文/一乗谷かおり
「猫にまたたび」ということわざがあります。大好きなもの、あるいは誘うのに非常に効果のあるものの例えです。江戸時代や明治時代の浮世絵などにも、猫と一緒にまたたびを描いたものが残されており、猫がまたたび好きというのは古くから知られたことでした。
猫好き浮世絵師のひとりとして知られる月岡芳年が描いた、幼児童向けの草双紙『猫鼠合戦』をモチーフにした浮世絵では、合戦物に仮託した猫対鼠の攻防が描かれています。
猫が鼠退治に用いた武器のひとつが「石見銀山」。石見の鉱山で銀の副産物として採掘された砒素などを含む硫砒鉄鉱を燃成して作った殺鼠剤で、「猫いらず」の異名がありました。鼠と戦う猫が「猫いらず」を用いているところがおもしろいところです。
一方、鼠が猫に仕掛けた戦略が、またたび攻撃。またたびを焚いて煙を出し、その香りに酩酊した猫たちが腰砕けになっている様子が描かれています。またたびによる攻撃を契機に、鼠たちは戦況を有利に運んでいきます。
『猫鼠合戦』はもちろん、物語の世界の話です。でも、猫を酩酊させ、戦意を消失させる「またたび」とは、いったいどんなものなのでしょうか。
■猫科だけが反応する不思議な植物
またたび(木天蔘)は別名「夏梅」とも称される蔓性の植物です。6、7月頃に白梅のような花を咲かせ、秋口になると3センチほどのどんぐり型の実をつけます。
花にマタタビアブラムシという昆虫が卵を産み付けると、実はどんぐり型には育たず、コブのようにでこぼことした形の虫癭果(ちゅうえいか)になります。これは木天蔘(もくてんりょう)と呼ばれ、古くから漢方薬にも用いられてきました。
またたびには「マタタビラクトン」「アクチニジン」「β-フェニルエチルアルコール」といった成分が含まれており、この3つの成分が猫を酩酊状態にさせるといわれていますが、虫癭果には正常な実や葉、茎などよりも多く「マタタビラクトン」「アクチニジン」が含まれています。
市販の猫用またたびの多くは、乾燥させた虫癭果を粉末にしたものです。またたびやまたたびを嗅だり舐めたりすると、猫は身をよじったり、またたびがついたおもちゃを顔をこすりつけたりして全身で「気持ちいい~」を表現します。普段はおっとりしているのに、またたびの臭いを嗅いで急に狂暴になる、といった極端な反応を示す猫もいます。
またたびと類似の植物として、キャットニップもあります。これは和名を犬薄荷(イヌハッカ)といいますが、他にもアカバナヒョウタンボク、セイヨウカノコソウといった植物に猫は反応するようです。
今年3月2日に『BMC Veterinary Research』誌(イギリス)で発表された論文には、またたび、キャットニップ、アカバナヒョウタンボク、セイヨウカノコソウの比較研究が紹介されています。調査の結果、猫が最も反応するのがまたたびであることがわかりました(個体差によって反応を示さない猫もいたようです)。
■猫のしつけにも使える気付け薬
またたびは猫の神経を刺激したり、麻痺させたりすることで猫を腰砕けにしますが、猫科以外の動物にはこのような作用はありません。漢方薬として人間に有効な成分が、猫には刺激的なまでに効いてしまうのかもしれませんが、はっきりとした理由はわかっていないそうです。
前述の研究では、猫の性別や年齢などで反応の度合いが違うことも紹介されています。子猫や不妊・去勢手術を施した猫は反応が薄かったり、雄の方が強く反応することから、またたびは猫にとって一種の「媚薬」のようなものかもしれません。
『猫鼠合戦』では猫に対する武器として使われたまたたびですが、中毒性はなく、5分~10分もすると猫の酔いも醒めてしまうようです。確かに、またたびの粉末をまぶしたおもちゃを与えても、最初はくねくねと身をよじらせて興奮していた我が家の猫も、しばらくすると飽きてそっぽを向いてしまいます。
中毒性、常習性がなく、効果は一時的。でも忘れた頃に見せるとまた同じように興奮する。こうした猫のまたたびに対する反応をうまく利用することで、猫のしつけにも活用されています。
猫を酩酊させるまたたび、なんとも不思議な植物です。でも人間の子供がお酒を飲んではいけないのと同じで、
文/一乗谷かおり
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