【友人という病】「運転のダメ出し、渋滞で不機嫌になる…」親友と決別するきっかけとなった、55歳での運転免許取得～その１～

「嫉妬心も消えるお年頃」に再会

すっかり靖子さんのことは忘れていたが、「入学から30周年」の節目の同窓会で再会を果たす。

「靖子は全然変わらなかった。優しくて、リーダーシップがとれて、結婚しても仕事を続けていて、カッコいいなって純粋に思ったんです。そして、私は45歳の時に再会してよかったなとも思いました。これが30代だったら、私も仕事を続ければよかったとか、子供はどこの学校に行ったのかしらとか、余計なことを詮索していたと思う。40代後半って、いい意味で他人と比較しなくなるというか、私の人生はこれでいいんだ、と思う。なんというか、嫉妬心も消えるお年頃ですね」

靖子さんも母になっており、子供の手も離れている。お互いの自宅も近く、ちょくちょく会うようになっていった。

「靖子の実家も車がないと生活できないから、老いてきた親の生活のことは話し合いましたよ。私の父はとっくに亡くなっているけれど、靖子のところは健在。“父には先にいってほしいわ。母を後に残したい”とよく話していたのです」

お互いの子供は手離れしており、社会人になってからの友達やママ友には本音をなかなか話せない。明子さんと靖子さんは自然と会うようになる。

「行き先はスーパー銭湯。数か月に1回、“そろそろ行く？”と東京近郊の施設に遠征するの。電車やバスを乗り継いで、おばさん同士くっちゃべりながらだと、あっという間」

明子さんは夫や子供たちから「ママは乙女だね」と言われていたという。

「主人は優しい人で、“俺が車を出してもいいけど、ママたちの話を聞くのは怖いからな”と。遊びに行く日の夕飯は作ってくれるし、何時に帰るんだとも言わないし、いい人と結婚したと思いました」

一方、靖子さんはそうではなかったようだ。再会から疎遠になるまでの約8年間、夫の話はしていないという。

「ふたりの子供もいい大学に進学し、ご主人も外資系の会社に勤めており、高級マンションに住んでいるのに、全然幸せそうじゃないんです。一緒にお風呂に入ったときに、靖子の背中に引っかき傷の痕があったんです。30代だったら“どうしたの？”と聞いてしまうほど目立つ。痛かったでしょうね……。でもあれはご主人にやられたんだと思うんです」

明子さんがそう確信する理由は、2年前に55歳で運転免許を取ったことにある。

「兄夫婦が母の運転免許をむりやり返納させてしまい、1年くらいはネットスーパーなどで何とかなっていました。病院に行くときは近所の人に乗せてもらったり、タクシーを使ったりしていたんですけれど、やはり家族じゃないとサポートできないところも多い。母のグチの電話がどんどん長くなっていったあるとき、主人が“ママ、運転免許を取って、お義母さんを助けてあげなよ”って」

明子さんは兄から「運動神経が悪いので、免許は取れない」と脅されていた。その思い込みを夫は「ママはできると思うよ。世界が広がるよ」と後押しする。

「それを靖子に伝えたら、“あたしたちが高齢者になるのよ。絶対に無理よ。やめた方がいい。お金をどぶに捨てることになるわ”って。てっきり、昔みたいに応援してくれるのかと思ったら、ものすごい反対をされて、驚きました」

かつての明子さんなら、「そうだよね」と諦めていたかもしれないが、55歳で腹も据わっている。そこまで反対するならやってやろうじゃないか……と、運転免許取得に挑戦する。

【ドライブでの運転アドバイスが絶縁に繋がっていく…その２に続きます】

取材・文／沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』（ともに小学館新書）、『沼にはまる人々』（ポプラ社）がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』（小学館）、Webサイト『現代ビジネス』（講談社）、『Domani.jp』（小学館）などがある。『女性セブン』（小学館）などにも寄稿している。