ようやくいつもの日常が戻り、SNSで旅のスナップを公開する友人・知人が日に日に多くなっている。目立って増えたのが八重山諸島の美しい風景写真だ。“写真映え”を意識したスナップではなく、目に映る感動体験を素直に切り取った1枚で、写真を見ているこちらまで南の島へと誘われる。現在は、全国旅行支援の期間中。久しぶりに羽を伸ばして、八重山諸島を代表する石垣島、西表島へ、感動“彩”発見の旅に出かけてみてはいかがだろうか。

絶景と歴史を巡る石垣島の旅

12の有人島と無人島を合わせ30以上の島々からなる八重山諸島。その玄関口が、沖縄本島から南西約411kmの位置に浮かぶ石垣島だ。

1980年代初頭に起こった離島ブーム時の石垣島は“着くまでも旅”といわれるほど時間を要したものだが今はまったく事情が異なる。2013年に南ぬ島(ぱいぬしま)石垣空港が開港し、直行便利用で東京・羽田空港から約3時間30分、関西空港からは約2時間45分と気軽に出かけられるようになった。このアクセスのよさも追い風に、2017年には、国内外から過去最多となる147万人が訪れたという。

石垣島は紺碧の海、豊かな緑、通年咲き誇るハイビスカスなどの花々といった美と自然が織りなす景観が大きな魅力。ジェット気流といわれる偏西風の影響がないことから、宝石を散りばめたような満天の星にも大いに心を揺さぶられる。空を仰げば全天88星座のうち、南十字星を含む84の星座を見ることができるという。さらに沖縄県では最高峰となる標高526mの於茂登岳(おもとだけ)がそびえ、山頂からは、日本最大の珊瑚の海域を楽しめる。

川平湾は自然が織りなす絶景の美術館

石垣島の名勝巡りのはじまりは、2009年、ミシュランで三ツ星を獲得した石垣島屈指の景勝地、川平(かびら)湾だ。

湾口には小島(くじま)などの小さな島々があり、透明度の高い石垣ブルーの海と白い砂浜のコントラストは芸術的。八重山諸島を何度も訪れた「サライjp」編集長は「八重山諸島の中でも最も絵画的な趣のある絶景です。風や波の音も情緒的で、記憶に残る完成された天然の美を感じます」と語る。

“エメラルドグリーン”に例えられる入り江に9つの小島が浮かぶ川平湾。川平公園展望台は絶好の撮影ポイントにもなっている。気持ちのいい散歩を楽しめる遊歩道も整備されている。

大正時代より黒真珠の養殖が行なわれる湾内は、潮の流れが速く遊泳禁止地域だが、船底がガラスになったグラスボートから海中の様子を観察することができる。時刻限定で運航されるEVグラスボートの「ちゅらら」は、音が静かで船酔いしにくく、環境にも人にもやさしい船。船長がさまざまなポイントに船を移動しながら詳しく説明を加えてくれる。心地いい南国の風を肌で感じながら、澄みわたる空と透き透る海、船底からは石垣ならではの珊瑚の美景が目を楽しませる。

川平マリンサービスが運航するグラスボート。乗船時間は30分。

グラスボートからは、40年もののシャコ貝の群生や、300年かけて成長した珍しいジャガイモ珊瑚、南洋の魚イラブチャーなど、さまざまな生物との出会いがあり、さながら自然のアクアリウムといえる。色彩豊かな珊瑚や熱帯魚の泳ぐ様は、川平湾のもう一つの絶景スポットといえるだろう。

クマノミをはじめ珊瑚に生息するさまざまな熱帯魚が間近に泳ぐ。
この日は悠々と海の中を泳ぐウミガメの姿もあった。

川平マリンサービス

住所:沖縄県石垣市字川平911番地 電話:0980-88-2335 営業時間:9時~17時(15分毎に運行) 乗船料金:大人1300円

悠久の時が造りあげた奇跡の石垣島鍾乳洞

エメラルドグリーンの海を堪能した後は、石垣島の歴史の一端を垣間見られる石垣島鍾乳洞に足を運ぶ。20万年もの歳月をかけて自然が創造した神秘の空間は、石垣島で最大の全長3.2kmの大鍾乳洞。鍾乳洞内にあるイルミネーションが幻想的な世界へと導き、耳をすませば水琴窟の音が静寂の中に共鳴する。大石柱などの鍾乳石群に守られた長さ40m、幅20m、高さ6mの「神々の彫刻の森」は、巨大な地底宮殿ともいえる、悠久の歴史が生んだ奇跡の空間である。

日本最南端の鍾乳洞。遠い昔、海底にあった珊瑚礁が地殻変動によって隆起して出来上がった。
洞内はライトアップされ幻想的な雰囲気に包まれる。

石垣島鍾乳洞

住所:沖縄県石垣市石垣1666 電話:0980-83-1550 鍾乳洞営業時間:9時~18時30分 (最終入洞受付18時)入場料金:大人1200円

世界一とも称えられる米原ヤエヤマヤシ群落

八重山諸島の中でも、石垣島と西表島だけに自生するヤエヤマヤシを観賞できるのが米原地区にある国定天然記念物のヤエヤマヤシ群落だ。まっすぐ伸びた幹は、樹高25mにも達し、大きな波状複葉の葉をつける姿は「世界でもっとも美しいヤシ」とも称えられる。石垣島では米原地区だけに自生するヤエヤマヤシ。年々その数は減り環境省のレッドデータにも指定される。運がよければキノボリトカゲにも出会える。

米原ヤエヤマヤシ群落

住所:沖縄県石垣市桴海554 入場料金:無料

群落の入り口には行列の絶えない「パーラーぱぱ屋」があり、フルーツと搾り立てのさとうきび汁で作った天然の生ジュースで一息入れられる。南国フルーツに、水、砂糖の代わりにさとうきびをミックスした搾りたての100%天然ジュース。添加物も一切使わず、自然の味、香りを楽しめる。

さとうきびは朝一番に自前の畑で収穫しまとめて搾り、汁は一旦凍らせてからジュースに使用している。
“森の卵”とも呼ばれ、都会では滅多に出回らない「カニステル」という果物とサトウキビのブレンド(500円)と「Bブレンド アップルマンゴー×パイン×さとうきび」(500円)をオーダー。

注文ごとに新鮮な果実を使いジューサーで作るその味は驚くほど濃厚で甘い。南の島に来たことを実感させてくれる。

パーラーぱぱ屋

住所:沖縄県石垣市桴海491 電話:0980-88-2583 営業時間:8時30分〜18時 定休日:水曜

神秘的なブルーが特徴の石垣焼窯元で、世界にひとつだけの焼き物をつくる

アクティブな時間を過ごした後は、独自の伝統技法を使い神秘的な海の景色を表現する石垣焼の窯元を訪問。ミネラルの多い石垣の鉱石の粉末と、透明なガラスから生まれたブルーの焼き物は、石垣そのものであり、その色彩はインテリアとしても映える。建物の中に入ると、商品展示と販売を行なう美術館のようなギャラリーと、石垣焼の体験工房がある。予約すれば陶芸の初心者でも参加できるので、世界にひとつだけの作品を、石垣島の思い出にしてみたい。

「石垣焼コース」は、粘土をコネてお皿を作るコース。マンタや丸、長方形など、好きな形が選べる。用意された珊瑚や貝を押し付けて模様をつけることもできるが、自分で拾ってきた貝などを使うのもおすすめだ。作った作品は、焼成後に後日着払いで郵送。手元に届くまで現在8か月待ちだという。

石垣焼窯元

住所:沖縄県石垣市名蔵1356-71 電話:0980-88-8722 営業時間:ギャラリー9時〜17時 体験コース10時、13時、15時(予約制) 料金:「石垣焼コース」5500円

石垣島の風土と自然が生んだ石垣牛

沖縄本島と離れていることから、古来より八重山諸島の島々は独自の文化を築いてきた。食文化では、2000年の九州・沖縄サミットの晩餐会でメインディッシュとして提供され、ブランド牛となった黒毛和種石垣牛の牛肉を味わいたい。温暖な気候、豊かな草地や水などに恵まれた石垣島の環境が石垣牛のおいしさの秘密。脂が少なく、あっさりとしていて、旨みのある味わいは八重山の泡盛にもよく合う。観光客にも人気の「石垣島ヴィレッジ」3階にある焼肉店「やきにく CHAN 石垣島」では、A4ランク以上の石垣牛を提供。肉質は柔らかく、口の中に旨みが広がったあとにほどけていく。醤油だれと、少し辛い味噌だれが用意されそれぞれの味に舌鼓を打てる。開放的なテラス席での食事も格別だ。

名物の石垣牛3種盛りに、パイナップルの搾りかすなどを与えて育てる「南ぬ豚(石垣島産アグー豚)」、沖縄を感じる島野菜などのサイドメニューを注文。ナツメやクコの実が入った特製火鍋スープが女性に人気。

やきにく CHAN 石垣島

住所:沖縄県石垣市美崎町8-9 Crice Nikko石垣島ヴィレッジ3階 電話:0980-87-9777 営業時間:17時〜23時(L.O.22時) 定休日:火曜

始のマングローブ林が残る日本最後の秘境

八重山諸島の中心となる石垣港には、7つの離島を結ぶ離島ターミナルがある。ターミナルから高速船を使い約40分で着くのが、今回の旅のもう一つの目的地である西表島だ。1966年、イリオモテヤマネコが発見されたことで一躍有名になり、八重山諸島の離島ブーム時には“日本最後の秘境”と呼ばれた。入島規制を行い、自然環境や動物の保護を行なう取り組みは、2021年には世界自然遺産に登録された記憶も新しい。

西表島は沖縄本島に次いで沖縄県内で2番目に広い島だ。面積の90%以上にあたる約200ヘクタールにわたるマングローブジャングルを有し、日本産のマングローブ植物全7種をすべて見られる。島の約7割が世界自然遺産として登録されており、マングローブ林の中を歩くだけでも、太古の時代に思いを馳せることができる。

原始の森を進む、仲間川マングローブクルーズ

子どもの頃の冒険心を満たしてくれるのが、西表島・大原港から出発し、マングローブ林を遊覧船でのんびり観賞できる「仲間川マングローブクルーズ」だ。

日本最大規模のマングローブ群に囲まれた仲間川。原始の時代にタイムスリップした中をクルーズ船は進んでいく。

海と川の境である仲間川は全長約17.5km。マングローブの流域面積日本一を誇り、船は原始の姿を今に残す雄大な自然に囲まれた仲間川を遡っていく。仲間川は高低差が少なく、河口から約10kmまで潮の満ち引きがあるため泥が運ばれやすく、マングローブにとって生育しやすい環境が整っている。今回参加したのは「サキシマスオウノキコース」。歩くことなくマングローブ林を堪能できる「マングローブ コース」も幅広い世代に人気が高い。

「サキシマスオウノキコース」は、6.5km地点に船着場があり、木道を歩いてすぐのところに日本最大樹齢約400年のサキシマスオウノキが根を板壁のように広げて堂々と佇む。船着場滞在は10〜15分ほど。帰りは同じコースを辿り大原港へ戻っていく。

仲間川マングローブクルーズ 

集合場所:大原港 電話:0980-85-5304(株式会社東部交通) 受付時間:コースと潮位により異なる(詳しくはホームページを参照)。 料金:サキシマスオウノキコース 大人3000円、マングローブコース 大人 2000円
https://iriomote.com/top/onlycruize/

水牛車に乗って海を渡る亜熱帯植物楽園由布島

西表島から約400m離れた由布島も西表観光の定番。水牛はもともとこの島にいたわけではなく、昭和初期に台湾からの入植者が60頭ほど連れてきたのがはじまり。由布島へは浅瀬を徒歩でも渡れるが、ここは名物の水牛車に乗って、ゆっくりと渡るのがおすすめだ。

浅瀬を水牛車がゆっくり進んでいくシーンは由布島を象徴的する風景。牛車を引いてくれたのは16歳の「ゆうと」君で、牛車と乗っている人間を合わせて2トンくらいを引っ張る力があるという。約400m先の由布島までは約15分で到着する。

周囲約2kmの由布島は、島全体が「亜熱帯植物楽園」となり、至る所に南国の草花が生い茂る。島内には果樹園やレストランがあり、「蝶々園」では、亜熱帯にしか生息しない珍しい蝶も間近に拝むこともできる。のんびり、ゆったり、西表島の自然と触れ合える空間だ。

蝶々園には、石垣市の市蝶である「オオゴマダラ」が優雅に飛び交う。美しい金色のサナギは特徴的だ。

亜熱帯植物楽園由布島

住所:沖縄県八重山郡竹富町古見 電話:0980-85-5470  営業時間:9時30分〜16時(入園締切15時15分)※潮位により変更あり。往復水牛車&入園料:大人2000円(旅行クーポンは使えない)

幻のイダの浜など船浮集落は名所の宝庫

白浜港から船でいくことしかできない西表島の最西部の集落・船浮(ふなうき)はイリオモテヤマネコの発見地としても有名な場所。船浮伝説にちなむ「かまどまの碑」、「旧日本軍壕」といった名所もある。

船浮集落は観光地を離れのんびり過ごしたい人に最適。集落内には民宿もある。(c) 竹富町観光協会

集落を抜けると「幻の浜」と言われる「イダの浜」がある。海は遠浅で透明度も高く、その景観は西表島随一ともいわれる。

船浮港から15分ほど歩くと突如現れるイダの浜。クルマでは行けない秘境だからこそ手つかずの自然が残る。西表でもっとも美しいビーチといわれている。(c) 竹富町観光協会
船浮湾を臨む名瀑「水落の滝」へは白浜港よりツアー船が就航している。(c) 竹富町観光協会

海・山・川からの自然の恵みを味わえる

海、山、川に育まれた自然の恵み豊富な西表島。海鮮料理では、高級食材「ノコギリガザミ(マングローブガザミ)」、近海で水揚げされた新鮮な魚介類などが味わえる。肉料理では、カマイとも呼ばれるリュウキュウイノシシを使った料理が島の名物。脂身はあっさり甘味がありとてもジューシーだ。島の人たちも「あそこは美味しい」と太鼓判を押すのが西表島上原港すぐにある「うまんちゅCafe」。島出身のオーナーは西表島のガザミ伝統猟の達人としても知られ、ネイチャーツアーガイドも務めている。この店で出される海産物や猪の肉はすべてオーナーが自ら獲ってきたものだ。

マングローブ林などに生息するワタリガニの一種、ノコギリガザミはカニとホタテの貝柱を合わせたような美味しさがありパスタにあえてもおいしい。「うまんちゅCafe」では、身がびっしり詰まったノコギリガザミ(蒸し)、猪チャンプルー、ゴーヤ甘酢漬け、島の海鮮サラダを注文。肩肉、カニ味噌とカニの足で出汁をとった「ノコギリガザミそば」は島の人も推す絶品メニューだ。

うまんちゅCafe

住所:沖縄県八重山郡竹富町上原545 電話:090-1846-5031 営業時間:11時頃~夕方頃(夕食は予約制)

「サライ.jp」編集長は西表島を日本最後の楽園と評する。「これほどまでに手つかずの自然を残しながら観光地としての魅力もふんだんに備えた稀有な場所。原始の森や地産の滋味など、さまざまな発見があります」

石垣島で南国情緒を満喫し西表島で太古の自然に触れる。この地でしかできない感動を体験してみよう。

石垣島・西表島ともにバスによる周遊がおすすめ

石垣島、西表島ともに島内の移動はレンタカーが主流だが、のんびり旅を楽しむのであれば、主要な観光スポットを結ぶ観光バスを使った周遊はいかがだろうか。夫婦旅はもちろん、グループ旅行では全員が一緒に移動できる上、バスを利用することで無駄な二酸化炭素の排出抑制にもつながり、島の自然を守りながら旅を続けることができる。

世界自然遺産の登録をきかっけに、「脱炭素」の取り組みとして西表島交通がこの春より導入したEVバス。外観にはイリオモテヤマネコ、ウミガメ、アカショウビンが描かれる。座席にはUSBジャックとAC電源が用意されスマホやPCの充電に対応する。

沖縄県の旅行支援についてはこちら

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取材・文/安藤政弘 撮影/星川慶

 

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