文/濱田浩一郎

槍は突いて敵を攻撃するものではない!?
大河ドラマ「豊臣兄弟!」でも桶狭間の戦い、姉川の戦いなどの合戦が描かれていますが、戦国時代は合戦が多発した乱世でした。江戸時代初期に成立した兵法書に『雑兵物語』という書物がありますが、その内容は鉄砲足軽・弓足軽・槍持ち・馬取り・荷物運びなど雑兵30数人が部下や雑兵と合戦における体験を語るというものです。以前、同書における鉄砲足軽小頭(朝日出右衛門)の談話(https://serai.jp/hobby/1256002)を紹介しましたが、今回は先ず、槍担ぎ小頭の長柄源内左衛門の話を聞いてみましょう。
源内左衛門は言います。「槍の合戦でも先ず勝負が始まるのは、御侍衆の槍からだぞ」と。戦国の世の合戦に参加したことがない我々現代人のイメージからすると、槍というものは突くものとの印象が濃いですが、源内左衛門はそうではないと語ります。「各々、心を1つにして(槍の)穂先が揃うように拍子を合わせ、上から敵を叩きつけろ。決して、突いてはいけない」と言うのでした。源内左衛門は、1人・2人の出会い頭の戦いならば、槍で敵を突くのも良いが、そうではなく、槍数の揃った合戦(多人数での合戦)ならば、拍子を揃えて打つのが良いと断言するのです。馬上の敵の場合は、乗り手を槍で突くより「馬の太腹」を突いて、乗り手が馬から落ちたところを、槍で突くのが良いと源内左衛門はアドバイスしています。
また敵を追い崩したからと言って「一町」より遠くには追撃しないほうが良いとも源内左衛門は語っています。敵を追撃するよりも、旗や馬印がある陣で皆と固まり、そこを懸命に守備するのが良いと源内左衛門は言うのでした。皆が皆、敵を追撃するために、陣を飛び出してしまったら、守りが手薄になってしまいます。また敵を深追いすれば、はぐれてしまったり、敵方の思わぬ反撃に遭い、危険な目に遭うこともあるでしょう。そうしたことから、源内左衛門は敵を追い崩したからといって、余り深追いするなと語ったのだと思います。
槍担ぎの吉内左衛門の失敗談
さて続いて、持ち槍担ぎの吉内左衛門に登場願いましょう。吉内左衛門は銀拵の「御持槍」を担いでいたのですが、草臥れて眠ってしまっている間に、その槍の銀の逆輪(槍などの長柄の縁にはめる金物)を盗まれてしまったようです。この失態によって「死罪」になるか「咎人」になってしまうならば、敵を1人見つけて討ち取ってやろうと思い定めた吉内左衛門。
そうしたところに「馬武者」(馬に乗った武者)が1人、走ってくるではありませんか。吉内左衛門は、その武者が乗っている馬の太腹に槍を突っ込みますが、逆輪が盗まれてしまいなかったことから、槍の柄が割れてしまいます。吉内左衛門は槍を引き抜こうとしますが、けら首(槍の穂と柄とが接する部分)が引っかかってしまい、なかなか抜けません。馬が槍で突かれても、太く逞しいこともあり、転倒しない。その馬に乗る「馬武者」も倒れることはなく、槍の穂はそのまま、敵に引ったくられることになりました。
『雑兵物語』にはそうした失敗談も書かれているのです。これは「無念だ。どうするか」と吉内左衛門が悔しがっているところに、またしても敵が現れます。その敵は鍵槍(柄の上部に鍵の形をした鉄製の横手を着装した槍の一種)を持った老人でした。その老人が乗る馬は、槍傷を負ったと見えて「右の方の目玉」から血を流しています(しかし実際は槍の鍵が当たって、片目を負傷したようです)。しかも足が不自由なようです。その敵を見た吉内左衛門は「是は幸なこんだ」(これは幸せだ)と思ったとのこと。敵は老人、しかもその老人が乗る馬は負傷している。容易に敵首が取れるぞと感じたのです。吉内左衛門は右から槍で馬の下腹部の後ろ脚の付け根を突きますが、勢い余ったのか、滑って転んで、鼻を打ち、鼻血を出してしまいます。
しかし今度は、敵の馬は吉内左衛門の攻撃により、ひっくり返ります。馬に乗っていた老人も落馬し、ひっくり返る。今だとばかりに、吉内左衛門はその老人の寝首をかいたのですが、その時、大脇差(1尺8寸から2尺未満の脇差)で敵首を取ったようです。
しかし、吉内左衛門は大脇差で敵首を取るのに難儀したと言います。よって具足の上に小脇差(1尺3寸未満の脇差)を挟んでおくのが良いとアドバイスしています。また吉内左衛門は鍵槍は良いという話があるが、馬に乗る時は不利益(馬を負傷させてしまう)があるので「兎角、物は一様にはいかぬものだ」「武具には適・不適がある」と主張します。『雑兵物語』には、時代劇のようにカッコよくはいかない合戦の生々しい「現実」が記されているのでした。
文/濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

兵庫県相生市出身。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師、大阪観光大学観光学研究所客員研究員を歴任。現在、武蔵野学院大学日本総合研究所スペシャルアカデミックフェロー。
著書『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『中学生からの超口語訳 信長公記』(ベストブック)、『秀吉と秀長 天下統一の軌跡』(内外出版社)その他多数。











