急速に少子高齢化が進み、人口動態についても産業構造についても変化のスピードを速めている現代ニッポン。すでに仕事はリタイアして悠々自適という人もいるであろうサライ世代にとっても、今後自分たちが暮らしていく、そして子供や孫たちが生きていくこの日本社会の変化が気にならないわけがないだろう。
今のわれわれ日本人が心しておくべき近未来像とは、いったいどういうものなのだろうか?
今回は、他企業との連携を通して社会課題の解決に取り組んでいるリクルートホールディングスが昨年12月に発表した「2018年のトレンド予測キーワード」8つをご紹介し、その意味や背景についてご紹介していこう。いずれも今後の日本社会の変化を予測する、よき指標といえるだろう。
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■1:来るスマ美容師(くるすまびようし)
「ホットペッパービューティーアカデミー」研究員の服部美奈子さんは、年を重ね美容室に行くのが困難になってもおしゃれを楽しみたいという高齢者の方に、スマイルを届けに来る美容師が増えるでしょうと予測する。名付けてカリスマ美容師ならぬ《来るスマ美容師》だ。
「10代~20代の頃からおしゃれを楽しんできた世代が高齢者となり、その人数は今後さらに増加していきます。いくつになっても、今までのようにおしゃれを楽しみたい。それが、人に会いたい気持ちや生きがいにもつながります。
2018年は、介護保険法の改正などもあり、介護業界全体が注目されることが予想されています。訪問美容は介護保険の対象外とはいえ、介護周辺のさまざまなサービスに関心が高まると考えています。一方で、美容業界はサロン数が増え続け、人口減少とともに競争が激化していくなか、サービス拡充によるサロンの差別化、美容師の働き方の多様化など変化が出始めています。
美容室にいくのが困難な高齢者に、より良い美容サービスを提供し、自宅や施設にスマイルを届けに来てくれる美容師が、今後ますます増えていきそうです。」
実際に訪問美容に取り組む美容師も増加しているという。「trip salon un. (トリップサロン アン)」の湯浅一也さん(東京都)は、「原宿の若者向け有名店で技術とサービスを身につけ、独立しました。施設に心地いい空間を持ち込み、サロンと同様の施術とサービスを提供しています。人生の先輩であるお客様に、どうしたら喜んでいただけるかしか考えていません」と語る。
また「訪問美容室 結 Hair Nail(ゆう ヘアネイル)」の橋本結希さん(千葉県)は、「美容師よりも人助けをする仕事のほうが向いていると気づき、サロン退職後ひとりで訪問美容をスタートさせました。個人宅中心に訪問美容を行っていて、介護福祉士の資格も取得し、サロンも開業しました。訪問美容は天職です」と語る。
■2:年功助力(ねんこうじょりょく)
「ジョブズリサーチセンター」センター長の宇佐川 邦子さんは、アルバイト・パート領域における2018年のキーワードとして《年功助力》を掲げる。
「忙しい時間帯に人がいない、経営に支障が出るといった理由で、企業にとっての人材確保の難易度は上がり続けています。一方、60歳以上の就業希望者は、時間の融通もきき、労働意欲も高いにもかかわらず、多くの企業は採用に未だ消極的です。
そんななかで、戦略的にシニアを採用し、活かす企業が出てきています。従来ネックとされてきた体力や新しい技術への対応も、健康フォローやIT技術を活用した企業サポートで解消できるようになってきました。サービス業を中心に、人生経験= ”年の功”を活かしサービスクオリティ・職場満足度を高める“名脇役”として、高齢人材が活躍の場を拡げていくことでしょう」
実際にリクルートジョブズの調査によると、シニアの応募者数は2015~2017年の3年間で約2倍に、「シニア」 × 「活躍」キーワードを含む求人数は約10倍になったという。しかしその一方で、5年以内に仕事探しをしたシニアの34.9%が就職をあきらめている状況がある。その背景には、高齢者の雇用にまだ消極的な企業の存在があるが、高齢者の良さに気づいて優先的に雇用し始める企業や、高齢者の活躍が企業成長につながると気づいて戦略的にシニアを採用・活躍支援する企業も確実に増えてきている。
高齢者の長所とも言える、いわゆる“年の功”の要素を分解すると、長年の人生で培った生き抜くための精神と知恵である「自活力」、ライフイベントを一通り経験したゆえの時間・心の融通がきく柔軟性である「融通力」、そして長年の“人付き合い”で磨かれたコミュニケーション能力である「対人力」の3つがあるという。
しかも高度経済成長期に生まれ、活気あふれるバブル期を経験したイマドキシニアは、実は新しいもの好きで変化に柔軟で、パソコンの利用経験もあり体力年齢も若くて元気。企業側のサポートによって能力を発揮できれば、職場全体を助ける希望の星になり得るというのだ。サライ世代にとっては喜ばしいトレンドだろう。
■3:熟戦力(じゅくせんりょく)
「長く組織で働き、実務経験を持つ人だからこそ発揮できる力がある」というリクルートスタッフィング エンゲージメント推進部 部長の平田 朗子さんは、2018年の人材派遣領域におけるキーワードに《熟戦力》を掲げる。
「人生100年時代が叫ばれるなか、人手不足を背景に、長年にわたり組織で働いた経験やスキルをもつ定年後の人材を、実務担当の即戦力として受け入れる企業が増えてきています。60代を中心とした定年後のパワーともいえる「熟戦力」を活かす場の創出が、今後の日本の働き方をさらに進化させていくことでしょう」
前項でも紹介したように、60代を中心とした定年後の人が持つ力が見直されている。団塊世代の退職と恒常的な人手不足により、実務パワーが圧倒的に不足している企業にとって、熟戦力の派遣活用のニーズはこれまでになく高まっている。
一方で、まだまだ働けるので、社会との接点を持ちながら、経験やスキルを活かせる実務で、やりがいを持って働きたいと考える定年後の人も増えている。自らの経験やスキルを社会に還元して貢献したいという考えの人も少なくない。リタイア後も会社に雇われたいが、雇用形態にはこだわらないと考える人も多いようだ。
深刻な人手不足が、2018年以降も続くと想定されるなか、豊富な経験、専門性、適応能力の高さをもった定年後の人材の重要性は今後ますます増していくことだろう。
■4:まなミドル(学ミドル)
『ケイコとマナブ』ムックシリーズ 編集長の乾 喜一郎さんは、「2018年は、成長機会を求めるミドルが会社の枠を超えて学ぶという動きが加速する」とし、キーワードとして《まなミドル》を提唱する。
「企業内の年齢構成や組織構造の変化により、成長機会が得られにくくなっている今のミドル(40~50代)が、大学院のキャンパスや資格スクールで学ぶ姿が目立ち始めています。彼らが学ぶのは趣味・教養目的ではなく、これからも長く活躍し続けるための準備としての学びです。2018年からは制度の充実もあり、この動きはさらに強まるでしょう」
国のほうでも社会人の学び直しを推進している。文部科学省が2015年に創設したビジネス経験者のための講座を認定する制度「職業実践力育成プログラム(BP)」は、対象講座が急速に増加中だという。厚生労働省も生涯教育の一形態である「リカレント教育」を推進して「専門実践教育訓練給付金」を2014年に創設、指定講座も増えている。受講者についても、ビジネス経験者を対象とする講座では40~50代の比率が拡大しているという。
そんな変化の背景には、企業内でのポスト不足と現場の実務者不足が相まって同一ポストに滞在する期間が長期化していること、企業の教育訓練費が削られ会社が研修機会を用意してくれなくなったこと、老後の経済的不安、そして老後の就労不安といった、今のミドル世代ならではの「もやもや」があるという。そして将来・定年後に備えるための学びが、結果として現状についての「もやもや」も同時に解消してくれるのだ。
今ある経験や知識を社外でも通用する価値にしたいミドル世代の学びは、「経験・スキルの棚卸し」→「知識・技能の体系化・理論化」を経て、「資格・学位として結晶化」させるというプロセスを経ることが多い。そのため、若者含む多様な世代が参加する、対話の多いアクティブなプログラムが求められるという。単発ではなく、継続学習の機会が豊富であることも重要な条件だ。
これまでミドル世代にとっての学びの障壁となっていた「費用がない」「時間がない」「適当な講座がない」といった制約が、制度の充実や社会環境の変化により、まさに取り払われようとしている。成長機会を求める彼らの学びが、今後加速していくのは間違い無いだろう。
■5:ボス充(ぼすじゅう)
リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 所長の古野 庸一さんは、今後の人材マネジメント領域におけるキーワードとして《ボス充》を挙げる。
「生活を楽しみ、社外活動が充実しているマネジャーは、会社や社会にいい影響を与え、メンバーから信頼されています。そのようにボスが充実している状況を《ボス充》と呼びたいと思います。最近の若者は、多元的な自己を持つようになっています。ゆえに、仕事以外の生活を楽しむ上司が支持されます。だからこそ、すでに生活を楽しんでいる上司世代は、楽しんでいることをオープンにすることによって、若者からより厚い信頼を得られるようになるでしょう。」
実際にリクルートマネジメントソリューションズが2017年に実施した「ボス充実態調査」(N=519名)によると、いわゆる「仕事人間」「会社人間」な上司よりも社外活動が充実している上司のほうが好まれ、「人間的な幅が広く」「早く帰る」上司を理想的と見ている実態が明らかになった。「自己実現の場は、仕事以外にもあるはず」「家族を大事にできない人が部下を大事にできないのでは?」というシビアな意見も、若者世代から聞かれたという。
「働き方改革」による労働時間の上限規制によって社員の余剰時間の利用に関心を高めている企業にとっても《ボス充》は歓迎される動きだ。異業種、異文化、異次元の研修機会にもなり、ワークとライフの相乗効果も期待できる。本人、会社、社会、メンバーの全てにいい影響がある《ボス充》。これからさらに注目を集めることになるだろう。
■6:ピット飲食(ぴっといんしょく)
「ホットペッパーグルメ外食総研」上席研究員の稲垣 昌宏さんは、飲食領域におけるキーワードとして《ピット飲食》を提唱する。
「仕事と家事・家庭。主務と副業。地域やコミュニティでの役割……平日の終業後に別の役割が待っている(マルチロール)も一般的になっています。一人ひとりが担う役割が増加・多様化している今の時代に強まっているのが、次の役割に向かう合い間の“気持ちの切り替えニーズ”です。
働き方改革の推進で、17~19時台の時間帯に軽い飲食を行う時間の余裕ができ始めましたが、そんな合い間に、ひとりまたは少人数で頭の切り替えを目的に飲食すること。それを《ピット飲食》と名付けました。次の役割に向けて、気持ちやモードのスイッチを行う大切な行為です。とくに役割が増えやすい「子育て世代」では、各役割の合い間で頭の切り替えニーズが高いようです」
実際に《ピット飲食》は、駅ナカ、駅近、オフィス近隣の飲食店で行われていることがわかっている。とくに、ひとり利用OKでまったり感があり、無料Wi-Fiでのネット接続や充電のための電源が利用できる店が選ばれているという。
隙間時間に一時停車して、軽く飲食し、軽くまったりと休む。そうしてモードチェンジ完了したら、アクセル全開で次のロールに臨む。そんな《ピット飲食》が、ひとりマルチロール時代の新習慣として定着していきそうだ。
■7:お見せ合い婚(おみせあいこん)
リクルートマーケティングパートナーズのマリッジ&ファミリー事業本部 カスタマーサービス統括部 婚活事業企画部 サービス企画グループ グループマネジャーの桜井 まり恵さんは、婚活領域において今後は《お見せ合い婚》をする人が増えると予測している。
「《お見せ合い婚》とは、男女がオンライン上で自分の「色」をさらけ出して見せ合った上で、結婚相手を選ぶことです。
いまの若い世代は、多様な価値観を持ち、SNSを使いこなして自己表現することも当たり前。オンラインでの出会いにも抵抗がなく、恋人に求めるのは「自分に合うこと」という、絶対評価の恋愛観を持っています。オンラインではリアルの世界と比べて出会いの数がケタ違いに多い分、これまで公表していなかったプロフィールやニッチな趣味がマッチする可能性が向上しています。「自分をさらけ出す」ことが「自分に合う人」に出会うための必須条件となっているのです」
リクルートブライダル総研の調査によれば、日本の婚姻組数は減少傾向にある一方で、結婚意思はあるが恋人のいない20~40代の男女の人数はあわせて735万人もいるという。その理由の1位は男女ともに「出会いがないから」。結婚に至った約9組に1組は、婚活サービスを通して出会ったカップルなのだという。なかでも恋活/婚活サイト・アプリといったオンラインサービス利用者の割合が最も高い。
一人ひとりが色々な顔・コミュニティを持つ「一人十色」時代のいま、結婚相手を「自分に合うか」どうかという基準で評価選択するためには、オンライン上で自分の「色」をさらけ出して“お見せ合い”するのが効率的だ。オンラインだからこそ、“多面的な自己開示”によるマッチング(両者が互いに好意を伝えた状態)が可能になり、“お見せ合い”の量が、マッチングの数に繋がる。そうしてオンラインでマッチングした異性の中から、数人~数十人との「トライアルデート」を通して、相手をさらによく知った上で交際に至る。これが現代の婚活になっているのだ。
逆に言えば、自分についての開示情報が多いほど、マッチング量と質が向上し、オンラインでの出会いが結婚に結び付く可能性が高くなる。つまりオンラインで出会い、幸せをつかんだ男女に共通しているのは、自分を包み隠さず「さらけ出している」ことなのだ。
本心や相性でつながれる男女は、きっとよい夫婦になれることだろう。今後、婚活/恋活サイト・アプリで出会って“お見せ合い婚”をするカップルが増えていけば、婚姻組数のV字回復が望め、少子化も克服されるかもしれない。
■8:育住近接(いくじゅうきんせつ)
『SUUMO』編集長の池本 洋一さんが住まい領域におけるキーワードとして提唱するのは、《育住近接》だ。
「共働き世帯が増加の一途を辿るなか、職場と近いところに住みたいという「職住近接」志向が高まっています。その一方で、利便性の高い都心や駅近人気エリアでは、保育園不足の解消が難しくなっています。また、育児中の親の精神的・時間的負担を軽減する、周囲の住民とのつながり不足も大きな課題です。
とくに小学校低学年の子を持つ家庭では、学童保育や習いごとなど、子どもが放課後を過ごす場所のまでの距離や過ごし方を気にする声も高まっています。こうした課題やニーズに対応し、保育園や学童保育などをマンションや団地内に設置するなどして、「育住近接」に対応するトレンドが生まれています」
リクルート住まいカンパニーが実施した調査によると、新築マンション検討時に重視される二大条件は「価格」と「駅からの距離」だが、子育て世代に限ってみると、保育園や学童保育が設置されている”育住近接”マンションであれば、駅からの距離が離れていても妥協する意向があるという。一方で国のほうでもバックアップの体制を整えており、例えば保育園不足が見込まれるエリアへ大規模マンションが建設される際は、開発事業者に保育施設設置を要請するよう、国から自治体に通知がいくようになっている。保育園つきマンションはさらに増加していくことだろう。また保育園の充足とあわせ、子育て中の親の精神的・時間的負担を軽減するサポートへの対応つき物件も登場している。
ただし、子育てを支えるために重要なことは保育園だけではない。「悩み相談」「仲間づくり」「情報提供の場」の3つはどれも健全な子育てには欠かせない要素だ。これらについても、マンション内や周辺住民でお互いに悩みを相談できたり、お互いの子どもを預け合ったりできるマンションや、住民同士の助け合いを促す賃貸住宅も増加している。大人も子どもも集う交流空間としての中庭があって、帰宅時は「おかえり」という声も飛び交うという。
保育園だけではない、小学生が放課後を過ごせる学童保育のニーズも高まっている。しかも「遊ぶだけでなく勉強もしてほしい 」「多くの体験をさせてあげたい」と考えている親が増えているという。分譲マンション内に民間学童を誘致している物件も増えている。しかも宿題や自由遊びだけでなく、知的好奇心や自発性を育む多彩な体験イベントプログラムを実施したり、英語教室とも提携してマンション内で英語を学べるというところも。
「職住近接」だけでなく「育住近接」を実現できる物件が、今後ますます求められていくのであろう。
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以上、今回はリクルートホールディングスが発表した、2018年
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