文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

ロサンゼルス国際空港は太平洋に面している。そこから北西の方向へ海岸線に沿って約200キロ行ったところに「アメリカのデンマーク」と呼ばれている街ソルバング(Solvang)がある。

ソルバング市内の建築物はデンマーク風のスタイルで統一され、デンマーク・スタイルのパン屋やレストラン、それにギフトショップなどのお土産物探しにもってこいの店が立ち並んでいる。中心部は端から端まで数キロ程度の広さでしかないので、徒歩での観光にも向いている。

ソルバング中心部ハムレット広場に建つ「Blue Windmill」。

とは言っても、ソルバングは最初から観光都市を目指していたわけではない。1900年代初頭、アメリカ大陸に移住したデンマーク人開拓者たちが自らの宗教的アイデンティティと伝統的なライフスタイルを継承することを目的に作り上げたコミュニティである。牧師や神学者たちに率いられた彼らが入植してまず行ったことは、教会と学校の設立だったらしい。

ソルバング設立者たちの彫像。左からベネディクト・ノルデントフト、ジェンス・M・グレガーセン、ペダー・P・ホルンシルト。

ところでデンマークと聞けば、何を思い浮かべるだろうか。この国は意外に小さい。私たち日本人は自らを小さな国だと思いがちであるが、デンマークの面積はその日本の約9分の1、人口に至っては20分の1ほどでしかないのだ。そんな小さな国から生まれた世界的に有名なものはいくつかある。

まず童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの名前は誰の胸にも懐かしく響くのではないだろうか。「人魚姫」、「みにくいアヒルの子」、「マッチ売りの少女」などの作品は日本でもアメリカでも有名だ。ソルバング市中心部にはアンデルセンの彫像と博物館が建っている。

ハンス・クリスチャン・アンデルセンの彫像。
本屋に隣接したアンデルセン博物館。

他には何があるだろう? ハムレットはデンマーク王子であるし、レゴはデンマークの玩具会社だ。デニッシュと呼ばれるパンは人気があるが、英語の綴りは「Danish」、つまりデンマークの食べ物である。ソルバング市内を歩くと、そうしたデンマークの雰囲気をアメリカにいながら楽しむことができる。

パン屋のショーウィンドウ。
メインストリート、「コペンハーゲン・ドライブ」。

ソルバングはワイン愛好家にとっても魅力的だ。2004年公開の映画『サイドウェイズ』(原題: Sideways)で主要な舞台のひとつになった。ワイン愛好家の中年男性が結婚を控えた親友とワイナリー巡りをするロードムービーである。

元々、ソルバングという地名はデンマーク語で「日当たりの良い野原」を意味し、ワインの生産に適しているらしいのだ。市街地を一歩出るとワイン用の葡萄畑が多い。

それでも以前はカリフォルニアのワイン産地といえば一般的にはナパ・バレーやソノマのことであったが、この映画をきっかけにソルバングやそれを含むサンタバーバラ郡で作られるワインの人気が急上昇したという経緯がある。そのおかげで、市内にワイン・バーや試飲ができる店が次々と開店したのは、ここ20年くらいのことらしい。

ちなみに、『サイドウェイズ』は2009年に日本でもリメイクされたが、こちらの舞台はナパ・バレーに移された。もしソルバングの様子を知るために観るなら、オリジナル版がおすすめだ。

「デンマーク風車ワイナリー」産ワイン。

公共交通機関を利用してソルバングに行くとすれば、サンタバーバラが起点になる。サンタバーバラの別名は「アメリカのリビエラ」。こちらもヨーロッパの雰囲気が漂う、大人向きの落ち着いた街だ。

ロサンゼルス中央駅(Union Station)から旅客鉄道アムトラックでサンタバーバラ駅までは約2時間半、同駅からソルバングまでは連絡バスが運行している(約45分)。海岸線を走る列車の窓からは太平洋を、バスの車窓からは葡萄畑と牧場が散在する丘陵地帯の風景を楽しめるだろう。

サンタバーバラ駅。

アムトラックのウェブサイト(https://www.amtrak.com)でLAX (ロサンゼルス)とSLV(ソルバング)間の運行スケジュールを確認し、チケットを購入することができる。

ソルバング観光案内ウェブサイト https://solvangusa.com/

文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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