軽井沢に温泉宿を開き、自然を護りながら独自の文化を創り上げた星野リゾート。創業の地の歴史とともに110年の歩みを辿る。

昭和10年(1935)の『星野温泉旅館』全景。星野家は初代が製糸業で財を築き、跡を継いだ国次(くにじ)が敷地を流れる川が湯川(ゆかわ)という名前から、温泉湧出(ゆうしゅつ)を確信し、掘削に着手した。

温泉掘削を決断し、避暑地・軽井沢に温泉旅館を造る

標高1000mの高原に広がる軽井沢。国内有数のリゾート地で、夏は避暑を求める人で賑(にぎ)わう。避暑地としての始まりはカナダ人宣教師、アレキサンダー・クロフト・ショーが軽井沢の清涼な気候と自然を気に入り、明治19年(1886)に別荘を持ったことによる。以来、欧米人や名士が集い、明治39年には純西洋風木造建築の『三笠(みかさ)ホテル』が開業。そのような文化的な雰囲気の中、製糸業で財を成した星野国次(ほしのくにじ)は、軽井沢に温泉が湧(わ)けば、温泉地や避暑地として唯一無二の場所になると、温泉掘削に着手。大正3年(1914)に星野リゾートの出発点である『星野温泉旅館』が開業した。

開業当時の旅館。当時は星野温泉明神館と命名。温泉施設は宮造りの浴場で不老湯と名付けられた。

知識人が集まり熱く語り合う

宿では木製水車を利用した自家用水力発電を設置するなど、旅館の機能を充実。内村鑑三(うちむらかんぞう)や北原白秋(きたはらはくしゅう)ら多くの文化人が逗留(とうりゅう)し、大正10年には敷地内の材木小屋で芸術自由教育講習会が開かれ、“真に豊かな心”を求めて語り合った。のちにここは「星野遊学堂」と命名され、現在の軽井沢高原教会となっている。

敷地内の材木小屋で開かれた芸術自由教育講習会は、何事においても慎みが求められた時代に自由に討論できる空間だった。以降その場では毎年子どもたちの集いが開かれた。

本格的な発電施設で電力を賄う

2代目経営者の星野嘉政(よしまさ)は本格的なタービン水車での発電を計画し、敷地内の池を貯水池として取水・放水路を作り、昭和4年(1929)に水力発電所を完成させる。その先進的な取り組みは、平成17年(2005)に開業した『星のや軽井沢』に引き継がれている。敷地内の高低差を利用した池や水路などは水力発電システムに用いられ、さらに温泉の排湯熱や地中熱を利用したエネルギー活用も行ない、自給率で表すと約7割のエネルギーを生産(2017年時点)。77室の離れの客室を取り囲む美しい水辺の風景の裏側では、脱炭素化の取り組みが行なわれている。

昭和4年(1929)に完成した星野新発電所。左からふたり目が星野嘉政。1冊の本を参考に、本格的なタービンを導入し自力で発電所を建築。現在も発電機を入れ替え稼働中。

野鳥を慈しむ気持ち

軽井沢星野エリアには『星のや軽井沢』をはじめ日帰り温泉『星野温泉 トンボの湯』、食事や買い物ができる『ハルニレテラス』などがあるが、じつはここに隣接する国有林は、昭和49年に国設の軽井沢野鳥の森と指定されている。その経緯は、野鳥研究家で歌人の中西悟堂(なかにしごどう)が「野の鳥は野に」を理念に鳥を愛(め)でる文化を説き、それに賛同した嘉政が野鳥の保護活動に尽力したことによる。鳥は籠(かご)の中で飼うか、食用として狩猟するかという時代に、悟堂は「野鳥」「探鳥」という言葉を生み出した。

避暑地・軽井沢の名湯

日帰り温泉『星野温泉 トンボの湯』の内湯。開湯以来愛されてきた弱アルカリ性の、やわらかい単純温泉。すべて源泉かけ流し。内湯、露天風呂のほか、オートロウリュを採用したサウナも備えている。

森には散策路が設置され、約80種類の野鳥をはじめツキノワグマやニホンカモシカ、ムササビなどの多くの野生生物が息づく。平成4年(1992)に誕生した野生動植物の専門家「ピッキオ」(当時は野鳥研究室)では、ムササビの観察などが開催され、エコツーリズムの道も切り開いてきた。また人と熊との共存を図るベアドッグ(※)の繁殖も行なっている。

創業110年を迎えた星野リゾートでは、軽井沢星野エリアでクラシックコンサートや教会を彩るキャンドルナイトなど様々なイベントを開催。さらに『星のや軽井沢』では新設した棚田ラウンジで、アフタヌーンティーや特別夕食などを供する。創業時からの志を土台に、居心地のよい持続可能なリゾートとして発展を続けている。

軽井沢野鳥の森が隣接する『星のや軽井沢』。客室の種類は山路地の部屋、庭路地の部屋、そして川に面した水波の部屋がある。

※ベアドッグ:熊の匂いや気配を察知する訓練を受け、熊を追い払う犬。

●お問い合わせ/星野リゾート 電話:050・3134・8094

 

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