文/満尾正

新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。

栄養学は命を守るために必要な知識

この連載の目的は、読者のみなさんが自己の免疫力を高め、本質的な健康を手にすることにあります。それによって、今後いかなるパンデミックに襲われようとも生き抜き、真に「人生100年時代」を謳歌できる「健康資産」を手に入れることができるのです。
そのリテラシーを磨くには、食べ物についてもっと知ってもらうしかありません。

今は抗加齢(アンチエイジング)医療、予防医療の専門クリニックを開設している私ですが、かつては杏林大学病院の救急救命センターで救急医として最前線に立っていました。
そこには、心筋梗塞、脳梗塞、脳溢血、重症呼吸不全などを起こした重篤な患者さんが毎日、運ばれてきます。
救急領域では、栄養管理が非常に重要です。なんとか救命できたとしても、食事が摂れない患者さんに経管で栄養を投与しなければなりません。そのときに、栄養失調にならないようにどんな栄養素をどのくらい入れていくかという、そのさじ加減によって患者さんの予後は大きく変わるのです。

残念ながら救えない患者さんもおり、救急救命における栄養学をもっときわめたいと考えていた私に、あるとき、ハーバード大学の外科代謝栄養研究室への留学の機会が与えられました。
留学時にいちばん驚いたことは、管理栄養士(RD)と呼ばれるスタッフが、患者の治療方針について医者と対等に議論をしている光景を見たことです。学会でも、彼女たちのステイタスは高く、その知見は非常に重要視されていました。
そういう環境にあって私は、医師でありながら食べ物と栄養について徹底的に学ぶことができたのです。

今でこそ日本の医学界でも、栄養管理の大切さは認識されています。しかし、過去においては、そうではありませんでした。
たとえば、外科医の多くは「がんは取ればいい」というスタンスで、患者さんの栄養状態には無関心な面がありました。
しかし、栄養状態が悪いままに手術をすれば、傷が治りにくかったり、予後に影響が出たりすることがわかってきて、今は術前の栄養管理に力を注ぐようになりました。

一方で私は、ハーバードで学んだこともあり、栄養学は健康維持のために最も重要な学問だと早くから考えてきました。ウイルスとの共存が求められる今日においては、誰もが命を守るために必要な知識と言っても過言ではありません。

そして、食べ物は免疫力をはじめとした「予防医療」に深く関わっていると確信するに至り、そこに特化したクリニックを開設したのです。

私のクリニックでは、患者さんの血液データなどを詳細に分析し、その人が置かれている身体的状況を掘り下げていきます。すると、普通の健康診断では「異常なし」とされていても、なんらかの異変が起きていることがわかります。当然のことですが、こうした患者さんは、免疫力も損なわれていることが多いと言えます。

でも、その段階で食事内容などを見直すことで、かかるはずだった病気が避けられ、真の健康体に近づいていきます。

現代人に不足している栄養素、過剰な物質

実際にお会いしているわけではないので、読者のみなさん一人ひとりの健康状態を私が推し量ることはできません。しかし、これまでの経験と蓄積データから、健康にあまり配慮しない食生活を続けている現代人の体がどうなっているか、どうすればいいかということについて、かなりの確率で的確なアドバイスができると自負しています。

それほど、「現代人ならではの特徴」があるのです。

詳しくは後述しますが、現代人に絶対に足りていない3つの栄養素があります。ビタミンD、マグネシウム、亜鉛です。

逆に、過剰になっている危険物質があります。リン、有害金属、加えて糖質や人工甘味料などはできるだけ減らしていく必要があります。

「マグネシウムだの亜鉛だのリンだのと、なんだかよくわからないけど、それって食べ物の話なの?」と思われたかも知れませんね。

そうです。食べ物の話です。みなさんの免疫力に大きく関わる食べ物の話です。

本連載では、抗加齢医療、予防医療を行っていくなかで私が身につけた知見、そして日々更新される世界最先端の知識を紹介していきます。と同時に、世の中に溢れる食に関する間違った情報もできるかぎりアップデートしていきます。

これまでの食事の概念を根本からひっくり返し、思い込みと決別し、最強のリテラシーと真の免疫力を身につけてください。それはやがて、お金や人間関係と並ぶ、もしくはそれ以上の、生涯にわたる「究極の資産」になるはずです。

満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。

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