新型コロナウイルスの、重症化リスクのひとつとして挙げられているのが慢性腎臓病(CKD)です。CKDは、腎障害や腎機能低下が慢性的に継続するすべての腎臓病のこと。日本全体で患者数は1330万人にのぼり、20歳以上の日本人の8人に1人がかかっていると考えられています。コロナ禍では特に高齢者はより深刻です。健康で長生きをするためには、慢性腎臓病にならないことが重要。予防法や早期発見・早期治療の大切さ、実際にかかってしまったときの食事制限について、東京医科大学病院腎臓内科主任教授の菅野義彦先生に伺いました。

生活習慣病予防からはじめよう

CKDは「新たな国民病」ともいわれ、糖尿病や高血圧といった生活習慣病と同じように、初期には自覚症状がほとんどなく、一度発症したら腎機能を取り戻すことができません。どのように生活をすればいいのか。まず50代、60代が、今からできるCKDの予防法を伺ってみましょう。

「腎臓疾患の発病は20代がピークで、50代、60代で発症される方は、もともと腎臓自体は健康ですから、CKDについても腎臓に原因があって腎機能が低下しているのではありません。糖尿病、高血圧などによる代償を腎臓が払う羽目になっているケースがほとんどです。いわば腎臓は生活習慣病の被害者なんですね。従って腎臓病だけに特化した予防はありません。生活習慣病の種類を問わず、健康診断で異常があれば、軽視しないことが一番です。すでに生活習慣病を指摘されている方は、医師の指導のもと、日々しっかり管理をすることが、腎臓を守る唯一の予防といえます」

予防のはじめの一歩は生活習慣病にかからないこと。メタボリックシンドロームにつながる肥満の解消や健康的な食生活、禁煙、禁酒の習慣化などでCKDの発症率を下げることができます。一方、多くの生活習慣病は自覚症状がないため、生活改善のきっかけがつかめないのが実情です。となると、やはり早期発見・早期治療が第一。健康診断の結果を侮らず、病院を受診することが最優先されます。

「意外に思われるかも知れませんが、自覚症状がないため、健診で異常があっても、その後、来院されない方や、一度だけ受診されて再来院されない方は多いのです。自覚症状が出てしまう頃にはCKDのステージ(重症度)はすでにかなり進行しています。健診で異常があれば必ず医療機関を受診し、医師のアドバイスに従って、生活することが重症化の予防になります」

自宅で測る「家庭血圧」も予防策になる

腎臓の専門医である菅野先生は、CKDの外来患者に、一つだけお願いをしていることがあるといいます。自宅で血圧を測る「家庭血圧」です。血圧のコントロールが利かず、高血圧にさらされると、腎疾患はより悪化します。菅野先生は「家庭血圧」を診療に活かしたり、処方する薬の量の目安にしたりしています。

「『家庭血圧』の記録は習慣化していただきたいですね。医療機関で血圧を測ると、外来で長い時間待つことで起こるイライラや、計測することによる緊張から、普段より血圧が高くなってしまうことが多く見られます。私たち専門医が本当に知りたいのは、自宅や職場など、私たちが見ることができない普段の血圧の数値なのです」

「家庭血圧」の数値がなく、医療機関で測る「診察室血圧」の数値だけで薬の量を決めることは、「スピードメーターを見ないでアクセルとブレーキを踏んでいるような行為」だといいます。

「普段の血圧値が130~140mmHgの方が、来院されて興奮状態で計測すると160mmHgまで上がることもあります。仮に定期的な『家庭血圧』による計測データがあれば、私たちは130~140mmHgの数値を重視しますが、それがないと160mmHgの数値しか拠り所がなく、160mmHgに合わせて薬を出すしかありません。場合によっては血圧が下がりすぎて体調を崩すことになります。血圧は高すぎても低すぎても腎臓に良くありません。クルマに例えるのであれば、『普段、私はこれくらいのスピードで走っていますよ』という目安があれば、経験からブレーキとして薬を減らしたり、アクセルとして増やしたりすることができるのです。体力の衰えた70代、80代の方は、夏にいつも通りの血圧の薬を出すと、猛暑で脱水になったときに倒れることもあるのですが、季節を踏まえた薬の増減調整も、『家庭血圧』の記録があれば容易です。現在、高血圧治療のガイドラインでは、『診察室血圧』より『家庭血圧』の数値を優先して判断するというルールになっていますから、私の外来では患者さんに『家庭血圧』の記録を持参してもらい、病院では血圧測定を指示していません。朝と夜の一日2回測っていただきたいのですが、最初は週に3・4回でもいいんです。みなさんの身体を守るために、家庭で測ってくださいとお願いしています』

【次回】ウィズコロナ時代。腎臓病は命とりになることも!に続きます

お話を伺ったのは……


菅野義彦先生
東京医科大学病院腎臓内科主任教授

1991年慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院医学研究科、米国留学、埼玉社会保険病院腎センター、埼玉医科大学腎臓内科、慶應義塾大学医学部血液浄化・透析センターを経て、2013年4月東京医科大学病院腎臓内科主任教授に就任。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘 

 

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