とうげつあん・はくしゅ 1968年、鹿児島県生まれ。1992年六代目五街道雲助(ごかいどうくもすけ)に入門。2005年真打昇進、三代目桃月庵白酒を襲名。

ふいに「自分の落語を何かに喩えると?」と訊いてみると、桃月庵白酒さんは「カレーです」と即答した。

「カレーはカレーでも、理想は新潟の万代(ばんだい)シティバスセンター内にある立ち食いそば屋(『名物 万代そば』)のカレーです。これが老若男女、誰が食べても美味しいけれど、カレー好きも唸る逸品でして。これ食っときゃ間違いない。決め手は和風の出汁とピリッと効いたスパイスです」

柔和な風貌ながら、「毒舌を口にしたら日本一。切れ味抜群でスパッと切るから嫌みも心地好い」とは佐藤友美さんの評。白酒さんの毒舌はスパイスということか。

「愛嬌と落語の技術が同居している」(橘蓮二さん評)とも言われる白酒さんの高座。独演会は午年にちなんで『馬の田楽』『付き馬』と馬尽くしの演目だった。

米津玄師の『死神』人気

近年の白酒さんの高座には「落語は初めて」という人の姿も目立つ。白酒さんいわく「流れ弾が当たった」からという。

2021年、シンガーソングライター米津玄師さんの新曲『死神』がヒットした。古典落語の同演目をモチーフにしており、ミュージックビデオは新宿末廣亭で収録された。白酒さんの演った『死神』も音楽配信サービスに配信されていたため、米津さんの曲がきっかけで白酒さんの『死神』を聴いた人たちが、「落語も面白い」と聴きに来てくれているのではないかという。

白酒さんの『死神』は、サゲが独特だ。通常は、男が消えかかった寿命のロウソクを、別のロウソクに継ごうとして失敗して命が尽きる。白酒さんの場合は、日常でありがちなハプニングがサゲだ。死神のキャラクターも前向き、お調子者を前面に出している。

「あと少しで90㎏オーバーというこの体型です。シリアスでおどろおどろしい『死神』は合いませんからね」

独演会の会場(東京・本多劇場)では照明や音声を入念にチェック。準備に余念がない。
独演会の出番を終え、楽屋へ。額にびっしり浮かんだ汗が、熱演ぶりを伝える。

この演目を聴きたい

死神

三遊亭円朝がヨーロッパの話を翻案して作り上げた。死神の秘密を知った男が、それで一儲けをたくらむが、自分の寿命を縮めてしまうことに。白酒さんの独特のサゲに着目。

「そのロウソクのロウ
熱いから気をつけろよ」
「え!? アチ! アチ!」
フッ……

「令和の名人」推薦者(特集内の評論を担当)

佐藤友美さん(演芸専門誌『東京かわら版』編集人)
幼少期から伝統芸能に親しみ、『東京かわら版』編集部へ。寄席演芸の普及に尽力。4月に『東西寄席演芸名鑑3』を刊行予定。

杉江松恋さん(作家・文芸評論家・演芸プロデューサー)
推理小説の書評や小説執筆のかたわら、落語会や浪曲会を主宰。夢枕獏『陰陽師』を天中軒すみれさんのために脚本化。著書多数。

橘 蓮二さん(演芸写真家・演芸プロデューサー)
落語、講談、浪曲を中心に漫才、神楽など演芸全般の舞台や楽屋、ポートレートを撮り続ける。落語会のプロデュース、著書多数。

取材・文/角山祥道 撮影/塚田史香、橘 蓮二

※『サライ』2026年4月号より

4月号大特集はサライ「演芸」令和の名人です

 

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