終盤に映し出された残酷な描写。果たしてこれは……?(C)NHK

大河ドラマの描写がホワイト化…?

ライターI(以下I):先日、歴史好きの集まる寄合で「大河ドラマの描写がホワイト化しているのでは?」という人がいました。残酷な描写などがマイルドになっている、ということだと思います。なるほど、確かにそうかもと思い、直近の『豊臣兄弟!』での浅井長政(演・中島歩)嫡男の万福丸(演・近江晃成)のケースから考察してみたいと思います。

『豊臣兄弟!』では、小谷城落城に際して、お市の方(演・宮崎あおい)と茶々(演・増留優梨愛)、初(演・森みなみ)、江(演・永井花奈)の三姉妹は、信長(演・小栗旬)のもとに引き取られました。嫡男の万福丸については、秀吉(演・池松壮亮)と小一郎(演・仲野太賀)兄弟が浅井長政説得のために登城した際に「一乗谷を攻めた時にくまなく行方を探したんじゃが、どこにもおられませんでした」と説明されました。

編集者A(以下A):万福丸は朝倉氏の拠点一乗谷に人質として滞在していたという設定だったので、浅井長政が「おそらく、もうこの世にはおるまい」といっていましたね。万福丸は越前の一乗谷で、亡くなったのではないかという設定だったんですね。『信長公記』には、「浅井備前十歳の嫡男御座候を尋出し、関ケ原と云ふ所に張付に駆けさせられ、年来のご無念を散ぜられ訖(おわんぬ)」と、万福丸は磔にされたと記録されています。実際に岐阜県関ケ原には「馬頭観音堂」というのがあって、万福丸が処刑された場所と伝承されています。

I:万福丸は小谷城落城後に信長の命で処刑されたわけですね。それでは、過去の大河ドラマで万福丸がどのように描かれたのかを参照しながら「戦国描写のホワイト化現象」の考察を進めていきたいと思います。

A:まず1981年の『おんな太閤記』から始めましょう。信長(演・藤岡弘/現・藤岡弘、)は万福丸(演・小池満敏)を殺害するように秀吉(演・西田敏行)に命じます。ところが秀吉は、蜂須賀小六(演・前田吟)に対して、万福丸を助けるようにと指示を出します。

I:信長の命に逆らう指示を出したんですね。

A:蜂須賀小六は、それでは主命に背いた秀吉が信長から殺されてしまうと、秀吉の命に反して万福丸を串刺しにして殺してしまうというストーリーでした。蜂須賀小六は「おなごの子に化けて乳母とともに落ちるところを見つけた。あやうく逃げられるとこだった。信長さまの目に留まるようにさらしてある。あそこじゃ。串刺しにした」と秀吉に説明します。

I:え? 串刺しにしてしまったのですか?

A:串刺しにされた万福丸をみた秀吉の息をのむ場面が印象的でした。秀吉の視線の先には、血を流してさらされている万福丸がいたのです。後ろ姿は映りましたが顔は映されませんでした。ただし、前からは腕から血が流れる場面が描かれました。そして、怒った秀吉が小六に斬りかかるのです。

I:磔にしたという『信長公記』の記述に沿った流れになったんですね。

A:1996年の『秀吉』では、万福丸(演・穴井隆文)は母お市(演・頼近美津子)、三姉妹とともに、信長(演・渡哲也)のもとに避難しています。この時信長は、男子は生かしておくことはできないと、柴田勝家(演・中尾彬)に命じて、処刑するためにその場から連れ出すという残酷な場面がありました。

I:秀吉(演・竹中直人)が万福丸も生かすと約束したにもかかわらず、信長が反故にしたという流れでした。

A:磔場面こそ登場しませんでしたが、万福丸の最期については、非業の死を遂げたことをしっかり伝える形になっているのですよね。そして、磔場面がしっかり描かれたのが、2006年の『功名が辻』です。当初、万福丸(演・小杉彩人)を助けるつもりだった秀吉(演・柄本明)ですが、信長(演・舘ひろし)に「殺せ」と命じられて、その役をドラマの主人公格(主人公は一豊の正室千代)の山内一豊(演・上川隆也)に命じたというわけです。「関ヶ原に連れていき磔の支度をしろ」という台詞がありましたから、『信長公記』の記述をトレースした形になっています。「できませぬ」と抵抗した一豊ですが、抗えません。磔にされる万福丸。瞑目する万福丸。一豊は「ひけー」と指示して、磔にされた万福丸に向かって槍が突かれる瞬間まで描かれました。戦国とはどういう時代だったのか、可視化したわけです。

I:こういう形で、万福丸については、『おんな太閤記』『功名が辻』で「磔の万福丸」が描かれ、『秀吉』でもお市と三姉妹の面前で万福丸が処刑のために連れ出される場面が描かれました。それぞれ「戦国のリアル」を表現した形になったのですが、浅井三姉妹の江(演・上野樹里)を主人公とした2011年の『江 姫たちの戦国』では、万福丸はその存在が消されるという演出になりました。三姉妹の兄が登場しないという展開は物議を醸しましたね。

A:残酷な描写を避ける「ホワイト化現象」ということでいうと、『江 姫たちの戦国』の時には既に始まっていたのかもしれないですね。そして、『功名が辻』で主人公格の山内一豊に万福丸処刑が命じられた文脈でいうと、『豊臣兄弟!』では小一郎がその役を命じられてもおかしくなかったということです。

万福丸の処刑役は、蜂須賀小六だったり、柴田勝家だったり、山内一豊だったり、いずれにしても織田方の面々が担っているわけです。にもかかわらず、『豊臣兄弟!』では一乗谷で探索したけれども見つからなかったという設定でした。それを以て、「戦国描写のホワイト化現象」といえば、そうなのかもしれません。

I:『江 姫たちの戦国』とは違い、『豊臣兄弟!』では万福丸は登場していました。第12回で秀吉と小一郎が長持ちから飛び出てお市の方と面会した回ですね。この時、万福丸は秀吉と小一郎に挨拶までしていました。

A:万福丸が登場している大河ドラマで『おんな太閤記』『秀吉』『功名が辻』では、その最期が織田方によって処刑されたことがしっかり描かれました。『豊臣兄弟!』第12回を見た時に、この幼気(いたいけ)な男の子の最期をどのように描くのだろうと思っていたのですが、お茶を濁された感じになりましたね。

松永久秀の孫ふたりの悲劇

I:10歳の子どもを磔というとものすごく残酷な感じがするのですが、信長の一代記である『信長公記』にさらっと記されているということは、当時は当たり前のことだったのではないかなとも思ったりします。

A:『豊臣兄弟!』第20回では、松永久秀(演・竹中直人)が「爆死」するシーンが描かれましたが、実はこの時、人質となっていた久秀のふたりの孫が斬首されています。『信長公記』によると12歳と13歳のふたりの男の子が車に乗せられて、六条河原まで引かれていったそうです。多くの群衆が見物している中で、「最後おとなしく西に向ひ、ちひさき手を合せ、二人の者共高声に念仏となへ生害。見る人肝を消し。聞く人も涙せきあへず」と記されています。当時の人々も涙を禁じ得なかったようですが、現代の私たちも目頭が熱くなる描写です。

I:「磔にされた万福丸」「斬首されたふたりの孫」、いずれも現代の価値観では残酷な所業なのですが、それがまさしく「戦国のリアル」ということですね。ただし、万福丸を例にとると確かに「ホワイト化」が進んでいるのかなという気もするのですが、一方で、『豊臣兄弟!』では、第2回で農民が盗賊に無残に殺される場面や、第16回で信長に命じられて光秀(演・要潤)が女子供を惨殺する場面、第17回で朝倉義景(演・鶴見辰吾)が配下の朝倉景鏡(演・池内万作)に後ろから首をはねられ首が飛んでいく描写などがありました。第21回の終盤では、上月城の攻防で、秀吉が城内に籠った人々を磔にしたとする場面も描かれました。

A:「戦国のリアル」もしっかり描いているという指摘ですね。同じ第21回では、「ブラック秀吉」と「ホワイト小一郎」の対比のように描かれました。細かくいうと「主人公周辺のホワイト化現象」ということになるのでしょうか。

織田信長のホワイト化現象はあるのか?

A:ところで、「戦国描写のホワイト化現象」を考えるうえで、今後指標となっていくのが織田信長の描写ではないでしょうか。例えば、ほぼ半世紀前の1973年『国盗り物語』では高橋英樹さんが信長を演じましたが、武田家を滅亡させた直後の諏訪・法華寺の場面で、近藤正臣さん演じる明智光秀に対して、欄干に頭を打ち付ける場面が描かれました。

I:私は総集編しか見たことがありませんが、比叡山延暦寺焼き討ちに対して意見具申する光秀の頭を地面に叩きつける場面もありました。

A:諏訪の法華寺欄干に光秀を打ち付けるという場面は、大河ドラマ50作目という記念作2011年の『江 姫たちの戦国』でも描かれました。この時は、豊川悦司さん演じる信長が、市村正親さん演じる光秀を激しく欄干に打ち付け、光秀の「お許しくださいませ、お許しくださいませ」という悲痛な声が響きました。大物俳優の市村正親さんが欄干に打ち付けられる姿に震撼させられたのを覚えています。信長が光秀や秀吉を足蹴にしたりする場面は多くの大河ドラマ作品で描かれていて、『豊臣兄弟!』でも描かれています。

I:半世紀前の『国盗り物語』の時代でもひどい暴力だったと思うのですが、「現代のハラスメント意識向上」の観点でいえば、「信長の暴力」が視聴者にどのように受容されているのか、ちょっと気になっています。

A:なるほど。2023年の『どうする家康』では、家康(演・松本潤)正室の瀬名(演・有村架純)による合戦のない「慈愛の国」をつくりたいという「戦国ユートピア構想」が物議を醸しました。当欄では、「そこまで思いっきり振り切られると逆におもしろい」と言及しましたが、そうしたエピソードも「戦国描写のホワイト化現象」といってもいいのかもしれませんね。

I:そういう文脈でいうと今後、「ホワイト信長」が登場しないとも限りません。家臣に決して手を出さない優しい信長……。でも、「ホワイト信長」って、それは信長とはいえない別人のキャラクターですよね。

A:黎明期から大河ドラマの演出などにかかわった大原誠さんの著書に『NHK大河ドラマの歳月』(日本放送出版協会刊、1985年)があります。その中で気になるのが、幾度も「大河ドラマの使命は終わった」と大河ドラマの終焉議論があったことが記述されていることです。今後、「ホワイト信長」が出てくるとも思えませんが、もしそうしたことが検討されることになったら、その時こそ「大河ドラマの使命は終わった」ということになるのかもしれませんね。

※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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