
マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の用語や問題を解説するシリーズ。今回は、識学の観点から組織のマネジメントについて今一度確認していきます。
はじめに
「お客様のために」――この言葉は、ビジネスの世界において絶対的な正義として扱われてきました。現場のスタッフが、目の前のお客様の困りごとを解決するために、就業時間を過ぎて対応したり、マニュアルにない特別な値引きを提示したりする。一見、それは献身的で素晴らしい「プロフェッショナルな行動」に見えるかもしれません。
しかし、その「良かれと思って」という正義感こそが、実は組織の成長を止め、結果としてお客様を不幸にする「毒」を含んでいるとしたらどうでしょうか。
今回は、組織における意識構造を徹底的に解明する「識学」の観点から、「顧客第一」の裏側に潜む落とし穴と、組織が真に目指すべき優先順位について掘り下げていきます。
現場に蔓延する「偽りの正義」の正体
多くの企業で、現場スタッフによる「独自の判断」が横行しています。
「マニュアルではこう決まっているけれど、このお客様は急いでいるから特別に……」「本来は有料だが、サービスでやってあげよう」
これらを行うスタッフに悪気はありません。むしろ「自分は会社のために良いことをした」という達成感に包まれていることすらあります。
しかし、これは誤った自己評価(自己満足)であり、それが蔓延すると組織崩壊を招いてしまいます。
なぜなら、そのスタッフが優先しているのは「会社の存続」でも「上司の指示」でもなく、「自分自身の価値観(=正義感)」だからです。自分を「いい人」だと思いたい、目の前の顧客から直接「ありがとう」と言われて精神的な報酬を得たい。その自己満足のために、会社がコストをかけて構築した仕組みを勝手に書き換えているに過ぎないのです。
決定権者を見誤る「無駄働き」の悲劇
ここで、組織で働くすべての人間が肝に銘じておくべき残酷な真実があります。
それは、「あなたの仕事の価値=存在意義を決めるのは、お客様でも自分自身でもなく、直属の上司である」という点です。
識学では、組織における存在意義の獲得・評価のフローは、以下の通り厳格に定義しています。
・経営者は市場に対して存在意義を獲得しにいき、市場から評価をもらう。
・上司は経営者(直属の上司という前提)に対して存在意義を獲得しにいき、経営者から評価をもらう。
・部下は直属の上司に対して存在意義を獲得しにいき、直属の上司から評価をもらう。
現場のスタッフが「お客様が喜んでくれたから、自分の判断は正しかったはずだ」と主張しても、それが上司の示した方針やルールに反していれば、それは組織にとって「マイナスの行動」です。
「決定権者(評価者)は上司である」という事実を見失った瞬間、現場の努力はすべて「無駄働き」に変わります。
上司が「利益率20%を確保せよ」と命じている中で、顧客満足のために値引きをして利益率を10%に下げたスタッフは、どれほど顧客に感謝されようとも、組織人としては「未達」であり、評価に値しません。評価者を見誤り、自分の正義を押し通そうとする行為は、組織の指揮系統を破壊し、結果として自分自身のキャリアをも停滞させるリスクとなるのです。
「利益」なくして「顧客満足」は成立しない
「利益よりもお客様を優先すべきだ」という議論は、道徳的には正しく聞こえますが、経営学的には破綻しています。なぜなら、会社が存続しなければ、そのお客様を一生守り続けることができないからです。
採算度外視のサービスを「良し」とする現場は、短期的には顧客を熱狂させるかもしれません。しかし、その裏で利益が削られれば、新しい設備投資はできず、優秀な社員への給与も払えなくなります。やがてサービスの質は低下し、最終的には倒産という形で、信じてついてきてくれたお客様を裏切ることになります。
「お客様のために、まずは会社を勝たせる(利益を出す)」。この冷徹なまでの優先順位こそが、最も誠実な顧客への向き合い方なのです。
現場の「独りよがり」が招く3つの組織的リスク
ルールを無視した「過剰サービス」が常態化すると、組織は以下のリスクに直面します。
1.サービスの不均一によるブランド棄損
「Aさんは負けてくれたのに、Bさんは頑としてルールを守る」。この差が生まれた瞬間、顧客の中に「不公平感」が生まれます。ルールを守っている誠実な社員が「冷たい人」と見なされ、ルールを破る社員が「いい人」と称賛される。この逆転現象は、企業のブランドイメージを一気に失墜させます。
2.現場の疲弊と「真面目な社員」の離職
ルールのない現場では、対応の限界がありません。無理な要求を呑み続けるスタッフは精神的に追い詰められ、一方で「ルール通りにやろう」とする正当なスタッフは、周囲の「特別対応」の皺寄せを食らって疲弊します。結果として、組織を支えるべき規律正しい人材から順に辞めていくことになります。
3.改善機会の喪失
もし、現在のルールが本当にお客様を不快にさせているのであれば、それは「ルールの変更」によって解決すべき問題です。現場が勝手に例外対応をしてしまうと、上司は「ルールに欠陥があること」に気づけません。問題が表面化せず、組織としての成長が止まってしまうのです。
「正義感」を「組織の成果」へと変換するマネジメント
では、現場の熱意をどう扱うべきか。解決策は、「情熱をルールというレールの上に乗せること」です。
1.評価軸を「上司から求められること=顧客満足の定義」に明確にする
「お客様の笑顔」といった曖昧な指標ではなく、「設定された期限内に、ルールに則って、目標数値を達成したか」のみで評価します。これにより、部下は「誰の方を向いて仕事をすべきか(=評価者は誰か)」を迷わなくなります。
2.「提案」のルートを明確にする
現場で「このルールは変えたほうがいい」と感じたなら、勝手に変えるのではなく、上司に対して「ルールの変更案」を提案させます。決定権は上司にあり、実行責任は部下にある。この線引きを徹底することで、現場の気づきが組織全体の武器に変わります。
3.「例外」を報告の対象にする
もし、現場で「今のルールではお客様の不利益になる」と感じる場面があれば、勝手に判断させるのではなく、「ルールの変更案」として上司に提案させます。判断(決定権)は常に上司にあり、実行は部下にあります。
結論:本当の「優しさ」とは何か
「NO」と言えないことは、優しさではありません。会社のルールを無視して顧客に尽くす行為は、同僚を困惑させ、会社の寿命を縮める「無責任な甘え」です。
本当の優しさとは、会社が永続的に存続し、10年後、20年後も変わらずにお客様を支え続けられる基盤を作ること。そして、社員がルールの範囲内で安心してパフォーマンスを発揮できる環境を守ることです。
現場の「良かれと思って」という声を、組織のリスクにするか、それとも改善のヒントにするか。それは、マネジメントする側が「顧客満足の前に、まず組織の規律がある」という不変の原則を、どれだけ徹底できるかにかかっています。
目先の満足に流されない、真に持続可能な組織へと舵を切ってみませんか? あなたの徹底した規律作りが、今後の会社を支える揺るぎない土台となります。
識学総研:https://souken.shikigaku.jp
株式会社識学:https://corp.shikigaku.jp/











