カフェ・ヴェルディ
「自家焙煎珈琲カフェ・ヴェルディ」(以下、カフェ・ヴェルディ)は、下鴨神社にほど近い下鴨本通沿いにある。
店名は、イタリアのオペラ作曲家ジュゼッペ・ヴェルディに由来する。

朝のスタートに、一杯のコーヒーを飲む人は多いことでしょう。朝食とともに自宅で飲む人もいれば、通勤途中にコンビニ・コーヒーを買い求める人、ハンドルを握りながら缶コーヒーを口にする人もいます。

そのスタイルは、人それぞれ。けれど共通しているのは、「好きなコーヒーを飲むならば、美味しいコーヒーを、ゆっくりと、そしてじっくり味わいたい」ということではないでしょうか? ましてや旅先なら、なおさらです。

そんな一杯に出会える店を、京都で見つけました。

「主役は、あくまでコーヒーなんです」-カフェ・ヴェルディが考える朝食のかたち

カフェ・ヴェルディのコーヒーとトースト

モーニングサービス
バタートーストとヴェルディブレンド。830円。

「私どものモーニングサービスの主役は、あくまでもコーヒーなんです」

「カフェ・ヴェルディ」のオーナー・続木義也(つづき・よしや)さんは、そう言い切ります。ハムや卵、サラダを添えた一般的な洋朝食とは違い、「カフェ・ヴェルディ」のモーニングは、コーヒーとトーストという実にシンプルな組み合わせ。

けれど、その簡素さの中に、コーヒーへの情熱がくっきりと表れます。

「いろいろなものを付けて豪華にするという発想は、最初からあまりありませんでした。食事ではなく、あくまでコーヒーが主役。ただ、その中でトーストだけは『どこにも負けないものを出そう』と考えています」

朝食のメニューを見ても、その考えは明快です。用意されているのは、バタートースト、シナモントースト、カルダモントースト、チーズトーストの4種類。そこに自分の好みのコーヒーを合わせていただく。あくまで中心にあるのは一杯のコーヒーであり、トーストはその相棒です。

カフェ・ヴェルディのチーズトースト

モーニングサービス
チーズトーストとカフェ オ レ(+60円)。1,030円。
ミニサラダは300円。
「チーズトーストは、『もう少し腹持ちのいいものが欲しい』というお客様からのリクエストから生まれました」と続木さん。

続木さんのお話を聞くと、「カフェ・ヴェルディ」の朝食が目指しているのは「一日を気持ちよく始めるための朝食」なのだと感じます。

「コーヒーには、もともとイスラム教徒が夜のお祈りの際に眠気を払うため、覚醒を促す飲み物として飲まれていたという説があります。そう考えると、朝にコーヒーを召し上がる人が多いのも、ごく自然なことなのかもしれません。

朝、一杯のコーヒーで気持ちよく目を覚ます。そして、シンプルでありながら、どこにも負けないトーストを味わっていただく。そんなふうに、一日の始まりを少しでも心地いいものにしていただけたら、私たちにとって何よりうれしいことです」

必要最低限の中に、極上を入れる。

旅先の朝、こんなにも一本筋の通ったカップ一杯のコーヒーと一枚のトーストに出会えるのは、むしろ贅沢なことのように思えました。

カフェ・ヴェルディ
カフェ・ヴェルディの店内。
テーブルは13席、カウンターは8席。
コーヒーの量り売りやオリジナルのドリップバッグ、手土産に焼き菓子も人気だ。

「豆そのもののポテンシャルを、どこまで引き出せるか」-コーヒーに人生をかけた続木さんの哲学

「コーヒーにいろいろなものを加えて、美味しくすることは、ある意味では簡単なのかもしれません。けれど、シンプルなものを、いかに最上の状態まで持っていけるか。それが一番難しいと思っています」

カフェ・ヴェルディ続木さん
「カフェ・ヴェルディ」のオーナー・続木義也さん。

続木さんにとって大切なのは、フレーバーを足して味を作ることではありません。豆そのものが持つ力を、どこまで引き出せるか。焙煎とは、その一点を突き詰める仕事なのだといいます。

続木さんがコーヒーの道へ進むことになったきっかけも、ものすごく印象的なエピソードでした。もともとは家業でもあったパンの道に進もうと考えていたそうですが、師匠から「君はパンよりコーヒーの方が向いているんちゃうか?」と言われたそうです。

パンは素材や製法の組み合わせによって、味の可能性が無限に広がっていきます。一方、コーヒーはよりシンプルな世界です。だからこそ、一つの素材と真正面から向き合い、本質を突き詰めていく続木さんに向いている。師匠は、そう見抜いたのかもしれません。

その後の歩みは、まさにコーヒー一筋でした。パンの仕事をしながら、京都から毎週末、東京の名店「カフェ・バッハ」に約1年半にわたって通い、焙煎の実地指導を受けたといいます。

土曜日と日曜日にそれぞれ4品ずつ、計8品を焙煎し、講評を受ける。その結果を持ち帰り、次の一週間でまた新たに焙煎をする。そうした地道な積み重ねの末に、ようやく独立の許しを得たといいます。

10年以上続けてきたパンの道を断ち切り、新たにコーヒーの世界へ第一歩を踏み出す…。そのときの決意たるや尋常なものではなかったと感じました。

カフェ・バッハとカフェ・ヴェルディ
「カフェ・バッハ」の焙煎技術を組み込んだコーヒー焙煎機と続木さん。
中央下には「カフェ・ヴェルディ」のロゴが刻まれている。

産地へ足を運び、「コーヒーの真実」を吸収する

それから20年以上。続木さんは今もなお、日々の実践と研究を重ねながら、自身のコーヒー観を磨き続けています。

「カフェ・ヴェルディ」の一杯を支えているのは、焙煎技術や抽出の腕だけではありません。続木さんは、「いい豆を仕入れることが、最も重要です」と言い切ります。

どれほど焙煎技術があり、どれほど抽出が上手くても、原材料である豆の品質が低ければ、美味しいコーヒーを作ることはできません。だからこそ、続木さんは現地のバイヤーや輸入業者とのつながりを築き、自分の味覚と現地の評価を照らし合わせながら、優良な農園や精選所から豆を買い付けているといいます。

続木さんが作られた、産地ごとのコーヒー豆の特徴を表したマトリックス。
続木さんが作られた、産地ごとのコーヒー豆の特徴を表したマトリックス。

「コーヒー豆の産地に行くのは、単に仕入れのためだけではありません。地球環境が変化する中で、生産地にはどのような変化があるのかを自分の目で確認するためでもあるんです」と語る、続木さん。

ケニアのファクトリー(精選場)での一枚。
パプアニューギニアの農園にて。

ただし、仕入れにも腐心してるそうです。

「為替相場によって豆の価格は秒単位で変動しますから、なんとか現状を維持しようとしたら、できるだけコーヒー市場の上流工程で豆を確保する必要があります。まるで私はデイトレーダーみたいなものです」と言って苦笑いする続木さん。

さらに、仕入れた豆は、焙煎の前後に必ず豆の選別を行います。虫食い、ひび割れ、欠け、カビ、焙煎ムラ… そうした豆を一粒ずつ取り除き、いい状態のものだけをお客様に届ける。

だからこそ、続木さんは「うちはどこまでいってもコーヒー専門店です」と胸を張るのでしょう。

カフェ・ヴェルディ続木さん
豆の選別(ハンドピック)を行う続木さん。
「どれほど高品質な豆であっても、袋の中には何粒か、状態のよくない豆が混じっています。それをきちんと取り除くことが、私たちの責任だと考えています」

極上トーストの秘密

「『最高のパン』というと、良質なクリームを使うとか、バターをたくさん入れると思われがちですが、実はシンプルなものを美味しくするのが一番難しいんです」と続木さん。

「カフェ・ヴェルディ」で使っているのは、京都の老舗ベーカリー「進々堂(しんしんどう)」の「醍醐味(だいごみ)」。続木さんによれば、このパンは余計なものを足さずに、小麦そのものの味わいをしっかり引き出しているといいます。

開業前には、ヴェルディのトーストにふさわしいパンはどれか、いろいろと食べ比べたそうです。その結果、パンそのものの風味、バターを塗った時の旨み、そしてコーヒーとの相性、すべての面で「醍醐味」が最もふさわしいという結論に至りました。

トーストの厚みはおよそ3センチメートルほどあり、しっかり食べごたえがあります。当初は縦に2等分していたそうですが、現在では女性でも一口で食べやすいように、縦に3等分しているとのこと。こうした細かな工夫にも、食べる人への心配りが感じられます。

カルダモントースト
縦に3等分にカットされた、カルダモントースト。

トーストの焼き方にも工夫がある

いちばん驚かされたのが、トーストの焼き方でした。

「まず、裏面に霧吹きで水を吹きかけます。今はスチームトースターもありますが、20年前にはそんなものはなかったので、自分たちの手でスチーム的な効果を出そうと考えたものです」

カフェ・ヴェルディ
霧吹きで水を吹きかけると、トースターの中で蒸気が広がり、全体をふっくら焼いてくれるという。

霧吹きをしてから焼くと、表面がきつね色になっても、水を吹きかけた面は白いまま。ここで表面にたっぷりバターを塗り、もう一度焼きます。そうすることで、蒸気の効果で中はふんわり、さらに表面は軽くフライしたようにサックリと仕上げてくれるのです。

カフェ・ヴェルディ
表面がきつね色になったパンを見せてくれる、続木さん。

続木さんが守りたい「コーヒーハウス文化」

続木さんの話を聞いていると、「カフェ・ヴェルディ」が大事にしているのは、コーヒーの味だけではないことが分かります。一杯のコーヒーをきっかけに、人が同じ場を共有し、言葉を交わし、なんとなく顔なじみになっていく。

続木さんが守りたいのは、そんな昔ながらのコーヒーハウスの空気でした。

「今の日本では、コーヒーの味そのものを楽しむことが中心になっていますが、本来はそこで交わされる会話やカウンタートークも含めて、一つの文化的要素があっていいと思うんです」

実際、土日の朝のカウンターでは、そんな光景が今も自然と生まれています。

「月ごとのメニューをきっかけに会話が広がったり、お客様同士が知らない間に仲よくなっていたりします。そういう意味では、昔のコーヒーハウス文化に少し戻るような、地域の中で一つの文化を作っていく場にできたらと思っています」

店内に飾られた演奏家たちのオブジェは、常連のお客様から贈呈された品。
この店が、いかに顧客から愛されているかを物語っている。

店内に流れるのはクラシック音楽。そこから音楽談義に花が咲くことも少なくないといいます。

「私のブログ『気まぐれ日記』の中でクラシックについて触れているので、音楽好きの方が集まってくださるんです。今は『店主の趣味のブレンド』としてオペラを題材にしたブレンドを月ごとに作っているので、オペラ好きの方にも来ていただきたいですね」

コーヒーを飲みに来たはずが、気づけば音楽や旅の話をしている。そんな時間もまた、「カフェ・ヴェルディ」の魅力なのでしょう。

カフェ・ヴェルディ『A CUP OF MOMENT』
「カフェ・ヴェルディ」が発行する月刊紙『A CUP OF MOMENT』。
2021年5月に発行されたVol.01(右)と最新号の60号。
コーヒーの豆知識や店舗の最新情報を続木さん自身が執筆、編集、デザインまで行なっている。

最後に

朝のコーヒーを飲むことはありますし、外出先でもいただきますが、それほど深くコーヒーの味わいについて考えて飲んでいたわけではありません。しかし、「カフェ・ヴェルディ」で続木さんの話を聞くと、つくづく奥深いものなのだと感じました。

そして、こんなにも美味しいコーヒーを、これまでに味わったことはありませんでした。嫌な苦味や酸っぱさが口に残ることもなく、ましてや胸焼けするなんてこともありません。「『カフェ・ヴェルディ』のコーヒーなら1日10杯でも飲める」と豪語するファンがいるそうですが、まさしくその通りだと感じました。

豆の力を引き出した一杯のコーヒーと、それに寄り添う極上のトースト。シンプルな朝食には、続木義也さんの生きざま、コーヒーに向き合う姿勢が凝縮されています。だからこそ美味しい。

やっぱり、食事は作る人によって「味わい」が変わることを実感しました。そして、どういう人が、どんな思いで、どのように作っているかを知ることも大切である、と。

お店の入り口に掛かる小さな看板「ひと粒、ひと粒選りすぐりの良い珈琲、あります」の言葉が心の中に染み渡ります。 

カフェ・ヴェルディの看板
「カフェ・ヴェルディ」の入り口に掲げられている看板。

■ 自家焙煎珈琲カフェ・ヴェルディ

住所:京都市左京区下鴨芝本町49-25
TEL:075-706-8809
営業時間:8:30~18:00(L.O.17:30)、日曜・祝日8:00〜17:30(L.O.17:00)
定休日:月曜日、第三火曜日
HP:https://www.verdi.jp
インスタグラム:https://www.instagram.com/caffe.verdi/

●取材・執筆/末原美裕

登録無形文化財の京料理から町中華やラーメンにいたるまで豊富な食文化を持つ町、京都に住む。飲食店の料理人にフォーカスを当てて記事を執筆中。プライベートでは、料理人が贔屓にする飲食店を巡り、日々味覚を鍛えている。真の美味しさを追求することをライフワークとしている。
note:@kyoto_monokaki Instagram:@kyoto_monokaki
Facebook:@kyotomedialine

●撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)

 

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