近鉄奈良駅や奈良公園から徒歩圏内の「ならまち」に美味処が増えている。
奈良の風土を体現する彩りも豊かな懐石料理
「秀麗な器に手間暇かけた料理、誠実なもてなしで、お客様に喜んでいただきたい」と話すのは、店主の岡田直己さん(39歳)。奈良県の兼業農家で育ち、幼い頃から滋味あふれる奈良の食材を身近に感じてきた。専門学校卒業後は、大阪の『心斎橋 桝田』に就職。季節の移ろいを細かに表す日本料理を16年かけて学んだ。そして令和元年9月、念願かなって、猿沢池の近くに自店を開業する。
すっきりと美しい吉野檜のカウンターで味わえるのは、奈良の名産や風土を大切にしたおまかせ料理。先付から始まる8品のなかでも、岡田さんの奈良への郷愁を伝えるのが、月ごとに変わる八寸だ。
秋の八寸は大和牛のローストビーフ、奈良県産いちじくの味噌掛け、三輪素麺でつくった毬栗(いがぐり)など、10品ほどが柿の葉や稲穂とともに端正に盛り付けられる。
一見簡素に見える輪島塗の椀は、蓋をとると裏面に大仏の蒔絵が施されている。その見事さに、店主の“奈良愛”を実感させられる。出汁は枕崎の本枯節と道南の真昆布でとる大阪流。深い旨味で、真丈など椀種の味を引き立てる。
「奈良の食材の豊かさや食の楽しみを感じていただき、最後は抹茶を一服どうぞ。ここにいる間、存分にお寛ぎください」(岡田さん)
店内はカウンターのほか、個室もあり、静かに料理を堪能できる。
おか田(今御門町)
奈良市今御門町26-2 Noriビル今御門1階
電話:0742・93・8119
営業時間:11時30分~14時(最終注文13時)、18時~22時(同20時)
定休日:日曜
交通:近鉄奈良駅より徒歩約7分
カウンター9席、個室4席。昼7000円~、夜1万7300円~(サービス料込み)。
取材・文/中井シノブ 撮影/伊藤 信
※この記事は『サライ』本誌2023年11月号より転載しました。