「耳鳴り」「難聴」は症状もさまざまなうえ、原因がわかりづらく、治りにくい病とされています。また、コロナ禍におけるマスク生活で、マスクがフィルターのようになり会話が聞き取りにくくなっており、耳の聞こえにくさに不安を感じている人が増えています。
そこで、国際医療福祉大学病院 耳鼻咽喉科の教授・中川雅文先生の『聴くだけで耳鳴り・難聴を治せる本!』(宝島社)から、難聴のメカニズムをご紹介します。
監修/中川雅文
正常と診断されても7~8割は、 隠れ難聴
健康診断などで静かな防音室で聴力検査をしたときには異常は見つからないのに、周りが騒がしくなったとたん聞こえが悪くなるという「隠れ難聴」が増えています。静かな環境で集中して行う聴力検査でわかるのは、耳の不調のごく一部。よって、正常と診断されていても、7~8割の人は隠れ難聴である可能性があると指摘されています。
そもそも耳には、必要な音だけを選別し、不要な音を無視するという力が備わっています。例えば、人の多い場所でも、知り合いの声だけは聞こえてくるといったような体験をしたことがあるのではないでしょうか。これが必要な音だけをピックアップして聞くことができる耳の力。難聴になると、この不要な音を無視する力が弱まり、ざわついた場所で必要な音を取捨選択できなくなってしまうのです。
正しい耳の状態を把握するのもケアの一環
聴力のレベルや難聴の程度は、音の大きさの大小を表す単位「デシベル」で分類しています。難聴が進めば、小さい音はどんどん聞き取れなくなっていきます。また、音の高さや低さを表す単位「ヘルツ」(周波数)があります。難聴が進むと、高い周波数の音から聞こえなくなっていきます。「不要な音を無視する力」は、耳に入ってきた膨大な種類の周波数を持つ音を分類し、そこに優先順位をつけて処理します。
例えば、人の会話は250~6000ヘルツの範囲の周波数帯です。健康な耳であれば、車の走行音の中で会話をしていても、250~6000ヘルツの会話の周波数帯が優先されるので車の走行音は無視されます。
しかし、隠れ難聴の人は、聞こえる音が優先順位もなく脳に入るので、会話が聞き取れないという状態になります。 健康診断では正常でも、ざわついた場所で聞き取りにくいという人は、一度、耳鼻科で検査をしてもらうことをおすすめします。現在の正しい聴力を把握するのも難聴対策の一つです。
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TJMOOK『聴くだけで耳鳴り・難聴を治せる本!』 監修 中川雅文
宝島社
QRコードによる『耳トレ音源』付き。スマホさえあればどこでも気軽にトレーニングできます。直接的に脳や内耳を刺激し、耳の不調を改善してくれます。
中川雅文(なかがわ・まさふみ)
国際医療福祉大学病院 耳鼻咽喉科 教授・医学博士。1986年順天堂大学医学部卒業。順天堂大学医学部講師、私学事業団東京臨海病院耳鼻咽喉科部長、順天堂大学医学部客員准教授を経て、現職。(一社)日本メイクリスニングセーフ協会理事、(一社)日本ニューロマーケティング協会代表理事。耳とコミュニケーション研究の第一人者としてテレビなどのメディアでも活躍。聴覚障害者の支援に関わる啓蒙や教育活動にも積極的に取り組む。著書に『「聞こえにくい」がなおる耳トレ』(大和書房)、『「耳の不調」が脳までダメにする』(講談社)。