窮すれば通ず

人の生き方は、本当にさまざまです。ふと目にした記事や番組で、ある人物の人生に心を打たれることがあります。羨ましさや反省が入り混じり、「自分はどうだっただろう」と考えさせられることもあるでしょう。

どこで差がついたのか… 運や環境だけでは片づけられない何かがある。志を持ち、機会を逃さず、行動を重ねる。先人の言葉には、その要点が短く、鋭く残されています。今日の一文が、あなたの選択を少し整えるヒントになりますように。

先人たちが残した名言や金言の中に、その答えを見つけることができるかもしれません。

今回の座右の銘にしたい言葉は「窮すれば通ず」(きゅうすればつうず) です。

「窮すれば通ず」の意味

「窮すれば通ず」について、『小学館デジタル大辞泉』では、「事態が行き詰まって困りきると、かえって思いがけない活路が開けてくるものである」とあります。追い詰められたとき、道は開ける。「窮すれば通ず」を一言で言えば、そういうことです。

「窮」(きゅう)とは、追い詰められた状態、行き詰まった状況を指します。「通ず」は、道が通じる、突破口が開けるという意味。つまり、どんなに追い詰められても、そこで諦めずにもがき続ければ、必ず活路が見えてくるという教えです。

よく混同されるのが「窮地に立たされる」という言葉ですが、「窮すれば通ず」はその先を見ています。窮地そのものを否定するのではなく、「窮地こそが変化の起点になる」という、むしろ積極的な受け止め方をしているのがこの言葉の特徴です。

たとえば、長年勤めた会社を退職し、これからどう生きるか迷う時。あるいは、親の介護と自分の生活の両立に悩む時。思うように体が動かなくなり、これまでのやり方を変えざるを得ない時。

そんな場面では、「なぜこうなったのか」と過去を悔やむより、「では、今できることは何か」と問い直すことが大切になります。「窮すれば通ず」は、その問い直しを促してくれる言葉です。

「窮すれば通ず」の由来

この言葉の由来は、古代中国の書である『易経』(えききょう)に遡ります。『易経』は、儒教の基本となる五経(ごきょう)の一つであり、占いの書として知られる一方、人生や政治、組織運営における変化の知恵を説いた書物としても読まれてきました。

その中の一節に、次のような言葉があります。

「易は窮まれば変ず、変ずれば通ず、通ずれば久し」

これは、「物事は極限まで達すると必ず変化する。変化すれば道が開けて通じるようになり、通じるようになればその状態が長く続く」という意味です。古代中国の人々は、自然界の移り変わりや人間の営みを観察し、「どんなに困難な状況であっても、それは永遠には続かない。頂点に達すれば必ず状況は変化し、新たな局面を迎える」という真理を見出しました。

冬の寒さが極まれば、やがて雪が溶けて春の息吹が芽生えるように、人間の運命もまた、行き詰まった先にこそ新しい展開が待っているのです。

「窮すれば通ず」を座右の銘としてスピーチするなら

「窮すれば通ず」をスピーチで紹介する時は、単に意味を説明するだけでなく、自分の体験や実感を少し添えると、聞き手の心に届きやすくなります。ただし、自分がどれほど大変な思いをしたかを長々と語るのではなく、その経験から何を学んだのか、どう前を向いたのかに焦点を当てましょう。以下に「窮すれば通ず」を取り入れたスピーチの例をあげます。

退職時の挨拶としてのスピーチ例

これまでの人生を振り返ってみますと、決して平坦な道のりではありませんでした。特に40代の頃、仕事で大きなプロジェクトに行き詰まり、体調を崩しかけた時期がありました。八方塞がりで、もうどうにもならないと諦めかけた夜もありました。

そんな時に私を支えてくれた言葉が、私の座右の銘、「窮すれば通ず」です。これは『易経』にある言葉で、追い詰められて行き詰まった時にこそ、かえって活路が開けるという意味です。私はこの言葉を信じ、諦めるのではなく、今までとは全く違う角度から問題を見つめ直してみました。

すると、不思議なもので、それまで見えなかった解決の糸口が見えてきたのです。もちろん、それは私一人の力ではなく、温かく見守ってくれた家族や、力を貸してくれた同僚たちのおかげでもあります。

どん底だと思ったあの経験があったからこそ、私は視野を広げ、少々のことでは動じない心を持つことができました。これからの人生でもきっと壁にぶつかることはあるでしょう。しかし、そんな時こそ「窮すれば通ず」を思い出し、変化を恐れず、新しい道を探し続けていきたいと思っております。

最後に

「窮すれば通ず」は、困難を否定しません。苦しいものは苦しい。行き詰まる時はある。それでも、その場所からしか見えない景色があると教えてくれます。

人生100年時代と言われる現代、50代や60代はまだまだ道の途中です。これから先も予期せぬ困難に出会うことがあるかもしれませんが、そんな時こそ、ご自身の心の中にこの言葉を響かせてみてください。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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