「人生100年時代」というフレーズをあちらこちらで目にするようになりました。2021年4月からは、70歳定年を盛り込んだ「改正高齢者雇用安定法」も施行されることから、改めて長寿化を強く意識し、“長生き”に備えたライフプランを立てている人も多いでしょう。しかし、誰もが元気なまま長生きできるわけではありません。年をとるにつれ、身体機能も認知機能も低下し、人生の最後の10年はどうしても医療や介護が必要になるというのが現状です。その状況を受け止め「加齢や病気に伴い心身の機能が低下しても、最後の瞬間まで安心・納得して生き切れるコミュニティをつくる」ことをめざし、24時間対応の在宅総合診療を手がけているのが佐々木淳医師。在宅医療のリアルを知る佐々木医師に、私たちは今から何に気をつけたらいいのか、在宅医療に必要なことについて4回に分けてお話をお聞きします。1回目は「在宅医療とサポート」について 。

身体が動かないから不幸なのではない

人は誰でも年をとり、病気になることもあれば、障害を抱えることもあります。身体機能・認知機能の低下は、人間が長く生きていく限り起こりうることです。けれど、自分がそうなったときに、果たして幸せだと思えるのでしょうか?

「死ぬギリギリまで元気なのはいいことです。しかし、身体が弱ってしまったら人生終わりだと思うと、最後の10年、人生の価値が大きく失われてしまいます。僕は、機能が落ちてもハッピーでいられるようにすればいいと思うんです。そのためには、自分自身の“失われない価値”を見つけられればいい。誰しもその人の個性、その人だから感じられること、できることがあるはずです。それさえ失わなければ、多少どこかが弱ったとしても大丈夫だと思います」

佐々木先生は診療を続けるなか、自分の“失われない価値”を見つけながら生活している人たちをたくさん見てきたといいます。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんで人工呼吸器をつけている女性の方がいます。彼女の話では、身体が動けなくなったけれど、そのぶん脳の中に無限のスペースができて、とにかく自由自在に動いている、と。さまざまな概念が次々に浮かんできて、言葉にしたい。動けないから退屈するということはまったくなくて、頭の中の広い宇宙で毎日忙しく考えていると彼女は話していました。98歳の認知症のおばあちゃんは、今でも工業用ブラシを作る仕事をしています。特殊なブラシで、年間300本ほどの受注しかないのですが、彼女しか作れないので1年かけて作っているんです。それを年に一度納品して、報酬を受け取っている。力は弱っていますが、手が仕事を覚えているんです」

自立支援は「自分の人生を生きている」と思える状況を作ること

在宅医療を受けるということは、自立を目指すことにもつながります。自立とは、「自分の人生を生きていると思えること」だと佐々木先生は話します。

「立てなくても自分の人生を生きている人はいっぱいいますから。自分の人生を生きていると思うためには、その人の価値を社会から認知してもらうことも大切。社会での役割を持つためにも、コミュニティは必要です。人とのつながりがとても重要だと考えます。老後に備えて貯蓄をしておくことも大切かもしれませんが、在宅医療の立場から言えば、人との縁を貯蓄することもとても重要です」

老後はお金さえあれば心配ないと思いがちですが、それよりも大事なのが“人とのつながり”“人との縁”だという。

「自分の強みを生かしてくれる人、さらには、こう生きたい、こうありたいという意思を理解してくれる存在って、とても大きい。そんな人とのつながりは、お金より大事なのではないかと思います」

身体機能や認知機能が低下したとしても、自分を受け入れてくれるコミュニティがあれば、そこに自然と居場所と役割が生まれることもあるでしょう。それはその人の強み=存在価値を発揮することになり、生きがいにつながるのです。

【次回】高齢者に必要な食事は、固定観念を壊すことから!に続きます

お話を伺ったのは……

佐々木淳先生
医療法人社団悠翔会理事長・診療部長
 

1998年に筑波大学医学専門学群卒業後、三井記念病院・消化器内科、東京大学医学部付属消化器内科を経て、2006年に在宅療養支援診療所「MRCビルクリニック」を開設。2008年に法人化(医療法人社団悠翔会)、理事長に就任。現在都内近県に合わせて15拠点を構え、在宅医療に尽力している。

佐々木淳先生のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘 撮影/近藤紗菜 

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