2023年、2月13日に永眠された松本零士氏(享年85)。

氏は、漫画、アニメーションの世界で長きにわたって活躍され、日本のみならず世界中の人々に愛されておりました。生前のご功績に対し、心からの賛嘆と感謝を申し上げ、謹んで哀悼の意を表します。

松本零士氏(2020年1月21日公式Twitter用に愛猫の四代目ミーくんと共に撮影)

デビュー年齢が15歳なのか16歳なのか、その謎を解くカギが、誕生日にあった!

松本氏の経歴をひもとくと、“1954年、高校1年の16歳の時「漫画少年2月号」に『蜜蜂の冒険』が掲載されデビュー”と書かれている文献が多い。

だが、松本氏自身は「デビューは15歳」と言う。しかし漫画少年2月号の発売は1954年で、誕生年の1938年から数えれば16歳であるから、きっと記憶違いだろうと、この件についてはあまり追及されることはなかった。

2023年、1月25日の誕生日で生誕85年目をむかえた松本氏。

ふと、1月生まれというのが気にかかった。デビュー年齢が15歳なのか16歳なのか、その謎を解くカギが、誕生日にあるような気がした。

ちなみに松本氏の誕生日である1938年1月25日は、故・石ノ森章太郎氏と年、月、日全てが同じで、日本漫画界の宝ともいえる二人が産まれた記念すべき日である。その運命めいた縁のせいだろうか、以前から、誤った情報が拡散される。

二人が、一緒に手塚治虫氏のアシスタントをしていたというニュースを何度となく目にするが、これは間違いだ。石ノ森氏はアシスタントだったが、松本氏は違う。

テレビでそのように取り上げられるなど、今も真実のように伝えられている状態だ。

松本氏の関係者によれば、学生時代に1度だけ手塚氏の手伝いをしたことはあるが、常駐スタッフとして、アシスタントをした事実はないとのこと。これは松本氏自身も過去のインタヴューで同様のことを話している。

当時の漫画家アシスタントといえば、連載の手伝いをしながら、プロの作家から技術を学ぶ師弟関係のような間柄でもあった。だが松本氏は、先達の漫画家に師事した経験はなく、独学であの画法を身につけプロになったのである。

すでに高校1年生で、その才能の片鱗を見せていた松本氏。

デビュー作が掲載された「2月号」の謎

1954年の『漫画少年』2月号にデビュー作が掲載されたことは事実のようだが、この2月号というのが、実はちょっとくせ者だ。

月刊誌の場合、慣例的に月号表記は発売月の翌月にすることが多い。

現在、この表記については明確なルールが存在する。当時もそうであったかはわからないが、もし現在のルールと同じであれば、漫画少年の2月号は、1月に発売されている可能性は少なからずある。

そこで、漫画少年を創刊した加藤謙一氏のご子息・加藤丈夫氏が上梓された「『漫画少年』物語」(2002年・都市出版刊)を確認してみた。すると次のような表記をみつけることができた。

「(漫画少年創刊号の)発売日は(西暦)四七年十二月二十日で、翌年の新年号として発売された」(括弧は筆者の補足)。

当時の出版事情を知る人に聞けば、時には数日ずれることもあったが、原則、月刊誌の発売日はほぼ一定だったとのこと。

つまり漫画少年は、翌月の号数を表記した毎月20日発売の月刊誌であり、松本氏のデビュー作『蜜蜂の冒険』は、1954年1月20日発売の漫画少年に掲載された可能性が高い。

1954年1月20日であれば、5日の差とはいえ、松本少年は15歳。松本氏が言う年齢が正しいことになる。調べているうちにもうひとつの見落としに気づいた。

『蜜蜂の冒険』は、漫画少年が募集した「第一回漫画新人王」で新人王を受賞して掲載された作品だ。選考は当然掲載前に行われ、受賞の連絡は1953年のうちに松本少年に届いていたはずだ。さらに、1953年中に発売された漫画少年の誌面で、選考結果の発表がされていた可能性は極めて高い。

つまり、松本氏は1953年の15歳の時点で受賞して漫画家デビューしており、雑誌掲載も16歳の誕生日を迎える5日前、こちらも15歳の時だったことが明確になったのである。

漫画家プロデビューの記録を調べると、『エイトマン』の著者・桑田二郎氏の13歳が、最年少である可能性が高く、惜しくも一番ではないようだ。しかし15歳のデビューは十分に早い。

残念ながら没年となってしまった、今年2023年は、デビュー70年目にあたる。

70周年のメモリアル版として準備していた『新竹取物語 1000年女王』が、2月28日にB5サイズの特装版で復刻発売された。

70周年のメモリアル版『新竹取物語 1000年女王』が、生前最後の本となった

本作品は、松本アニメブームの絶頂時期に描かれ、全話合わせて1000ページに達するSF大作だ。サンケイ新聞(当時)に、毎日1ページずつ掲載されるという変わった連載方法も話題を集めたが、連載開始早々にテレビアニメ化も決定され、劇場版アニメも制作された注目作品だったので、綿密に作り込まれた壮大なストーリーは圧巻だ。

松本氏のSF的な視点、発想のすごさスケールの大きさ、今読んでも舌を巻いてしまう。

また、ノスタルジックな雰囲気を残すため、初回配本の単行本を参考にしながらカラーページをリメイク。多色刷り活版印刷を思わせる雰囲気が、懐かしくどこかうれしい。

さらには、各巻の巻頭に折り込みカラーポスターも復元。大判のイラストが楽しめるとファンの反応は上々だ。

インタビュー記事も豪華で、アニメ『1000年女王』のシナリオを担当した藤川桂介氏、メカデザインを担当した板橋克己氏が当時の思い出を語っている。連載開始とほぼ同時期にアニメ化が企画された『新竹取物語1000年女王』が、どのようにして制作されたのか。そこには衝撃の事実があった。

付録のイラスト集『新竹取物語1000年女王ART WORKS』には、1980年のカラーイラストから2019年のイベント用描き下ろしイラストまで、幅広く収録。

しかも上下巻と付録のイラスト集を美麗な化粧箱に3冊セットして収納した、まさに永久保存版である。製造の関係で、発行部数が限定4000部になったのは惜しまれる。

松本氏、生前最後の本となってしまった本書。

氏の逝去を悼みつつ、手にとって、そのたぐいまれなる才能に触れてみるのはいかがだろうか。

『新竹取物語 1000年女王特装版 上下巻+イラスト集付き限定セット』

上下巻ともに530ページ。B5判。並製。
3冊セット化粧箱入り
定価:9800円(税込)
発行部数/限定4000部
発行・発売/小学館

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