文/印南敦史

早ければ50代前後、遅くとも定年退職が近づいた60代半ばくらいになれば、さまざまな不安がのしかかってくるものだ。
『老後の不安がうまいこと晴れる本』(奥田弘美、榊原正幸 著、すばる舎)の著者のひとりである精神科医・産業医の奥田弘美氏によれば、多くの方々が抱える「孤独」「健康」「お金」についての不安は「三大不安」としてくくられるのだという。
実は、あらゆる不安に共通する対処法は、「不安を感じたら、少しずつでもいいから、解消するための行動をとり続けること」です。
小さな行動であっても、何らかのアクションをとり続けることが、とてもとても大切なのです。人は、未知のものを目の前にして不安になりますが、行動し続けることで輪郭が見えてきて、対策が見えてきたり、「実はたいしたことではない」とわかって、いつの間にか気にならなくなったりします。
(本書「はじめに」より)
そこで本書において奥田氏は、さまざまな不安を解消する行動のヒントを明かしているのである。なお「お金の不安」に関しては、会計学博士である榊原正幸氏が担当している。
奥田氏は、不安とは「未来からのメッセージ」だと思っているのだそうだ。つまり、「もしかしたら、こういうことも起こるかもしれないから、できる範囲で準備しておくように」と言われているのではないかと。
一方、榊原氏が株式投資家としてお金のことを考え続けたのも、「将来ずっとお金の不安を感じないで暮らすためには?」という未来からのメッセージに突き動かされていたからなのだそうだ。具体的にいえば、つねに未来から逆算しながら行動するクセがあるというのだ。
たしかに到達したい目標があるのなら、逆算して早い時期から積み上げていくのがいいのかもしれない。
まず、「こうなりたい」という理想像を思い描き、「では、そうなるために中間地点あたりでは、どうなっていたらいいのか?」「そこまで行くには、いまからなにをしていけばいいか?」と細かく分けて考え、初めの一歩の行動を決めていくわけだ。
目標達成のメソッドとして知られる逆算の手法だが、これは老後の不安に対しても応用できると奥田氏は指摘している。
また榊原氏も結果的に、お金の不安に関しては「老後に困らない資産をつくる」という目標を達成できたという。たしかにお金の不安がなくなれば、それこそが幸せだとも言えそうだ。
しかし、その一方には問題もあったようだ。
資産形成が終わってから無気力状態になってしまい、幸せを感じられない時期があったというのである。
とにかく時間がありすぎて毎日暇を持て余してしまい、昼夜逆転になりかけるし、社会や人との繋がりがどんどん薄れていくし……。これではいけないと思い立ち、それからは、ある程度の目的やルーティンワークを設定し、時間管理をしながら生活するように意識し始めました。
(28〜29ページより)
他人や組織に管理された生活ではないのだから、基本的には自由で「自分のしたいこと」が中心の生活。それは間違いなく気楽だろう。だが暇すぎるからこそ、なんらかのセルフコントロールは必要だということだ。
リタイアをいざ実行してみると、とにかく自由な時間が山のようにできます。で、文字どおり、とにかく暇なんですよ。教授職もサラリーマンの一種でしたから、気ままな時間に起きて、日中いくらでも自由に過ごせる生活に、初めの数か月こそは嬉しさと解放感を覚えてわくわくしましたが、日を重ねるにつれて、どんどんダラダラした生活になっていきましてね。
(29〜30ページより)
ダラダラした生活に身体も適応してしまい、朝寝坊し放題で、家でゴロゴロしてばかり。昼寝もし放題なので、夜眠くならずに、就寝時刻がどんどん遅くなっていったという。
すると、どんどん家族以外の人とも会わなくなり、孤独な毎日を過ごしていたのだそうだ。精神的にも活気を失い、株式相場をチェックすることを除けば、食べては寝るだけの生活だったと当時を振り返っている。
もちろんこれは、資産形成を成功させた実績に基づく現実だろう。しかし「暇すぎて社会とのつながりが薄れていく」ということ自体は、多くのリタイア世代にとっての懸念点でもある。
いまは「暇だ病」に侵されないよう、自分を律しながら生活しているというが、要するにお金がどれだけあっても、幸せとは限らないということだ。
前述した「三大不安」だけでなく、リタイア後にはメンタルを“正常な状態で”維持することも意識したほうがよさそうだ。

奥田弘美、榊原正幸 著
1760円
すばる舎
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。











