国宝や重要文化財を「もっと近くで見たい」と思ったことはないだろうか。多くの文化財は、温度、湿度が管理された展示ケース越しに鑑賞するのが一般的だ。公開期間も限定されており、長蛇の列に並び、一瞬の邂逅(かいこう)で終わることも。
そこで、今、最新の技術を駆使し、原本を忠実に再現した複製品が注目されている。そんな有名作品の複製品が一堂に会するのは、10月11日からキヤノンギャラリーS(品川)で開催される綴プロジェクト作品展「高精細複製品で綴る日本の美」展だ。その魅力を紹介する。

デジタル技術と伝統工芸の技の融合

「高精細複製品で綴る日本の美」展は、国宝『風神雷神図屏風』(俵屋宗達筆・大本山建仁寺所蔵)、国宝『松林図屏風』(長谷川等伯筆・東京国立博物館所蔵)ほか、海外に渡ってしまった『雲龍図』(曽我蕭白筆・ボストン美術館所蔵)など8作品が鑑賞できる無料の展覧会だ。
複製品というと、「原本とは色も雰囲気も違うのではないか」と思ってしまうが、この高精細複製品は全く異なる。実際に鑑賞したら、心が奪われるに違いない。

なぜなら、この複製品は、キヤノンが培ってきた技術と、長きにわたり継承されてきた京都伝統の職人技が見事に融合しているからだ。
何百年も前に優れた絵師と弟子たちが描いた作品を、現代の日本人の技と粋を結集させて、忠実に再現する。時代を超えた芸術品ともいえるのではないだろうか。

これを作成したのは、2007年からキヤノンと京都文化協会が共同推進している「綴プロジェクト」(正式名称:文化財未来継承プロジェクト)だ。
海外に渡ったり、作品保護の観点で鑑賞の機会が限られている日本古来の文化財の高精細複製品を制作。
文化財に縁ある社寺や博物館、自治体などへ寄贈し、多くの人に鑑賞の機会を提供している。これまでに、葛飾北斎や尾形光琳などによる、全 60 作品の高精細複製品を制作してきた。

実物と遜色なく再現する制作過程を紹介

では早速、本企画展の展示作品8点のうち、国宝『風神雷神図屏風』について詳述する。これは桃山から江戸時代初期に活躍した琳派絵師・俵屋宗達の筆による。ゆったりした線描、風神と雷神のユーモアを感じる表情、浮遊感ある佇まいも見事な、明るい雰囲気の作品だ。

俵屋宗達の『風神雷神図屏風』。

ここからその高精細複製品の制作過程を紹介する。

最新のデジタルカメラと専用に開発した制御システムを用いて、微細な動きまで自動で制御し分割撮影を実施。データ合成時にレンズ収差による「ひずみ・ゆがみ」を補正。
照明の違いで生じる色の見え方を、キヤノン独自開発の画像処理で補正。最新技術でこの補正時間を飛躍的に短縮させ、文化財への負荷を軽減 。
12色の顔料インクシステムを採用した大判プリンター『imagePROGRAF』で専用に開発した和紙に出力。経年変化による文化財の微妙な風合い、質感を実物と遜色なく再現。
京都西陣の伝統工芸士が、金箔や金泥を再現。経年変化を表現する「古色」と呼ばれる風合いを重視し、原本が持つ「年代」までも再現する。
和紙にデジタルプリントされ、金箔が施された作品を表具師が表装。様々な文化財の修復に携わる伝統工芸士が、日本独自の表装材料を用いて襖や屏風に仕上げていく。

伊藤若冲の超人気作品も登場

同様の工程で再現された本企画展に登場するその他の作品を紹介する。

幽玄の世界に没入する国宝『松林図屏風』

16世紀に描かれた、安土桃山時代の絵師・長谷川等伯の代表作。霧に包まれた松林の風情を大胆に描く。禅の境地ともいわれる、静寂と奥深さを表現した近世水墨画の最高傑作と言われる。原本は東京国立博物館所蔵。(画像上が右隻、下が左隻)
『松林図屏風』は、プロジェクションマッピングも実施する。その幽玄な世界の中へ没入できることも本展の特徴だ。

華やかで大胆な『竹に虎図襖』

17世紀に制作された重要文化財『竹に虎図襖』。原本は狩野山楽・山雪筆、臨済宗妙心寺派 天球院が所蔵する。空を見上げ咆哮する虎、親のしっぽにじゃれつく子虎など多彩な虎の表情を描く。これは、仏事が執り行われる室中(全二十面)に描かれる作品のうち、東側四面と西側四面を展示。

一双で11万6,000個を越える方眼で描く伊藤若冲『樹花鳥獣図屏風』

江戸時代中期の京都で活躍した絵師・伊藤若冲。この『樹花鳥獣図屏風』は、1cm間隔の方眼を作り、そこに濃淡を施して完成させる「枡目描き」という描法で描かれている。所蔵する静岡県立美術館によると、一双で11万6,000個を越える方眼が確認できたという。上の白象が描かれた屏風が「獣尽くし」と呼ばれる右隻。下は鳳凰が主役の左隻で「鳥尽くし」という。いずれもめでたい鳥獣で、吉祥を表現する屏風といえる。

上記作品のほかにも、重要文化財『風神雷神図屏風・夏秋草図屏風』(尾形光琳/酒井抱一筆・東京国立博物館所蔵)、『雲龍図』(曽我蕭白筆・ボストン美術館所蔵)、『見返り美人図』(菱川師宣筆・東京国立博物館所蔵)、『江戸風俗図屏風』(菱川師宣筆・スミソニアン国立アジア美術館所蔵)などの、有名作品の複製品が展示される。

今回のキヤノンギャラリー50周年企画展 綴プロジェクト作品展「高精細複製品で綴る日本の美」では、誰もが知っている日本の美術の傑作を中心に墨絵や金屏風、岩絵具で鮮やかに描かれた屏風など、オリジナル作品では叶わない鑑賞方法で日本の美を体感できる。

アートの鑑賞の幅が広がり、文化財の楽しみ方がまたひとつ増える。これが、新たな日本文化の再認識へと繋がるきっかけになるのではないだろうか。

キヤノンギャラリー50周年企画展 綴プロジェクト作品展「高精細複製品で綴る日本の美」【概要】

○開催日程:2023年10月11日(水)~11月16日(木)
○開館時間:10時~17時30分
○休館日:日曜日・祝日
○会場:キヤノンギャラリーS(住所:東京都港区港南2-16-6 キヤノンSタワー1階)
○アクセス:JR品川駅港南口より徒歩約8分、京浜急行品川駅より徒歩約10分
○入場料:無料

構成・文/前川亜紀

 

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