生きものの「生」だけでなく「死」を直視し、次へと繋ぐ。盛岡市動物公園ZOOMOの獣医師・辻本恒徳さんが、動物の治療や介護を通じて「自然と動物といのち」を問いかける。

園で飼育していたピューマの子が夜間に母親が寝返りをうったときに下敷きになり、歩行異常に。レントゲン撮影により骨折が判明。外科専門獣医とともに消毒と毛刈りをし、金属プレートとネジで整復治療を行なった。
一頭一羽の死を無駄にしない。野生の尊厳を守る、動物医療とは
動物園は、動物を「見る」場所。しかし、裏側の「見えない」場所で、いのちと向き合う人たちがいる。盛岡市動物公園ZOOMOの園長・辻本恒徳(つねのり)さんは、動物園獣医師として40年以上、動物の誕生から病、死まで見続けてきた。
「園には、近隣の里山で傷ついた野生動物も運ばれてきます。懸命な処置もむなしく、回復せずに命を落とす個体も多い。しかし、死んで終わりではないんです」と辻本さんは語る。
野生動物のデータは乏しい。解剖検査で得た知見が、数多くの命を救う。「一頭の死が、ほかの動物のいのち、種の未来へ繋がる。これこそが動物園が担う“循環の輪”です」
いのちの尊さと摂理を学ぶ場
治療の基準は、単なる延命ではない。本来の野生行動ができるか、餌を自力で食せるかどうか。辻本さんが重視するのは、QOL(生活の質)の維持。高齢化する飼育動物の介護にも、最後までいのちに責任をもって取り組む。
園は現在、新たな動物病院の建設を進めている。常時公開されるガラス張りの診察室は、元気な姿だけでなく、病や老い、死、そしてケアの現場をありのままに伝える予定だ。「当園が掲げる“One World One Health”は、人と動物、自然界はすべて繋がっている、という意味。動物園は楽しい場であると同時に、いのちの尊さと摂理を学ぶ場でもあると思っています」と辻本さん。その眼差しの先には、健全な生態系への祈りが込められている。
治療とリハビリ
ケガの治療や病気の手術などだけでなく、再び自立して生きる力を取り戻すためのリハビリにも力を入れている。医療の真価は単なる生存ではなく、野生本来の行動ができるかどうかにかかっている。

群れのケンカで負傷、衰弱していたところを救出。咬傷(こうしょう)と感染により左後ろ脚の温存は不可能と判断したため、断脚手術を行なった。リハビリを経て、その後再び群れへ、復帰が叶った。
野生動物の保護
傷ついた個体を保護し、1年ほど運動機能などを慎重に確認してから野生に戻す。たとえ死に至っても、解剖検査を通じて生物学的情報を蓄積する。野生復帰が叶わぬ個体でも、最善を尽くす。

母親が育児放棄をし、取り残されていた。尾の3分の2を失っており、最初はミルクをなかなか飲まず苦労したが、人工哺乳で飼育。形成手術と治療を行ない、現在は非公開施設にて過ごしている。


※生まれつき体の色素が少ない個体。
予防と高齢期ケア
加齢に伴う運動不全や疾患を抱えても、QOL(生活の質)を維持し、最期まで伴走するのが獣医師の役割。病を未然に防ぐ予防医療と老いに寄り添う献身で、動物たちのいのちを守る。

高齢で起立不可のヤギ。床ずれ防止服の着用、床材の工夫、サポーターによる歩行リハビリなどケアを続けた。シニア期の動物がその動物らしく過ごせる介護を模索する。


動物園獣医師 辻本恒徳さん

盛岡市動物公園 ZOOMO

岩手県盛岡市新庄字下八木田60-18
電話:019・654・8266
営業時間:9時30分〜16時30分(冬季変更あり/最終入園は閉園30分前)
定休日:水曜(冬季水曜・木曜)
料金:大人(高校生以上)1000円
交通アクセス:JR盛岡駅よりバス約40分、動物公園前下車、公共バスは盛岡駅東口5番乗り場より動物公園行きにて約40分
取材・文/井尾淳子 写真提供/盛岡市動物公園ZOOMO
※『サライ』2026年6月号より












