新型コロナウイルスの感染拡大は収束をみせる気配がありません。免疫力が衰え、感染すると重症化しやすい高齢者の不安はより深刻になっています。医療現場が依然として混乱していることもあり、新型コロナウイルスについては、まだまだ不明な点が多いですが、重症化予防として注目されているのが、歯みがきや舌みがきといった、口の中のお手入れです。口腔をしっかりケアし、虫歯や歯周病をおさえることで、感染症だけにとどまらず、生活習慣病予防にもなります。口腔衛生で予防できる病気、口の中のケア方法などをまとめて、鶴見大学歯学部探索歯学講座教授であり、歯原性菌血症予防のための「3DS除菌」開発者である花田信弘先生に伺いました。

1年に4回通院で歯がいつでも健康に

これまでの章でも述べたように、日本人の約8割が歯周病にかかっています。会社帰りにも立ち寄れる、診療時間の長い歯科医院が増えていますが、この数字は変わりません。歯の健康は、2000年に厚生労働省が公表した「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)でも、栄養、運動、休養、たばこ、アルコールに並び、生活行動に数値目標が設定されています。アルコールや喫煙習慣を断つことや、定期的な運動に比べると、歯の健康の維持は簡単といえます。虫歯が痛んだ時だけではなく、継続的に歯科でメンテナンスを受けることで、歯周病のない健康な歯を維持できるのです。 

歯に異常がある時しか足を運ばない人の中には、どのぐらいの周期で通えばいいかは判断しかねるものです。花田先生に歯科に通う目安を伺いました。

「特に治療の必要がない場合でも、半年か1年に1回を目安に、歯科衛生士に歯石のスケーリングをしてもらうといいでしょう。歯石は唾液に含まれるカルシムとリン酸によって硬くなったもので、放っておくと表面に口臭や歯周病の原因となるデンタルプラーク(歯垢)が付着しやすくなります」

もう一つの通院目安となるのが、歯の表面に膜状に付着する、白くヌルヌルしたバイオフィルムのスケーリングです。

「バイオフィルムは、デンタルプラークと歯石の中間にある概念です。バイオフィルムの中は細菌がスクラムを組んだような集合体で構成され、歯と歯肉の間の溝にたまると歯周病の原因となり、放置するとやがて歯石になります。粘着性が高く、歯みがきでは取り除けません。殺菌するには歯科で専門的な歯のクリーニング(PMTC)を行う必要があります。バイオフィルムが歯石になるまでの間、すなわち3ヶ月以内に歯科へ行くことを推奨しています」

年に3~4回通えば、細菌の温床になることを防ぐことができ、健康な状態を保つことができます。また、丈夫な歯があれば食べ物がしっかり噛めるので、高齢になっても栄養不足にならず、健康寿命を伸ばす一助になるはずです。

歯を除菌できる画期的な3DS

歯の治療法やお手入れ方法も、日々進化。最近では、血液中に細菌が侵入することで起こる歯原性菌血症予防に絶大な効果をあげている「3DS除菌」も、定期的に歯科に通う新しい目的となっています。

「3DS (Dental Drug Delivery System)は、口腔内のバイオフィルムを除去した後で、歯型に合わせてつくったマウスピース状のトレーの内側に殺菌消毒剤を塗って、朝晩の一日2回各5分ほどの装着で、善玉菌を口腔内に残しつつも、悪玉菌を減らす画期的な除菌方法です。虫歯や歯周病のみならず、歯原性菌血症の予防にも効果を発揮します。私が在籍する鶴見大学歯学部附属病院では「3DS除菌外来」を設置し、確実な予防歯科へとつなげる治療を行っています。私自身、起床したらまず舌みがき、朝食後に歯みがきをして、出勤前に3DSを行います。ランチの後は軽く歯みがき、夕食後に歯みがきをして、寝る前にもう1度3DSで除菌をします。3DSを毎日行うことで、歯原性菌血症の予防になることを実証する実験に、私も参加しました。予想通り、私の血液中には細菌がいませんでした。現在、3DSを実施している歯科医院が増えてきました。この治療は現在、自費治療となるため、少々高額です。将来、保険診察扱いとなり、より多くの方に提供される日がくることを願っています」

最近はマスク生活で、ついつい口腔ケアが怠りがちに…。歯科へも足が遠のいている方もいるのではないでしょうか。歯科検診やこうした新しい技術を積極的に使い、歯のケアをしてみるのもいいかもしれません。

お話を伺ったのは……

花田信弘先生
鶴見大学歯学部探索歯学講座教授
 
1953年福岡県生まれ。福岡県立九州歯科大学歯学部卒業、同大学院修了。米国ノースウェスタン大学博士研究員、九州歯科大学講師、岩手医科大学助教授、国立感染症研究所部長、九州大学教授(厚生労働省併任)、国立保健医療科学院部長を経て、2008年より鶴見大学教授。この間、健康日本21計画策定委員、新健康フロンティア戦略賢人会議専門委員、内閣府消費者委員会委員、日本歯科医学会学術研究委員会委員長を務める。現在、日本歯科大学、明海大学、東京理科大学の客員教授、長崎大学、新潟大学、東京医科歯科大学の非常勤講師、NEDO評価委員を併任している。

医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/

取材・文/安藤政弘 撮影/小山志麻 

 

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