「ニッピ」によるニッピコラーゲンとソーセージの物語
腕時計、自動車、刃物に電化製品。「良質の世界水準」を底上げし続けてきたニッポンの技術力。そのひとつとして、国内外から注目を集めている製品がある。まもなく創業115年を迎える老舗「ニッピ」による、「コラーゲンケーシング」である。ケーシングとは、ソーセージの原料を詰める袋(ソーセージの皮)のこと。従来、羊や豚の小腸などが用いられたが、これは、牛から抽出した「ニッピコラーゲン」を用いたものだ。
ニッピは、1907年4月1日に、「日本皮革株式会社」として創業された。設立時の会長は、大倉財閥の創始者、大倉喜八郎。取締役に伊藤琢磨、相談役に渋沢栄一など、明治から昭和初期にかけての日本財界の重鎮が役員として名を連ねている。
世界に先がけた技術発明
国策的皮革会社として着実に成長を続けていたニッピに転機が訪れたのは1960年。同社の研究者、西原富雄が発見した不溶性コラーゲンの溶解技術が発端となる。
ニッピ取締役の深澤幸洋さんは次のように話す。
「タンパク質の一種であるコラーゲンは、動物の皮膚や筋肉、腱などの中に含まれていますが、当時はその大部分が不溶性のものとされていました。この不溶性コラーゲンを、酵素によって溶解できるようにする技術は、それまでなかったものでした」
この技術は、瞬く間に世界中で話題になり、アメリカの巨大医療会社「ジョンソン&ジョンソン」と特許使用の独占契約を締結。その後もニッピのコラーゲンに関する技術は先端を歩み、医療や化粧品などの分野にも展開していく。
「100%牛由来のコラーゲンを用い、サイズはもちろん、食感にかかわる厚みも自在に変えられます。また、植物性の色素で着色やイラストのプリントができる。このプリント技術はニッピにしかありません。現在はアメリカやヨーロッパ諸国、タイ、韓国、アフリカなど、世界30か国以上に輸出しています」(深澤さん)
国内でも、改めてその技術が見直されている。山梨県上野原で自然派ソーセージを作る村上武士さんもその魅力を知るひとりだ。
「天然腸には、独特の獣臭があるのですが、ニッピコラーゲンケーシングにはそれがない。水戻しや塩抜きの作業も不要で衛生的。食感も天然腸に遜色ありません」(村上さん)
ニッピコラーゲンケーシングを使い村上さんが開発したのが「豚角煮のアスピックソーセージ」だ。
「豚の角煮を詰めたソーセージです。通常の3倍の煮汁で、豚バラをトロトロになるまで煮詰めました。付け合わせのほうれん草と針生姜もソーセージの中に入れてあります。私は、ソーセージを“筒型料理”というジャンルで捉えています。お肉はもちろん、たとえば魚介のムースを詰めたり、スイーツに仕立てたっていい。直径も長さも厚みも自在に選べるニッピのコラーゲンケーシングは、ソーセージのみならず、今後、料理の世界に変化をもたらす鍵になるかもしれません」(村上さん)
問い合わせ/株式会社ニッピ 電話:03・3882・5271 https://www.nippi-inc.co.jp/