更年期症状が現れるのは体だけではありません。イライラや不安感など、心にも影響が出る人も少なくありません。コロナ禍でストレス発散が思うようにできない今、心のコントロールが難しい更年期症状をどう抑えればいいのでしょうか。更年期障害に詳しい、産婦人科医の対馬ルリ子先生に聞きました。

自分の体を知ることがケアにつながる

「私はこれまで、更年期症状に悩む多くの女性の診察をしてきましたが、自分の体のことを知らない方が多いことに驚きました。もちろんすべてが本人の努力不足というわけではありません。本来なら、子どもの頃から、女性の体の仕組みについて経験と知識を積み重ねておくべきですが、日本の学校では勉強をする機会はほとんどありませんし、社会人になってからは勉強する時間をとることも難しくなります。更年期を上手に乗り越えるには、まずは女性の体の機能や特徴についてよく勉強されるといいですね。日本の女性は自分の体のことを知らず、更年期症状が現れても、『自分が弱いせいで我慢が足りない』とか、『これはどうしようもないことであきらめるしかない』と思っている人がどんなに多いことか。決して自分を責めたり、仕方がないと諦めたりしないでください。現代医学の知識を持ち、体を理解するだけで、更年期との向き合い方がまったく変わってきます。同時に自分の体や心のケアが上手になります」

あらかじめ、ライフステージで変化する女性の体のしくみを知っておけば、更年期症状が現れた時でも、冷静に対処できるといいます。

「最近は手軽に読めるインターネットの記事を参考にされる方も増えていますが、ネットの情報は断片的であったり、非常に偏っていたり、あるいは誤っている情報も多いので注意してください。大事なのはサイエンスに基づいた正しい知識を持ち、女性の性機能、女性ホルモン機能の目的と働き、変化などについて理解を深めることです。そうすれば更年期や更年期以降、自分の体の中に何が起こるか予想することができます。私は女性の健康の応援団長として、2002年から『女性ホルモン塾®』を開講し、多くの女性に正しい知識をアドバイスしています」

知識のスキルアップが危機から身を守る

具体的にはどのような備えをしておけばいいのでしょうか。

「もともと排卵、月経の周期によって女性ホルモンが変動すると、自律神経や感情面、免疫面も一緒に変わっていきますが、女性ホルモンが急激に減少、もしくは閉経でゼロになってしまう更年期は特に変動が大きくなります。人生100年時代といわれる現代、閉経後も寿命が50年近くある人が増えますので、女性ホルモンが低下しても、栄養面や体のバランスをどう保つかをスキルアップしておくといいと思います。女性の体は女性に危機の存在を教えてくれます。前もって自分の弱いところをカバーする方法を見つけておくことも大事ですね。更年期であれば、40歳ぐらいから準備をしておき、老年期の認知症、骨粗しょう症、ロコモティブシンドロームの予防を考えるなら更年期に入った時から備える必要があります。自分の体と心をしっかりと見て、健康診断の結果をもとに、いま自分は何をすべきなのか、何ができるかを積み重ねていくことが、人生の後半50年の健康づくりであり、しあわせづくりだと考えます」

コロナ禍でも折れない心を育むために

コロナ禍でストレス発散がうまくできていないという方は、どのように更年期と向き合えばいいのでしょうか。

「コロナ禍であっても、自分の美容法や健康法、仕事に対する考え方、人生に対する心構えや価値観がしっかりしている方は、コロナ前とあまり変わりのない生活をしていらっしゃいます。けれども、慰めあったり、愚痴を言いあったりするコミュニケーションがないとさみしくて不安でしょうがないという方や、家にずっと籠りっきりの方、夫との関係がうまくいかず、つらい目にあっているような方は大変な状況になっています。女性は排卵や月経でホルモンが揺らぎますので、揺らぐたびに涙が止まらくなったり、鬱になって自殺念慮がでたりというケースもあります。対人関係がうまくいかないとイライラして、家族に八つ当たりをするということも…。男女を問わず人間は、心に余裕がなくなるとイライラするものです。コロナ禍でストレスがたまってきたら、できるだけ気持ちに余裕をもつよう気分転換をしたり、別の楽しみもつなどの努力をするといいですね」

対策としては心をコントロールする方法を知ることが重要と言われています。

「女性ホルモンは大きなエネルギーなので、そのエネルギーのレベルがどのような状態かを把握しておくことです。余裕をなくした時に、自分のエネルギーを別の方法でちゃんと補充したり、平静を取り戻せるよう、ふだんから自分なりにトレーニングしておくのはとても大事なことだと思います」

お話を伺ったのは……


対馬ルリ子先生
医療法人社団 ウィミンズ・ウェルネス
対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座・新宿 理事長
産婦人科医師、医学博士


1984年弘前大医学部卒。東京大産婦人科教室助手、都立墨東病院総合周産期センター産婦人科医長を経て、2002年ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(現・対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座)開院。産婦人科、内科、乳腺外科、心療内科、泌尿器科等で協力し全人的女性医療に取り組む。2003年女性の心と体、社会との関わりを総合的にとらえNPO法人「女性医療ネットワーク」を設立し理事長に就任。全国約600名の女性医師・女性医療者と連携して活動し、さまざまな情報提供、啓発活動や政策提言を行っている。一般財団法人日本女性財団代表理事、ウィミンズ・ヘルス・アクション実行委員会副代表、一般法人社団日本女性医療者連合副代表。2017年日本家族計画協会「第21回松本賞」受賞。2017年デーリー東北賞受賞。2018年東京都医師会・グループ研究賞受賞。著書多数。近著に『「閉経」のホントがわかる本』(集英社・2020年)

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘  写真提供/対馬ルリ子女性ライフクリニック

 

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