
マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の用語や問題を解説するシリーズ。今回は、他責思考を排除して、正しく成長するためのマネジメントについて解説します。
成長とは「正しい不足の認識」から始まる
試合に負けた際、つい「審判の判定が不当だった」と口にしたくなるのは、人間の自然な感情かもしれません。しかし、その感情に身を任せて外部環境に原因を求めている限り、残念ながら次の勝利も遠のいてしまっています。
識学では、このように原因を自分の外に置く思考を「他責」と呼びます。他責を選択した瞬間、私たちの意識に「自分は変わる必要がない」という誤解・錯覚が生まれます。このように自分にはどうすることもできない事象のせいにすることで、本来背負うべき責任から自分を切り離してしまい「免責」という状態に陥ります。この「他責」と「免責」は、人の成長を最も阻害する二大要因と言っても過言ではありません。
識学は「成長」を「できなかったことができるようになること」と定義しています。よって真の成長は、どのような理不尽な状況下であっても、そこで出た「できなかった」という事実の結果を一度「自分の不足」として受け入れることがスタートです。この潔い自責の姿勢こそが、つまり「他責」と「免責」の排除こそが、成長の出発点なのです。
「無能だと思われたくない」という心のブレーキ
ではなぜ、私たちはすべての結果を自責でとらえられず、他責に惹かれてしまうのでしょうか。その背景には、単に「悔しい」とは別に「周囲から無能だと思われたくない」という自己防衛本能があります。誰しも自分の至らなさを認めることには痛みを伴います。
特に、指導者や上司が感情的に怒鳴ったり、ミスを人格の否定に繋げたりする環境では、この傾向が顕著に出ます。識学ではこれを「不必要な恐怖」と呼び、上司や指導者が与えてはいけない恐怖とお伝えしています。この不必要な恐怖が起こると部下や選手は、成長することよりも「その場をどうやり過ごし、自分を守るか」が優先となり、脳は無意識に言い訳を探し始めます。
この自分を守るための言い訳は、同時に自分を変えるチャンスを奪っています。私たちが本当に向き合うべきは、「怒られたくない」「無能だと思われたくない」といった不必要な恐怖ではなく、「次の勝利のために必要なものは何か」「今の自分に何が足りないのか」というシンプルな事実だけなのです。
上司の役割は、言い訳を「遮断」してあげること
上司は感情的なマネジメントで不必要な恐怖を与えてはいけないことも前述しましたが、部下や選手を持つリーダーの最大の役割は、彼らの「成長を邪魔しない」ことです。そのためには、彼らが出す「他責」や「免責」に対しては心を鬼にして同調を拒まなければなりません。
「市場が厳しかったから」「相手が強すぎたから」といった他責の言葉に指導者や上司が「そうだね」と頷いてしまうのは、一見優しいように見えますが、実は相手の成長を止める「残酷な行為」です。指導者が言い訳を認めることは、相手の意識構造に「逃げ道」を定着させ、本来必要な行動変化を妨げる最悪の行為です。
上司が成すべきことは、感情を排して結果という「事実」のみを突きつけることです。不足を認めさせることは、決して否定ではありません。単に「ゴールと現在地の間にこれだけの距離がある」という事実を示す作業です。上司が言い訳を排し、事実に基づいた管理を徹底することで、部下は初めて敗北の不足を「進化のための行動変化」へと変えることができるようになります。
「位置」という概念~あなたは今、どこに立っているか~
識学には「位置」という重要な考え方があります。これは、組織やチームの中で、あなたが今どのような責任を背負う場所に立っているか、という考え方です。
事実として今、何らかの役割を与えられ、周囲からの期待やリソースを受け取っている以上、あなたの「位置」は「結果を出すこと」を求められた場所です。そこを直視せず、もし外的要因に不満を漏らしているだけだとしたら、それは自分の位置を「結果出す責任がある者」ではなく、「環境を批評する傍観者」だと勘違いしている状態です。
この「位置」という概念を意識して、自分に与えられた立ち位置と、求められている結果を正しく認識できていれば、自ずと「環境のせい」という言葉は出なくなります。どのような雨が降ろうとも、どのような逆風が吹こうとも、その中で結果を出すことがその位置に座る人の役割だとの認識が整うからです。この正しい「位置認識」こそが、甘えを断ち切り、意識を自責へと引き戻す強力な支えとなります。正しい位置を理解すること。そこから、迷いのない「自責思考」の一歩が始まります。
「変えられないもの」に注ぐエネルギーを「変えられるもの」へ
負けた経験を次の勝ちに転換するためには、頭の中を整理して正しく原因分析することも大事です。それは「定数」と「変数」に正しく分けるという考え方です。
・定数(変えられないもの): 景気、競合の動き、天候、審判の判定、過去の決定
・変数(自分で操作できるもの): 自分の練習量、準備の質、技術の磨き方、思考のプロセス
例えば、他責思考や免責思考に陥ってしまう人は、変えられない「定数」に目を向け、そこを主要因と誤解して「天候が変わっていれば勝てた」という、実現しない錯覚にすがっている状態が見られます。
一方で、自責思考で考えられる人は定数を「動かせない前提」として静かに受け入れ、自分が操作できる「変数」をどう動かすかという点にのみ、自分の力を注ぎます。「まず、この厳しい条件下を受け入れ、この環境で勝つためには、自分には何が不足しているのか」を冷静に見極め、自らの行動を微調整していく。この「変数」への正しい着目こそが、「変えられないもの」に注ぐエネルギーを、「変えられるもの」へ注ぐ視点の転換です。
「不足と行動変化」で会話することで、未来は拓ける
自責の習慣を身につける最も近道は、日常の言葉から主語を変えていくことです。言葉は私たちの思考を形作り、認識を正常化させる力を持っています。
・他責の言葉:「競合が安売りをしたから負けた」→(自分の外側に原因があるため、自己修正の機会が生まれない)
・自責の言葉:「付加価値で競合を上回る案が不足していた。次はここを変化させよう」→(自分の内側に改善点が見つかり、具体的な成長に繋がる)
このように、主語を自分に固定するだけで、意識構造から「言い訳」というノイズが消えていきます。上司部下での会議は、主語を常に「自分」とし「不足と行動変化」で会話することで、未来は拓けます。
結論:成長とは「正しい不足の認識」から始まる
成長とは、自らの「不足」をどれだけ素直に、そして正しく認識できるかという一点に集約されます。変えられない市場やルールに不満を漏らしている間は、まだ「環境さえ良ければ自分は勝てる」という心地よい錯覚の中にいるに過ぎません。その錯覚をしている限り、残念ながら同じ場所で同じ負けを繰り返してしまいます。
上司の本当の優しさとは、部下がこの錯覚から抜け出せるよう、感情を脇に置いて「事実」を共有し、言い訳という逃げ道を塞いであげることです。外的要因を嘆くことに使っていたエネルギーを、自らの行動を選択し直すことに転換させましょう。
上司がこの姿勢を貫き、部下が自らの不足を認めて行動を変化させ続ける。この積み重ねこそが、あらゆる敗北を確実な「勝利」へと転換させる唯一の道なのです。
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