取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
米大リーグ、ドジャースの大谷翔平投手の通訳だった水原一平氏が賭博にハマって、1600万ドル(約24億5000万円)もの大金を大谷選手の口座から盗んだのはショッキングな話題でしたが、水原氏が手を染めたのは違法賭博。胴元の意のままにはめられていったというのが大筋の考え方です。しかし、合法的な賭博なら勝負に勝つことができるのでしょうか。ギャンブルに詳しい大阪商業大学学長の谷岡一郎さんに聞きました。
期待値と控除率
ギャンブルを数学的に考える場合、基本的な2つの概念、期待値と控除率があります。1回につき1000円賭ける賭けがあったとして、平均で850円戻ってくるなら期待値は85%、控除率は15%です。異なる期待値の複数の賭けをした場合は、その種類の数だけ別々の期待値が存在します。
期待値と控除率とはコインの裏表のようにセットになっていて、控除率があらかじめ組み込まれている、つまりビルト・インされているものが競馬や競輪などの公営ギャンブルです。総売上額から一定率の金額を控除し、その残りを投票数で割って、1票あたりの払い戻し額を決めます。この方法ですと、胴元側に危険負担が生じません。ちなみに、10円単位未満は切り捨てられます。
長期的には必ず損をする
公営ギャンブルの期待値は75%、控除率は25%にもなっていて、何回もプレイする愛好家は「まず勝てない」仕組みになっています。この控除率で、JRAは年に4兆円程度売り上げます。さらに10円単位未満の切り捨てによって生じる利益は、JRAの場合、数百億円にも達しているのです。
胴元が儲け、平均すると客側が必ずマイナスになるのは常識です。何度も賭け続けるほど損をする確率が高まり、損をしたくないと戦々恐々として、慎重に薄く広く賭け続けるほど負けが込んできます。そういう人が胴元にとっては最もいい顧客なのです。
もっとも、これは理論上のことなので、丸損することもあるし、大儲けすることもあります。宝くじは顕著で、一生当たらない人もいれば、稀に大当たりする人もいます。期待値と控除率はあくまでも理論上の平均ですが、長期的に見れば、たとえ公営ギャンブルであっても必ず損するようにできています。
人は、価値のあるものを獲得するという目的やスリルと興奮のためにギャンブルをします。それによってストレスを解消することもできます。しかし、ギャンブルの場合、賭けることによって不安も生じます。パチンコや競馬に行く時は、財布の中に限られた現金のみを入れて行き、財布など目につくものの中に家族の写真を入れておくといいでしょう。ギャンブルで身を持ち崩さないためには、賭け過ぎないことが大切です。
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)社会と医療の接点にある問題について取材・執筆。X(旧ツイッター):@world115115