新型コロナウィルスの感染拡大防止のために、外出自粛を意識する生活が始まってから、4か月。感染は拡大し続けており、外出自粛が解除されていてもためらう人は多い。基本的に家で過ごすことが主になる「新しい生活様式」下において、シニア層が身体機能を維持するために何に気をつければよいか、「フレイル・サルコペニア予防」の専門家である、東京女子医科大学病院リハビリテーション科教授・診療部長の若林秀隆先生に伺った。今回は、家庭でできるフレイル予防を、食生活を中心に紹介していく。

※フレイル……2014年に日本老年医学会が提唱した「Frailty(虚弱)」の日本語訳。健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指す。

※サルコペニア……筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態を指す。

なるべく体を動かすように、生活を!

外出自粛生活で、多くの人が以前に比べて「運動不足になっている」と痛感している。とはいえ、外出がしにくい雰囲気になっており、ジムやトレーニング施設でも感染が心配だ。これについて若林秀隆教授に、フレイル・サルコペニア予防のための筋トレ方法を伺った。

「その前に、現在のご自身の状況を把握することをおすすめします。フレイルの状態になっているかチェックする『後期高齢者の質問票』がありますので、そこでご自身の状況を把握してみてください」(若林先生)

フレイルは自覚しにくいことも特徴だという。そこで、シニア層に回答してもらい、感想を伺った。

「健康状態、心の状態、体重の変化、運動……答えていくと、確かに、昔に比べて歩きにくくなったし、むせるようになったと思う。自分では若くて健康だと思っていたけれど、確実に衰えているんだと感じました。自覚しにくいからこそ、気をつけて生活しようと思いました」(70歳・男性)

「一日3食を食べなかったり、去年に比べて痩せたと言われることもあったので、まずは噛み応えがあるものを食べて行こうと思います。夫婦でチェックしたことをきっかけに、お互いに注意し合うようになりました」(73歳・女性)

健康は、多くの人にとっての関心事。「新しい生活様式」においてのコミュニケーションのきっかけにもなる。

そこで、多くの人が気にしているのが、運動不足だ。とはいえ、今は外出しづらい。おすすめの運動方法を若林先生に伺った。

「日常生活でゆっくり動作することを、まずは心がけてください。3~4秒程度かけてゆっくり立ち上がり、ゆっくり座る……緩やかな動きは筋肉への負荷が大きく、筋力が強くなると、転倒リスク減らせるのでおすすめです。次に推奨しているのはラジオ体操です。できれば毎日、毎日が難しい場合には、1日おきにでも続けることが、フレイルの予防になります。ほかにもシニア層にもおすすめの筋トレ用の動画がネット上にありますので、そういうものも活用するとよいでしょう」(若林先生 以下「」内同)

そこまで運動できない人に推奨している運動がある。

「椅子を使ったスクワットをおすすめしています。家での筋トレは転倒リスクがありますが、これなら、続けやすいです」

若林先生が推奨する、もも上げの筋トレ方法がある。イスに深く腰掛け、両手を椅子の座面につき、上半身を支える姿勢をとる。

腹筋と太ももの筋肉に力を入れ、片足ずつ足を上げる。1回、左右10回を1日3セット。3~4秒かけて、行う。

この足の上げ下げ筋トレは、スキマ時間に“ちょい筋トレ”感覚で行うとよい。

「ひとりで行うよりは、一緒に住んでいる人を巻き込んで行うと続けやすいですよ。これは、若い世代も続けた方がいい運動です。人間は、20代に筋肉、骨量のピークを迎えます。この時に運動をして、筋肉量が多かった人ほど、フレイル・サルコペニアのリスクが低い。筋肉の維持を心がけることも有効です。ぜひやってみてください」

前回解説した嚥下障害も、筋トレで防ぐことができる。

「お口の機能低下や嚥下障害などをオーラルフレイルと言います。これはコロナ禍中から機能が低下している人が増えています。なぜなら、人と会い、話すことで、のどや舌の筋トレができていたからです。コロナ禍以前に比べて圧倒的にこれらの力を使わなくなり、衰えている人が増えたことが気になります」

オーラルフレイル予防のための筋トレを伺った。

「舌を上あごに押し当てることが、筋トレになります。今、この段階で嚥下に不安がある人は、嚥下フレイル・サルコペニアに詳しい歯科医師を受診して、診てもらうといいですよ。ただ、そういう歯科医師はまだ多くないので、耳鼻科、リハビリ科などに相談するのもよいでしょう」

オーラルフレイル予防のための筋トレのやり方は、手のひらで額を押してあごを引き、上顎に舌を付ける。これを4~5秒、1日10回程度行うとよい。

大切なのは、日々の生活で意識的に「動かす」ことだ。フレイル予防のためには、家はジムだと思い、常に「ちょい筋トレ」を心がけるとよいかもしれない。

【次回】家庭でできるフレイル予防~社会とのつながり編~に続きます。

お話を伺ったのは……

若林秀隆先生
東京女子医科大学病院 リハビリテーション科 教授・日本リハビリテーション栄養学会理事長
横浜市立大学医学部、東京慈恵会医科大学大学院医学研究科臨床疫学研究部卒業。リハビリテーション栄養、サルコペニア、サルコペニアの摂食嚥下障害が専門。著書に『イラストで学ぶ 高齢者リハビリテーション栄養』(講談社)などがある。

若林先生のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。
https://articles.oishi-kenko.com/sensei/wakabayashihidetaka-sensei/

 

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