コロナ禍の巣ごもり生活で、食べ過ぎ・飲みすぎ、運動不足がたたり、体重が増えたという嘆きが聞かれるようになりました。肥満は生活習慣病を引き起こす原因となり、年齢を重ねるごとに病気によるリスクが高まっていきます。最近、患者数が急増している「逆流性食道炎」も、肥満が発症の要因といわれる病気の一つです。胃酸が食道に逆戻りすることで胸やけや、酸っぱいものがこみあげてくる呑酸が典型的な症状であり、病気が進行すると、不眠や激しい咳などがあらわれ、生活そのものに支障をきたすこともあります。 逆流性食道炎にかかる仕組みや原因、どうすれば予防でき、どんな治療法があるかを、消化器内科の専門医である京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長の内藤裕二先生に、4回に分けてお話をお聞きします。4回目は「 食生活で気をつけること 」について。
自分にとって逆流しやすい食べ物を探す
胸やけを起こしやすい食べ物として、高脂肪食、アルコール、チョコレート、コーヒー、炭酸飲料、みかんなどの柑橘類などがあげられます。逆流しやすい方に向けて、食事のアドバイスを聞きました。
「食については個人差があります。ある方はカレーを食べると調子が悪くなり、ある方はみかんなどの柑橘類を食べると胸やけを起こすというように。私の患者さんには、自分が胸やけを起こした時の食べ物をよく考えてみてくださいといっています。その中に原因となるダメな食べ物があるからと。自分にとって逆流しやすい食べ物を探すのは大事なことですね。ですから、特定の食材を使って料理を食べたからといって、誰もが発症するということはありません。特段甘いものがダメということもないですね」
気をつけなければいけないのは、逆流を起こしやすくなる食べ物や飲料を大量に摂取することだといいます。
アルコールや炭酸飲料、カフェインは控えめに
「アルコールは胃酸の分泌を活発にするので、飲み過ぎると食道と胃の境目が緩み、逆流しやすくなります。空腹状態で飲むと胃の粘膜にダメージを与えかねないので、低脂質で胃への負担がかからないものを食べながら飲むといいと思います。アルコールでも種類によって影響に差があります。ビールなどに含まれる炭酸ガスは、胃の内圧を高めるので逆流を起こしやすく、アルコール度数の強いお酒は胃の粘膜を荒らす心配があります。症状のある方は、種類を問わずできるだけ控えるように心がけましょう」
アルコールが入っていなくても、炭酸飲料の飲みすぎはNG。ビールと同じく、炭酸ガスによっておなかがハリを起こし、胃酸が逆流しやすい状況をうむことになるそうです。
「カフェインの異常摂取も逆流を引き起こす原因となります。コーヒーや緑茶は1日3杯までにとどめておくことが大事です」
逆に胸やけを起こしにくい食べ物として、おかゆ、うどん、にゅうめんなどがあげられます。消化に時間のかかる動物性脂肪の多い肉類はなるべく避け、減塩を心掛けることで、逆流を抑える効果があります。内藤先生によると、肥満防止になる地中海食は医学的にも推奨されているといいます。
「地中海食と似ている日本食は体にいいというイメージが定着していますが、残念なことに、実証するエビデンスがほとんどなく、科学的にその効果は解明されていません。また、食材を制限するのはとても難しいと思いますので、揚げ物、炒め物など油を使う調理法ではなく、蒸す、煮る、ゆでるといった、食道や胃にやさしい調理法を活用すると肥満解消に効果があると思います」
改善は巣ごもり生活をきっかけに
リスクはわかっていてもなかなか痩せられないという人には、巣ごもり時間が増えた今こそが、食生活改善のきっかけになると内藤先生はいいます。
「ステイホームになって自分でも料理をするようになったという方は多いと思います。自分で作るというのはとても大事なことで、献立を考えることで食生活に興味を持つきっかけになります。最近はカロリーが計算されたヘルシーなお弁当も増えてきましたが、栄養のバランスやカロリーを自分で考えることで改善の第一歩となります。リモートワークで、飲みに出かける機会もなくなった今こそ、1日3食をしっかり摂るなど、ふだんの生活をしっかり管理すれば、自然と痩せていきます。自分のライフスタイルを見つめ直すいいチャンスととらえてみてはいかがでしょう」
全4回で、京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長 内藤裕二先生に、逆流性食道炎について伺いました。予防としては一にも二にも「生活習慣の改善」。そうすることで様々な病気にかかるリスクを減らし、健康長寿にもつながります。働き盛りの人の中には「よく食べて、よく飲んで、よく働く」を実践されている人がまだまだ多くいます。巣ごもりを機に、こうした古い習慣を封印し、もう1度健康について考えてみるのもいいかもしれません。
お話を伺ったのは……
内藤裕二 先生
京都府立医科大学附属病院 内視鏡・超音波診療部 部長
1983年に京都府立医科大学卒業後、附属病院研修医(第1内科学教室)を経て、2001年に米国ルイジアナ州立大学医学部分子細胞生理学教室客員教授、2005年に独立行政法人科学技術振興機構科学技術振興調整費研究領域主幹、2009年京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授を歴任。20015年より京都府立医科大学附属病院内視鏡・超音波診療部部長を務める。腸内フローラやピロリ菌をテーマにした書籍も数多く上梓している。
医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/
取材・文/安藤政弘