日本一の焼き物の産地で、名品と窯元を巡り、こだわりの器に出会う

荒川豊蔵資料館蔵の志野筍絵茶碗 銘「随縁」(荒川豊蔵、1961年)。豊蔵が「再発見」した「美濃桃山陶」の陶片である「筍」と文様が共通する。

荒川豊蔵資料館蔵の志野筍絵茶碗 銘「随縁」(荒川豊蔵、1961年)。豊蔵が「再発見」した「美濃桃山陶」の陶片である「筍」と文様が共通する。

明智光秀と美濃焼の関係とは?

話題の戦国武将、明智光秀。その前半生は史料に乏しく、多くの謎に包まれている。一説には光秀は、美濃の国の守護であった土岐氏の庶流・土岐明智氏の出ともされるが、その本拠地は、現在の岐阜県の東部「東美濃」エリアに当たる。東美濃は日本最大の陶磁器産地で、茶道用の最高級茶器の産地でもあり、多くの陶磁器の「人間国宝」を出している。

安土・桃山期、織田信長と豊臣秀吉の「茶道」振興策により、この東美濃では「美濃桃山陶」と呼ばれる、黄瀬戸、瀬戸黒、志野、織部などの逸品が作られた。土岐市美濃陶磁歴史館学芸員・春日美海さんは、光秀に思いを馳せながら「美濃桃山陶」の魅力を味わえる特別展『~光秀の源流~ 土岐明智氏と妻木氏』(5月31日まで開催中)の狙いを、次のように話す。

「戦国時代に東美濃の妻木郷の領主は、土岐明智氏から妻木氏に移ります。光秀の妻や伯父が妻木氏の出身なのですが、光秀自身も妻木氏出身という学説があるほか、妻木氏の娘が信長の側室だったともいわれ、信長とも深い繋がりがあったかもしれません」

信長は、茶道を武家社会に広め、名物、名品を武士に下賜することで、天下統治のための策とした。その最高級品を自分の勢力地である東美濃で作らせることで、大きな利益を得ようとしたのである。やがて光秀は、信長の茶頭で天下三宗匠の一人であった茶人・今井宗久と交流を深める。光秀は信長から名物を賜り、居城の坂本城では宗久と茶会を何度も開くほどの“茶人”でもあった。本能寺の変、光秀死去後、坂本城落城の際には、娘婿の秀満は光秀所蔵の名品が焼けるのを惜しみ、城の下に投げて救ったとの逸話も残る。

「その後、妻木氏の家臣・加藤景延が秀吉の朝鮮出兵後に、九州に築かれていた朝鮮式の登り窯を唐津藩から技術移転し、『美濃桃山陶』の集大成である『織部』が盛んに作られ始めます」(春日さん)

美濃桃山陶の再発見から現代陶芸へ

昭和初期、志野や織部など美濃桃山陶の陶片が、東美濃各地で「再発見」され、美濃桃山陶が復興する。その端緒となったのが、美濃焼の人間国宝、荒川豊蔵である。荒川は、自らが奇跡的に往時の陶片を発見した桃山期の古い窯跡に作業場を作り、そこで志野の傑作を生み出した。そこが現在では荒川豊蔵資料館となっているように、東美濃には多くの美術館などが点在し、伝統と革新の交わりを感じさせる名品の展示、現代作品の販売、作陶活動をする作家の工房訪問が楽しめる。

光秀を契機に注目される東美濃への旅で、こだわりの焼き物に出会い、自分だけの美濃桃山陶の物語を紡いではいかがだろうか。

(1)土岐市美濃陶磁歴史館
江戸時代初期に、加藤景延が唐津藩で学び、美濃へ技術移転した巨大な登り窯。「元屋敷陶器窯跡」(国史跡)。

江戸時代初期に、加藤景延が唐津藩で学び、美濃へ技術移転した巨大な登り窯。「元屋敷陶器窯跡」(国史跡)。

「志野麒麟図皿」(元屋敷東窯出土・桃山期)。「麒麟」の絵。筆による絵付は志野焼で始まり、表現力が発達。

「志野麒麟図皿」(元屋敷東窯出土・桃山期)。「麒麟」の絵。筆による絵付は志野焼で始まり、表現力が発達。

●岐阜県土岐市泉町久尻1263 電話: 0572・55・1245

(2)荒川豊蔵資料館

志野の「人間国宝」の窯跡と旧宅

豊蔵のろくろ場(再現)。⬆豊蔵が発見した「志野筍絵陶片」(桃山期)も展示される。『豊蔵が愛した陶片と自慢の逸品』展を6月7日まで開催中。

豊蔵のろくろ場(再現)。

⬆豊蔵が発見した「志野筍絵陶片」(桃山期)も展示される。『豊蔵が愛した陶片と自慢の逸品』展を6月7日まで開催中。

豊蔵が発見した「志野筍絵陶片」(桃山期)も展示される。『豊蔵が愛した陶片と自慢の逸品』展を6月7日まで開催中。

荒川豊蔵が「美濃桃山陶」の陶片を発見した場所にある。この発見は、志野が東美濃で作られていたことの証左となった。旧宅と作業場も見学可。

●岐阜県可児市久々利柿下入会352 電話:0574・64・1461

(3)瑞浪市陶磁資料館

「人間国宝」加藤孝造展示室は必見

「美濃桃山陶」をはじめ、古代から現代までの美濃焼1300年の歴史、名品、道具類などを見学できる。●岐阜県瑞浪市明世町山野内1–6 電話:0572-67-2506

瑞浪市出身の人間国宝(重要無形文化財「瀬戸黒」保持者)加藤孝造の展示室には逸品が並ぶ。

瑞浪市出身の人間国宝(重要無形文化財「瀬戸黒」保持者)加藤孝造の展示室には逸品が並ぶ。

国登録有形民俗文化財「美濃の陶磁器生産用具及び製品」も展示。

国登録有形民俗文化財「美濃の陶磁器生産用具及び製品」も展示。

セラミックパークMINO
(4)岐阜県現代陶芸美術館

国内外の作品が揃う大型施設

国際陶磁器展美濃'17の金賞受賞作「Topological Formation」(加藤智也)

国際陶磁器展美濃’17の金賞受賞作「Topological Formation」(加藤智也)

「藍彩四方花器」(重要無形文化財「三彩」保持者・加藤卓男、1993年)。

「藍彩四方花器」(重要無形文化財「三彩」保持者・加藤卓男、1993年)。

海外とも交流を深める東美濃が、“陶磁器文化首都”を目指す象徴的な施設。5月10日まで国際陶磁器展美濃の受賞作の他、人間国宝の作品なども展示。

●岐阜県多治見市東町4-2-5 電話:0572・28・3100

(5)土岐市美濃陶芸村 土岐市美濃焼伝統産業会館

地元の陶芸作家の工房訪問も

館内の展示販売の様子。

館内の展示販売の様子。

美濃古陶磁の魅力を探求する陶芸作家の佐々木二郎さん。「最近は、次の世代にどんな作品を残せるかを考えることが増えました」

美濃古陶磁の魅力を探求する陶芸作家の佐々木二郎さん。「最近は、次の世代にどんな作品を残せるかを考えることが増えました」

美濃焼の展示解説や陶芸作家の作品販売をする。ここを拠点にして、近くで作陶活動をする作家の窯元を訪ねるのも楽しい(要問い合わせ)。

●岐阜県土岐市泉町久尻1429-8 電話:0572・55・5527

 

国際陶磁器フェスティバル美濃’20

東美濃を舞台にした世界最大級の陶磁器の祭典。「国際陶磁器展美濃」など、様々なイベントを開催。9月18日~10月18日、会場はセラミックパークMINOほか。

●6月からチケットぴあ、コンビニ等で、前売券((1)(2)(3)(4)など7館に入館可能)を発売予定。

【特設サイトへGO!】フェスティバル美濃 検索 www.icfmino.com

JR名古屋駅からJR中央本線を利用して、東美濃各地を訪ねたい。

JR名古屋駅からJR中央本線を利用して、東美濃各地を訪ねたい。

取材協力/岐阜県

 

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