博多駅〜長崎駅間がより早く快適に!
西九州新幹線「かもめ」で長崎へ
2022年秋に、武雄温泉駅~長崎駅間を颯爽と走る西九州新幹線「かもめ」が開業した。博多駅〜長崎駅間をこれまでより30分短縮し、最速1時間20分で結ばれた。スピードだけではなく、クラシックとモダンを調和させた上質なインテリアデザインや、ゆったり座れるシートはシニアの人気も高い。デザインは豪華寝台列車「ななつ星」と同じ、工業デザイナー水戸岡鋭治氏が手がけたもの。異国情緒にあふれるこの地を訪ね、歴史や文化のある名所を巡る夫婦2人旅に出かけてみてはいかがだろうか。
明治日本の産業革命遺産 軍艦島へ上陸
長崎港から上陸クルーズに乗船し、船で約40分。海原に浮かぶのが岩礁と砂洲の周りを埋め立てて造成された世界文化遺産の島、「軍艦島」。明治から昭和にかけて小さな海底炭坑の島として栄え、1960年には約5300人が居住。当時は、東京を上回る日本一の人口密度を誇り、日本で最初の鉄筋コンクリート造住宅が建設され、島内には小中学校や病院、映画館などの娯楽施設もあったという。岸壁が島全体を囲い、高層鉄筋コンクリートが立ち並ぶその外観が戦艦「土佐」に似ているところから「軍艦島」と呼ばれるようになった。現在は無人島になっているが、上陸クルーズの人気は高く、炭鉱産業が盛んだった1960年代の風景が高度成長期の郷愁を誘う。
復元整備でハイカラ文化がよみがえる出島を歩く
長崎は古くから海上交通の拠点として繁栄し、1550年(天文19年)には、ポルトガル船の平戸来航をきっかけに南蛮貿易・朱印船貿易が始まった。その後、長崎の貿易港として重要な役割を果たしたのが、江戸の鎖国下、西ヨーロッパに開かれた日本唯一の開港地として貿易の玄関口を担った「出島」だ。
JR長崎駅から路面電車(長崎電気軌道)で約4分。3駅先の出島駅で下車すると、そこに当時の姿が再現された出島がある。出島はキリスト教の布教防止などを目的にしたポルトガル人の収容地として1636年(寛永13年)、埋め立てによって築造された扇形の人工島だ。翌年に起こった島原の乱によって、ポルトガルに対する取り締まりを強めた幕府は、1639年(寛永16年)に出島からポルトガル人を追放する。一旦は無人島となったが、1641年(寛永18年)には平戸にあったオランダ商館が出島に移転。1859年(安政6年)の安政の開国までの約218年間、出島を通じて日本とオランダの貿易が続けられた。
明治以降、長崎港の港湾整備によって陸続きとなり、ユニークな扇形の地形は失われたが、1951年(昭和26年)から長崎市が出島の復元整備に着手。2017年、130年ぶりの架け橋となる「出島表門橋」や、オランダ商館長が居住した「カピタン部屋」をはじめ、これまでに16棟の建物や当時の景観がよみがえり、その街並みに鎖国期の面影を見ることができる。建物の内部は考古資料の展示や「出島グッズ」を販売するミュージアムショップに利用されるほか、明治時代から残る洋館「長崎内外倶楽部レストラン」では、トルコライスをはじめとした長崎の食材を使った長崎ならではの食が楽しめる。日本と西洋の雰囲気が混じり合う異世界でしばしタイムスリップ気分に浸ることができる。
散策のあとのランチは、創業123年の名店『四海樓』で、「皿うどん」を食す
異国情緒を満喫した後は、「大浦天主堂」電停から徒歩1分、ちゃんぽんと皿うどん発祥のお店として有名な、創業123年の『四海樓(しかいろう)』の皿うどんがおすすめだ。「皿うどん」は全国的に知られる長崎名物の麺料理。1899年(明治32年)に「ちゃんぽん」を考案した中華料理店『四海樓』の店主・陳平順さんが、汁なしのちゃんぽんとして作ったもので、その独自の味わいから、後年「ちゃんぽん」と並んで長崎のご当地料理に育っていった。パリパリとした麺が、たっぷり具材、とろみのある餡とよくなじみ、おいしくいただける。
ゴシック様式で建設された日本最古のカトリック教会「大浦天主堂」を訪ねる
国宝「大浦天主堂」は南山手グラバー通りに面した地にゴシック様式で建つ、現存する日本最古のカトリック教会。ユネスコの世界文化遺産に記録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産でもある。1597年(慶長2年)、大阪・京都周辺で捕らえられ長崎の西坂の丘で処刑された宣教師やキリシタンの日本二十六聖人に捧げられた教会であり、建物の正面は殉教の地となった西坂に向けて建てられている。竣工翌年の1865年(慶応元年)、宣教師が追放された後も250年間信仰を守り通した浦上村の潜伏キリシタンの一団が教会を訪れ信仰を神父に告白した、キリスト教の歴史においても奇跡といわれる「信徒発見」の舞台にもなった。
建物の外観はレンガ造で表面は漆喰で白く塗られ、聖堂内部にはつくられて1世紀以上経過したステンドグラスなど創建当初の面影が今も残されている。キリシタン博物館として開館する「旧羅典神学校」や「旧長崎大司教館」が隣接し、南山手の丘に上ると長崎港の大パノラマを眺望できる名所「グラバー園」がある。周辺は静かな住宅地で、長崎の風土から生まれた異国情緒を感じながらのんびりと散策を楽しめる。
長崎港の1000万ドルの夜景が一望できるランドマーク・稲佐山 (いなさやま)に登る
日が落ちる頃には長崎港を望む夜景スポットへ。鶴が羽を広げたような形をしていることから別名は「鶴の港」。山々に囲まれたすり鉢状の地形がつくり出す立体的な「1000万ドルの夜景」を一望できるのが、長崎市のランドマークとして知られる標高333メートルの稲佐山だ。あまりに美しい景観は、2021年の「世界夜景サミットin長崎」でモナコ、上海とともに「世界新三大夜景」に選出され、「夜景サミット2022 in札幌」でも稲佐山を含む長崎市が「日本新三大夜景」に再認定されたほど。山頂には、イルミネーションによる幻想的な光の空間である円筒形・総ガラス張りの展望塔「ビュータワー」があり、360度パノラマで楽しめる夜景だけでなく、晴れた日には長崎市街地から、遠く雲仙・天草・五島列島まで見渡すことができる。展望塔へはガラス張りのゴンドラで空中散歩を楽しめるロープウェイ、または新たに導入された360度を見渡すことのできるモノレールタイプのスロープカーで行くことができる。ツツジの名所としても名高く、施設としてイベント広場や野外音楽堂もつくられている。シニアには、市内の主なホテル前から乗車ができる稲佐山展望台「夜景見学ツアー」(大人2000円)のバスツアーが便利。バスガイドの観光案内を聞きながら稲佐山山頂へバスで移動し、山頂で約40分の夜景観賞を楽しんだあと各ホテルまで送ってくれる。
“地獄”を五感で楽しむことができる雲仙地獄へ
長崎市街から直通バスで一路、雲仙温泉へと向かう。雲仙は僧の行基により701年に開基。その当時は「温泉山(うんぜんさん)」と書き表されていたという。標高700mの高地にあり、明治時代から避暑地として多くの外国人に親しまれ、1934年(昭和9年)には、日本で最初の国立公園に指定された。この雲仙温泉を代表する観光スポットが、古湯と新湯の間にある、白く脱色した粘土状の土におおわれた雲仙地獄だ。大地のあちらこちらにある噴気孔から高温の温泉と噴気が激しい轟音とともに噴出し、強い硫黄臭がただよう中、湯けむりをもうもうと上げる光景が地獄の由来となっている。
地獄内は遊歩道が整備され、見るだけではなく、雲仙地獄を五感で楽しむスポットも用意。足を置くと地熱や噴気を体感できる休憩所「雲仙地獄足蒸し」、1日に2000個以上も売れる雲仙地獄で蒸した、出来立て熱々の温泉たまごを食べられる「雲仙地獄工房」などもある。夜の雲仙地獄を、ライトを手に巡る「雲仙地獄のナイトツアー」、日にち限定開催の「湯にも地獄な物語」は、和服姿の語り手と三味線奏者が夜の地獄を臨場感たっぷりに案内。ここでしか体験できないナイトツアーだ。
長崎由来の異国文化を取り込んだ星野リゾートの温泉旅館「界 雲仙」
雲仙天草国立公園内の雲仙温泉にある「界 雲仙」は、雲仙地獄に面した場所に立地する2022年11月にオープンした星野リゾートの温泉旅館。立ち込める噴気や湯気が漂い、滞在を通して、大地のエネルギーを身近に感じることができる。地獄パワーに触れられるよう、温泉入浴や地獄を活用した朝のパワーウォークも提案している。館内の設えには、さまざまな人や文化が往来する中で熟成した、和、華、蘭が一体となった長崎文化を取り入れ、異国情緒あふれる華やかな文化を伝える。
当時の武家生活の様子を偲ぶ、島原 武家屋敷へ
島原城に接した鉄砲隊の居住地であったことから、一帯は鉄砲町ともいわれ、江戸時代には板敷きの玄関を構えた徒士屋敷約700戸が立ち並んでいた。その一部、延長406.8m、幅長5.6mもの町並みが現在もそのままの姿で武家屋敷として保存されており、山本邸、篠塚邸、鳥田邸の3軒が一般に無料開放されている。ここまで美しい状態で残る建築遺構は全国的にも極めて少ない。生活用水のための水路も風情があり、当時の武家生活の様子をしのぶことができる。
独特の風致景観が広がる近代の住宅庭園「湧水庭園 四明荘(ゆうすいていえん しめいそう)」
明治後期に開業医の伊東元三氏の別邸として建築された水屋敷。四方の眺望に優れていることから「四明荘」と名付けられた。1日約3000トンという豊かな湧水を利用して造られ、池には色とりどりの鯉が泳ぎ、庭内には赤松や楓など様々な植栽を見ることができる。座敷は二方が池へ張り出し、一段高い屋敷から庭園を見下ろすと座敷と庭園が一体となり、絵画のように美しい独特の風景が広がる。
西九州新幹線の開業を契機に、他県にはない独自の和華蘭文化を育んできた長崎へ足を運んでみてはいかがだろうか。
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構成・文/安藤政弘