな日も、その日その日をありのままに受け入れ、かけがえのない今日という日を大切に生き切る。そうした覚悟を教えてくれる言葉だと、今になって深く腑に落ちています。

これから先も、楽しいことばかりではないでしょう。それでも、過ぎた日を悔やみすぎたり、まだ来ない未来を心配しすぎたりせず、今日という一日を丁寧に過ごしたいと思っています。

最後に

「日々是好日」は、年齢や人生経験を重ねた世代に、静かな勇気を与えてくれる言葉です。何か新しいことを始める時、あるいは困難に直面した時、この言葉をそっと心の中で唱えてみてください。きっと、何気ない日常の景色が少し違って見え、心穏やかに「今日」という一日を愛おしく感じられるはずです。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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