
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』で徳川家康を演じている松下洸平さんの取材会が開かれました。今回は私が参加しています。松下さんは、受け答えが丁寧で、朗らかな印象でした。第41回では、家康が秀吉(演・池松壮亮)に臣下の礼をとる場面が描かれました。
編集者A(以下A):大河ドラマで徳川家康は27作目の登場です。1965年の『太閤記』で尾上菊蔵さんが演じたのが大河ドラマデビューになります。以降、錚々たる俳優が家康を演じています。
1969年 『天と地と』 松山省二
1971年 『春の坂道』 山村聰
1973年 『国盗り物語』 寺尾聰
1978年 『黄金の日日』 児玉清
1981年 『おんな太閤記』 フランキー堺
1983年 『徳川家康』 滝田栄
1987年 『独眼竜政宗』 津川雅彦
1988年 『武田信玄』 中村橋之助
1989年 『春日局』 丹波哲郎
1992年 『信長 KING OF ZIPANGU』 郷ひろみ
1993年 『琉球の風』 小林旭
1996年 『秀吉』 西村雅彦(現・西村まさ彦)
2000年 『葵 徳川三代』 津川雅彦
2002年 『利家とまつ~加賀百万石物語~』 髙嶋政宏
2003年 『武蔵 MUSASHI』 北村和夫
2006年 『功名が辻』 西田敏行
2007年 『風林火山』 坂本恵介
2009年 『天地人』 松方弘樹
2011年 『江~姫たちの戦国』 北大路欣也
2014年 『軍師官兵衛』 寺尾聰
2016年 『真田丸』 内野聖陽
2017年 『おんな城主 直虎』 阿部サダヲ
2020年 『麒麟がくる』 風間俊介
2023年 『どうする家康』 松本潤
2026年 『豊臣兄弟!』 松下洸平
※物語案内役で登場した『青天を衝け』の北大路欣也さん除く。
I:私が印象に残っているのは津川雅彦さん。『独眼竜政宗』と『葵 徳川三代』で徳川家康を演じられたので、長らく脳内再生は徳川家康=津川雅彦さんでした。
A:これだけ多くの、しかも名だたる役者さんが徳川家康を演じてきたのですから、松下さんも演じるにあたって気合が入ったことと思います。取材会では、松下さんが元々抱いていた徳川家康のイメージと、この作品での家康はどう違うかという質問が出ました。
本当に多くの俳優さんが徳川家康を演じていらっしゃいます。全てを拝見したわけではないですが、僕の中では、クールで腹の底が見えず、なかなか本音を言わない人物というイメージがあって、そこがかっこいいなと思っていました。僕もそういう家康を演じるのかなと思っていたのですが、八津(弘幸)さんが脚本でコミカルな一面も描いてくださったので、自然と自分でも想像していなかった家康像になっていきました。ただ、それを十分に体現できているかというと、まだまだ模索しているところです。天下人となる家康には、今回描かれている姿だけでは捉えきれない残酷な面もあったかもしれないと思うので、そうした一面も演じてみたかったなという思いはあります。
I:松下さんが参考にした作品や俳優はいるのでしょうか。
結果的に、真似もできないですし、到底及びませんが、以前、役所広司さんが演じられた徳川家康の映像を拝見して、勉強させていただきました。家康という人物へのアプローチというよりも、時代劇における役所さんのお芝居そのものをとても尊敬していて、参考にさせていただきました。
A:役所広司さんが徳川家康を演じたのは2017年の映画『関ヶ原』ですね。役所さんは1983年の大河ドラマ『徳川家康』では織田信長を演じています。
I:実際に演じてみて感じた家康の魅力についても、松下さんが語ってくれました。
ひょうひょうとしていて、どこかつかめない、腹の底の見えない存在ではあると思うんです。でも、第34回で若かりし頃の家康をすごく丁寧に描いていただいて、人質だった時代や、自分の妻や子供を自分の手で殺さなければいけなかったことなど、苦しい経験をたくさん重ねてきたからこそ、今の家康があるのだと感じました。実際に演じてみて、僕自身も「訳があって、あの家康なんだ」と実感しましたし、ただのヒールではなく、視聴者の皆さんにもどこか憎めない存在として見ていただけたらいいなと思いながら演じています。
A:松下さんが言及した『豊臣兄弟!』第34回は家康の壮絶な半生が明らかになる回でしたが、あの回を経て、今後の家康の人物像について、今まで考えていたことから変化はあったのでしょうか。
第34回で、14歳の家康と、その頃の石川数正を、僕と迫田(孝也)さんで演じられたのは本当に良かったなと思います。かなり若い頃なので、別の俳優さんが演じる可能性もあると思っていたのですが、僕たちに託してくださった演出陣の皆さんには感謝しています。今川義元(演・大鶴義丹)から、大切にしていた鳥を自分で殺せと言われるシーンは、「奪われる前に奪う」という家康の考え方が植えつけられる、とても大事なシーンでした。その後の家康の言動にもつながるので、丁寧に演じたいと思っていました。
第41回では、「奪われる前に奪う」という考えで動く家康が描かれましたが、その後、どう演じるかというのが非常に難しいところだなと思います。最初は何を考えているか分からない、ちょっと腹の底が分からない家康がいて、過去が明らかになり、いよいよ牙をむき出した家康。そして第41回でその牙を持って噛みに行く家康。これを経て、今は非常に丸くなりまして(笑)。ここから第48回までどうキャラ作りをしていくかというか、どうやってしっかり作品の一部になっていこうかと、日々悩みながら撮影しています。
終盤は、秀長と交友を深めるのですが、そのあたりの家康を演じるのがすごく面白かったですね。当時の徳川はおそらく40代後半から50代くらい。大人になって久しぶりに友達ができる家康が、非常に面白かったです。秀長がああいう性格ですから、グイグイきてくれるんですけど、家康はうまく返せなくて、終始苦笑いしている。そんな家康の姿が、多分どこかで見られると思います。
小栗信長の迫力に圧倒される

I:信長役の小栗旬さんとのエピソードも語ってくれました。
A:第15回の「姉川大合戦」で織田信長から援軍を求められて、わざと遅れて到着して激怒され、非常に狼狽するお芝居がすごく印象的でした。
本作における小栗旬さんの存在は、本当に大きかったなと思います。撮影中、僕はあまりセリフが出てこなくなることはないのですが、あの時の小栗さんとのシーンでは、目の前に信長がいて、あの目でキリッと睨まれて、頭の中が真っ白になりましたね。「徳川家康、ただいま参上いたしました」というセリフだったと思うのですが、信長の前に出て、膝立ちして、パッと顔を上げたら、ものすごく怖い顔でこちらを見ていて。「あれ、何だっけ?」となりましたね。それほど、小栗さんが演じる信長の威圧感や強さに圧倒されました。あの目で、「他に申したきことはないか?」と言われた時には、半分お芝居、半分は素の感覚だったというか。こちらが演技で作る必要がないほど、小栗さんが常に信長としての存在感を提示してくださるので、その波に乗っかる。それでシーンをしっかり成立させてくださる小栗さんの存在は、すごく大きかったですね。前室にいる時など、普段の小栗さんは本当に優しくて。この現場では、みんなが「小栗旬さんについていきたい」と思っていたと思います。現場での佇まいすべてが、自然とそう思わせてくれる。そういう方でしたね。
I:松下さん演じる家康から見た豊臣兄弟はどんなふたりかということにも触れてくれました。
家康から見たあのふたりは、それまでの家康の人生には存在しなかったキャラクターだと思います。だからこそ非常に扱いにくかったと思いますし、どう接するべきか、どう戦うべきか、頭を悩ませる存在だったのではないでしょうか。それほどまでに、あのふたりが本当に魅力的でした。秀吉が亡くなった時、家康はその死に涙を流したという話を伺ったことがあるのですが、それほど秀吉という存在に心酔していたんだろうなと思います。豊臣から徳川へと時代が移るまでにたくさんのドラマがありますが、家康にとって秀吉は、最終的にはとても尊敬に値する人だったんだろうなと。
仲野太賀くんと池松壮亮くんが演じる豊臣兄弟のあのふたりは、どこまでもピュアで、どこまでもまっすぐ。第5回で初めて会った時に家康が言った「熱意が人を動かし、勝敗を決する」というセリフが、第41回で自分に返ってくるんですよね。当時、家康は「真逆のこと言ってやったわ」と言っていたのに、今度は秀長と秀吉の熱意に自分が動かされる。脚本を読んで、「なるほど、ここに繋がってくるんだ」と、その展開がおもしろいなと思いました。
第5回を撮影している時は、僕はまだ現場にも慣れていませんでしたし、まして馬に乗りながら、あまり会話を交わしたことのない仲野太賀くんや池松壮亮くんを相手に、緊張しながら必死の思いでセリフを言っていました。もっとかっこよく言えばよかったな、と今となっては思います。第41回でこう出てくるとは思ってもみなかったですから。1年半通して演じているからこそ、過去の出来事がバトンのように渡されていく、その様子を視聴者の皆さんと一緒に見ることができるのは、本当に大河ドラマならではの素晴らしいところだなと思います。

【放送情報】
大河ドラマ「豊臣兄弟!」
NHK総合 毎週日曜 20時~ほか
※NHK ONEで同時・見逃し配信中
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり







