糸島で、さまざまな人がつながる“ユナイテッドカフェ”「ノドカフェ」を経営する坂本強美さん。好奇心からスタートした、海底湧水を使ったお塩づくり体験は、人と海や山との距離を縮め、自然に興味や関心を抱く大きなきっかけにもなっている。“みんなと楽しく自然を守っていきたい”と語る、坂本さんの想いがこの特別な体験に込められていた。

リフレクソロジーもできるブックカフェで人と人をつなぐ

糸島半島の南西にある、船越湾を望む寺山海岸。松林の向こうに広がる白い砂浜は、どこか懐かしく、人がずっと心にあたためてきた日本の原風景の情景と重なり合う。

砂浜に腰をおろすと、前方に横たわる雄大な糸島の山々を見渡すことができ、耳をすますと、風と波の音とともに、里山から鳥のさえずりが届く。砂上にはハマヒルガオやハマゴウが芽吹き、季節ごとに浜を彩る小さな自然が、人をやさしい気持ちにしてくれる。

山々が連なる寺山海岸から見た幻想的な風景。

「糸島に初めて訪れた時に感じたのどかさ、豊かな自然がみんな集められた素敵な場所です」
“語り部”の坂本強美さんはこう言って目を輝かせた。

美しいこの砂浜をホームグラウンドに、海底から湧き出た地下水『海底湧水』で塩をつくる自然活動に取り組んでいる。

坂本さんは、福岡市の市街地で生まれ育った。足の裏を刺激して体のバランスを整える「リフレクソロジー」を学んだ後、博多のリラクゼーションサロンに13年間勤め、2015年、結婚を機に、糸島へ住居を移した。

糸島の玄関口、筑肥線筑前前原駅前の前原商店街に、夫の敏幸さんと、人と人がつながる“ユナイテッドカフェ”「ノドカフェ」をオープンしたのは2017年のこと。定期的に社会問題をテーマにした映画の上映会や、講演会、ワークショップを開催し、今では地域のコミュニティづくりの場となり、さまざまな人が往来している。

夫・敏幸さん、長女・のどかさんと「ノドカフェ」の店内で。お店の名前は、娘さんの名前に由来している。

アットホームな雰囲気のカフェは、愛書家である敏幸さんが収集した蔵書や児童向けの本が壁一面の書棚に並び、コーヒーを味わいながらゆったり読書を楽しめる空間。カーテンで仕切られたベッドの置かれたコーナーが、坂本さんがリフレクソロジーの施術を行うスペースだ。

「たくさんの人に読書の場を提供したいと考える夫と、糸島でもリフレクソロジーを続けたいという私の夢が一つになった空間です。リラクゼーションとブックカフェの組み合わせは珍しいと思いますが、新しい本との出会いを楽しみに来店されたり、カフェでお子さんを遊ばせながら施術を受けに来られたり、クチコミやSNSを通じてお客さんも増えていきました」

リフレクソロジーは天職だという坂本さん。施術を受けた人がやさしい気持ちになり、ちょっとしあわせな気分で家路についてくれたらハッピーだと言う。

海底湧水を知り次の世代に自然を伝えていくことが目標に

そんな坂本さんが、海底湧水に興味を持ったのは4年前に遡る。ご夫婦で出かけた『海藻研究所』所長・新井章吾さんの講演会がきっかけだった。

「“海底湧水”は、沿岸部の山や森の土に染み込んだ雨が、長い年月をかけ、浅い海底から出てくる湧き水のことです。海底湧水から出来たお塩には、森から運ばれたミネラルと酸素が豊富で、精製塩にはない成分がたっぷり含まれています。にがりを含んでいるのに、まろやかで旨味のある塩ができるという新井さんの話に刺激され、自分でもやってみようと思い立ちました」

ものは試しと海岸で湧き水を汲んでみると思った以上に楽しいことに気づく。出来上がったお塩も精製塩よりずっと美味だと感じられた。

「波打ち際で湧き水を汲み取っているとまわりの方も興味津々。海底湧水を呼び水に、自然と会話が弾み、新しい人の輪が生まれていきました。でも頻繁に海に通うようになり、この時期は、店にいないことが多かったですね(笑)」

はじめはレジャー感覚だったと言う坂本さん。海底湧水との出会いは、坂本さんの自然に対する考え方を変えていった。

「リフレクソロジーでは足の裏をほぐし、体の中の循環を良くすることで、体調の改善や疲労回復につなげていきます。海底の湧き水も同じで、山の地面に染み込んだ雨が地下水となり、土の中を流れて、おいしいお水となり、だからこそ上質なお塩になります。海底湧水を使ったお塩作りで、森と海のつながりを実感し、“自然の循環の流れを止めてはいけない”と強く思うようになりました」

美しい海を大事にしたいという気持ちや、きれいな地下水を生み出す山や森の将来を考える“気づき”になればと、海底湧水を使った塩づくり体験をスタートした。

子どもたちに海と山のつながりを知ってもらおうと作った紙芝居。

「糸島には森や山を守るための活動を大きく展開している方も多くいらっしゃいます。有機物が豊かな森の環境をととのえることは、質の高い湧き水を生み出すためにもとても大切なことです。私ができることは小さなことかもしれません。けれども海底湧水の塩づくりで海をもっと身近に感じてもらい、森や山などの自然に関心が向かうはじめの一歩になれば、少しでも世の中を良くすることにつながっていくのかなと思っています」

海底湧水の塩づくりを現地参加とオンラインで体験できる

坂本さんが“語り部”となる、海底湧水を使った塩づくり体験は、「三ツ矢青空たすき」でも人気のあるプログラム。寺山海岸(糸島市志摩久家)で湧き水を汲み取る坂本さんのご家族に同行し、実際に採取法を見せていただいた。

「湧出量が多いとボコボコと砂が吹き上がる湧水孔ができることもありますが、湧き出る場所を目で確かめることは滅多にできないので、波のおだやかな場所に、ハンドメイドで作った水受け装置を置きます」

湧き水を採取する装置は坂本さんご夫婦の知人が作ったもの。材料にはプランター、ポリ袋、ゴムホースが用いられている。

装置はプラスチックのプランターに小さな穴を開け、短く切ったホースにポリ袋を取りつけて差し込んだもの。これを波打ち際に沈めておくことで、湧き水が袋の中に溜まっていく。量の多い時はわずか数分で3L容器いっぱいの湧水を採取できるとか。

プランターに空気が入らないように砂地にかぶせて置いて、上から砂をかけて固定する。
待つこと10分。ポリ袋には不純物のない湧き水が。湧き出す量が少ない時は、水が溜まる時間を利用して海岸のゴミ拾いなどを行う。
採取した湧き水はポリ容器に。水がこぼれないよう、愛娘 のどかさんもお手伝いする。

現地体験のプログラムでは、採取した海底湧水を持ち帰って、大鍋で煮沸して塩をつくり、おにぎりにして参加者全員で味わうことができる。

海底湧水から作ったお塩で握ったおにぎり。日によってお塩の味が変わるため、おいしさは一期一会。

「採取する海岸や時期によっても味が微妙に変わります。潮の満ち引きの力が変化してプランクトンが移動する新月と満月でも微妙に味が変わるようです」

これまで様々な時期に作られた塩を試した坂本さんの感想では、中秋の名月の頃が1番美味しくまろやかに感じたと言う。

「海底湧水を汲める海岸は全国にあります。自分の住んでいるエリアの湧き水で、自分が作ったお塩は愛着が湧きますから、味を比べてみるのもいいですね。海底湧水を通じていろいろな地域の人とつながることのできる楽しみもありますね」

また、「三ツ矢青空たすき」では、オンライン体験のプログラムにも挑戦。佐賀県・唐津市松島で満月と新月の時にとれた2種類の塩が自宅に届く。ふだん慣れ親しんでいる塩との食べ比べや、満月と新月の味の違いをリアルに体感できる。

松島の満月と新月の時に採取した海底湧水で作った塩。見た目に大きな違いはないが、満月の方がまろやかさを感じる。

「海水の湧き水からつくったお塩で握ったおにぎりを食べると、子どもの頃に潮干狩りをした思い出や海で遊んだ記憶がよみがえるとおっしゃる方が多いですね。自然環境を守り、子どもたちに美しい山や海を残したいと思われる方もいらっしゃいます。自分一人の力ではなく、みんなで一緒に楽しみながら人と人のつながりの輪を広げ、次の世代につなげていけたら幸せですね」

現地体験

「海底から湧き出る水で塩づくり!今日だけの特別な塩づくりを体験しよう」
5,500円 所要時間:3時間 場所:福岡県糸島市内

オンライン体験

「海底湧水でできた塩から学ぶ、海の豊かさと自然の大切さ」
自宅に届くキット内容は海士の塩 新月(20g)、海士の塩 満月(20g)塩づくりのリーフレット(1枚)
4,400円+送料。所要時間:1時間30分

 

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