
漫画の黎明期だった昭和20年代末から30年代、トキワ荘という名の木造賃貸アパートに、後の漫画史に名を残すことになる若き漫画家たちが集まった。
当時の住所表示では、東京都豊島区椎名町5丁目2253番地。竣工は1952(昭和27)年、解体は1982(昭和57)年、30年間にわたり、トキワ荘は存在していた。この間、出入りしていた作家も含めると、25人近くの超一流漫画家を輩出し、世界に絶賛されるMANGA文化の礎を築いた。トキワ荘には、選び抜かれた漫画エリートが出入りしていたのだ。彼らはどのような生活をしていたのだろうか……文献をひも解くと、トキワ荘に住む漫画家たちは、会合と称して毎夜のように集まり、創作や表現について語り合っていた。その集いの場では『宝焼酎』を使用した、“チューダー”という飲み物が愛されていたとわかる。“チューダー”とは、何だろうか……その謎を解きに、トキワ荘が存在した、現在の東京豊島区にある南長崎3丁目の街を散歩してみよう。
「チューダー」とは、どんな飲み物なのだろうか……
トキワ荘を描いた作品は多く発表されている。“チューダー”は頻繁に登場している“トキワ荘名物”のドリンクで、味のみならず、つくり方を描写している漫画もある。 それは、『宝焼酎』をサイダーで割った飲み物で、名前の由来は、ショーチュウ(焼酎)の“チュウ”にサイダーの“ダー”を足してつくった造語だという。
焼酎とサイダーの比率は3:7で、電気冷凍庫が普及していなかった昭和30年代なので、当時は氷を入れてなかったようだ。

当時の味を伝えるのは、南長崎にある人気中華料理店『松葉』だ。代替わりをしつつ、現在も当時と同じ味を提供している。
『松葉』は漫画家たちのエッセイや作品に頻繁に登場。『松葉』から生まれたキャラクターもおり、今でも多くのファンが訪れている。憧れの漫画家たちが味わったものと同じ味を楽しみたいのは、ファンの心理だろう。
そこで、『松葉』の山本麗華さんに、チューダーのつくり方を教えていただいた。
「チューダーは人気で、当店は彼らが愛飲していた『宝焼酎』を使用し、当時の味を伝えています」(山本さん)
では、つくり方を紹介しよう。



「自宅で楽しむときは、好みの濃さで、『宝焼酎』の量をアレンジしてみてください」(山本さん)
涼し気な見た目に、思わず手を伸ばし、グビリと飲む。焼酎のスッキリとした味わいに、サイダーの爽やかな甘みが調和し、少年時代の夏の日を思い出す。
「中華料理との相性も良いので、ぜひ楽しんでください」(山本さん)
おすすめは、「ラーメン」とのペアリング

「チューダーと一緒に、多くの方が注文されているのがラーメン。さわやかなチューダーは油料理との相性がよく、炒飯(600円)や、焼餃子(400円)などと一緒に頼む人もいます」(山本さん)
『トキワ荘ミュージアム』のオープンと、町中華ブームも重なり、当時の味を伝える『松葉』は、今日も大盛況だった。

住所:東京都豊島区南長崎3-4-11
電話:03-3951-8394
営業時間:11:00~15:00 17:00~20:00(売切れ次第終了)
定休日:月曜日(祝日は営業)
南長崎で「チューダー」散歩に出かけよう

『松葉』でチューダーとラーメンを味わい、当時の漫画家気分になったところで、トキワ荘がどこにあったか、当時の場所を知りたくなった。
調べると 『松葉』 からほど近いところに、トキワ荘の跡地があり、『トキワ荘跡地モニュメント』があるという。早速、行ってみた。

『トキワ荘通りお休み処』で、菓子になったチューダーを発見!
漫画家たちの息遣いを感じたら、作品が読みたくなる。そこで、『トキワ荘通りお休み処』に足を運んだ。
ここは、2013(平成25)年にオープンした、ファンたちの憩いの場。取材時、2階には漫画家が住んでいた4畳半の部屋が再現されており、トキワ荘関係の展示や漫画も閲覧できる。

1階には、人気漫画家たちの色紙がズラリと並び、トキワ荘にまつわる貴重な資料が公開されている。
「何か記念になるものがほしい」とお土産コーナーを覗くと、絵葉書、キーホルダー、スリッパ、ノートなどにまじり、『チューダーあめ』(100円)があった。なんと、一番人気だという。

あのチューダーがあめになる!? いったい何なのだろうか……と、ラベルを見ると、販売元はここから近い『ほんだ薬局』だとある。謎を解くために、伺うことにした……。

住所:豊島区南長崎2-3-2
電話:03-6674-2518
開館時間:午前10時~午後6時(最終入館午後5時30分)
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は、翌平日が休館)、年末年始
入館料:無料
『チューダーあめ』の販売元は創業100年の薬局
『ほんだ薬局』は、目白通り二又商店会にある歴史ある薬局だ。
いわゆる街の薬局で、取材当日も、多くの地元の方が買い物に来ていた。この街に欠かせない存在であることがわかる。現在三代目の店主である、本多道雄さんと本多明美さんご夫妻にお話を伺った。
ご夫妻は「ウチも漫画家さんのエッセイや作品に、登場するんですよ」とはにかむ。この、『チューダーあめ』の背景について伺った。
「トキワ荘にまつわるシンボルのようなものが欲しいと、『としま南長崎トキワ荘協働プロジェクト協議会』で企画しました。このあめは、地元のアメ製造会社が作っており、優しい味が特徴です」(明美さん)

この薬局は、2020年に創業100年を迎えたという。本多道雄さんは、1956(昭和31)年生まれで、南長崎で育っている。当時の街の様子を教えていただいた。
「銭湯や映画館があり、賑わいがあふれる商店街でした。子供の頃を思い出すと、“ああ、あの人が有名な漫画家の先生だったんだな”という記憶があります」(道雄さん)


「この『チューダーあめ』はとても人気があります。商店街にはうちだけでなく、取り扱っているお店もありますので、そちらもぜひ、お買い物に行ってみてください」(明美さん)

『チューダーあめ』は、どのお店でも税込100円。「子供がお小遣いで買えるように……」という、商店街と製造元の願いが込められているのだという。
『ほんだ薬局』の店内には、漫画家の色紙も多く飾られている。買い物がてら見学すると、きっと新しい発見があるはずだ。

住所:東京都豊島区南長崎2-2-3
営業時間:9:00~18:00
漫画家たちが愛した『宝焼酎』を使ったチューダーをテーマに、南長崎の街を歩いた。実際に行ってみると、当時そのままの建物が残っているところもある。そして、街全体に温かい人情が溢れている。
訪れれば、そこに彼らの息遣いを感じ、時間旅行をしたような気分になるはずだ。
そのほかにもチューダーが飲める店はここ!

住所:東京都千代田区丸の内1丁目7−4 東京駅丸の内北口
電話:03-6268-0308
営業時間:平日11:30~14:00・17:00~23:30、土17:00~23:00
定休日:日祝
※新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、
営業時間等最新の情報に関しましては店舗にお問い合わせください。
このうまさ、百年品質。
宝焼酎の誕生は、大正元年(1912年)。100年を超える長い歴史の中で、私たちがたどり着いたのは、貯蔵技術とブレンド技術でした。
そのすっきりしたまろやかな味わいこそ、「宝焼酎」が一番愛され続けている理由です。
飲み継がれる、おいしさを。今までも、これからも、人生に寄り添うこの味わい。
次の100年へ。その品質を磨き続けます。

「宝焼酎」Webサイトはこちら
撮影協力/中華料理 松葉
取材・文/前川亜紀 撮影/フカヤマノリユキ 図版作成/タナカデザイン
飲酒は20歳を過ぎてから。飲酒運転は法律で禁止されています。
