写真:illustAC(一部加工)

楽しみにしていたはずの夫婦旅行。それなのに、なんとなくピリピリした空気が漂い、気まずい思いをした…。

そんな経験はありませんか?

「相性が悪いのかな」
「歳を重ねても、相変わらず丸くなれないなんて…」

そんな風に、自分と相手を責めてしまう方も多いでしょう。けれど、そんな旅への不安も中医学の知恵を取り入れることで、あらかじめ対策を講じることもできます。

本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生が、中国伝統医学の知恵から、心と体の違和感について、そのサインを読み解いていきます。

今日は、お子さん達から銀婚式のお祝いに旅行をプレゼントされた女性が相談に訪れています。

ちょっと、覗いてみましょう。

【今日のお悩みカード】

相談者:50歳 女性(夫:55歳)
悩み:夫と仲良く旅行できるか心配

リスト作成:もぱ

旅先で揉めてしまう悩み

相談者は、少し困ったような笑顔で切り出しました。

「志村先生、じつは、成人した子ども達から、銀婚式のお祝いに旅行をプレゼントされたんです。ありがたいんですけど… 素直に喜べない自分がいて」

「あら、それは嬉しいお話なのに、どうしてでしょう?」

「家族旅行に行くといつも、些細なことで夫と気まずくなることがあるので…。今回は二人だけの旅行になるので、ちょっと身構えてしまいます。

夫とは普段、仲が悪いわけじゃないんですよ。むしろ、お互い助け合ってやってきたと思います。でも旅行になると、普段とは違って受け流せなくなるというか…」

志村先生は、深く頷きながら尋ねました。

「なるほど。ちなみに、噛み合わなくなるのは、どんな場面が多いですか?」

「そうですね、夫は予定通り進めたいタイプで、私はその時の気分に合わせて、自由に過ごしたいタイプです。あとは、疲れてくると、もうダメ。些細なことで意見が分かれると、つい言い合いになってしまって」

中医学が教える、不調を未然に防ぐ知恵

志村先生は、明るいトーンで話し始めました。

「中医学の考え方では、大自然と人間は密接につながっていて、互いに影響を与えているという思想が根底に流れています。

例えば、わかりやすいケースをひとつ挙げましょう。

梅雨になると『体がだるい』と不調を訴える方が増え、相談も多くなります。ただ、『湿度が高い時期は体がだるくなりやすい』と、あらかじめわかっているので、梅雨に入る前から『体の中をカラッと保つ過ごし方』を意識しておく工夫ができますよね。

具体的には、水分の摂り方に気をつけるといった、日常のちょっとした工夫を取り入れるだけでも違いが出ます。

さらに言えば、漢方の中には『飲む除湿機』と呼ばれる処方もあります。これを事前に飲んで備えておくという先回りのケアもできます。ここまでくると、不調が出る前の『予防』という発想になります」

「わかります。ここで相談をすると、いつも知恵の深さに触れたり、ときどき、志村先生が予言しているように感じたりすることがあります。早めに対策を講じることができれば、どの季節も心地よく過ごすことができますね」

「そうなんです。季節の移ろいを繊細に感じとることは、日本の文化としても深く根付いています。気候のコントロールはできませんが、予測と対策はできます

そしてこれ、じつは旅行の備えとしても、同じことが当てはまります」

「旅先でも快適に過ごすことができる対策? それはぜひ、教えてください」

そう言って、女性は身を乗り出しました。

気って、なんですか? 疲れやイライラの原因を知る

「ご夫婦が旅先でぶつかってしまう理由。じつはこれ、『気』の流れという視点で理解をすると、具体的な対策が見えてきます」

そう言って、志村先生は、気の巡りについて話を始めました。

「旅行中は、行き先を決めたり、時間を決めたり、常に小さな決断の連続です。これは気を消耗させ、疲れる行為ともいえます」

「気…。いつも教えていただいていますが、そもそも気ってなんなんでしょう?」

「中医学でいう『気』とは、体を巡る生命エネルギーのことです。体の中をたえず循環していて、気の状態はいつも揺らいでいます。気が足りなくなるときや、巡りが滞ってしまうこともある。こうなると、普段なら受け流せるはずの些細なことに対して、思いもよらない反応をしてしまうことが増えてきます」

「もしかして、楽しい時間でも、気を消耗してしまいますか?」

「はい、その通りです。ワクワク感や大きな感動も感情を大きく揺らすので、じつは知らず知らずのうちに気を消費しています

「だから旅先で余裕がなくなってしまうんですね…」

旅先でのイライラを防ぐ中医学の養生法

「そうです。ですから、旅行中は気を消耗させない工夫や、乱れやすい状況を事前に避けておく対策が有効です」

「疲れてから」では遅い! 限界がくる前に休息を

「そもそも旅行は、慣れない環境だからこそ疲れてしまうもの。枕が変わるだけでも、眠りが浅くなる方もいますよね。それに、旅先での食生活からの疲労もあります。普段の生活と、食事時間がずれ、さらに外食も続く。今から、胃腸が疲れてしまうことは予測が立ちます」

「そうですね。50代になってから、移動だけでも疲れてしまって…」

気が消耗してしまう前に、こんな工夫が効きます」

・予定を詰め込み過ぎない
・早めに休憩を取り入れて、休憩中はしっかり休む
・空腹からイライラしそうになったら、軽く補給する

「なるほど…。よさそうですね。じつは普段から、バッグの中に低糖のチョコレートを常備しています。空腹を感じたら一粒口にすると手軽に補うことができるので、重宝していますが、これを夫にも勧めてみます」

「イライラする前に手を打つ、いいアイデアですね」

仲よしの秘訣は自由時間と素直さ

志村先生は、少し身を乗り出して続けました。

「先ほど、計画遂行型のご主人に対して、奥様は、そのときの気分に合わせて、自由に過ごしたいとおっしゃっていました。それなら、あらかじめスケジュールに余白を空けておくよう、ご主人に頼んでおくのはいかがでしょうか?」

・あえて「予定を決めない時間」を作っておく
・一人になりたいときは無理をせず、素直に離れて別行動を楽しむ
・気になったことは、溜め込まずにその場で言葉にする

気の停滞は、発声することで詰まりをやわらげる効果があります。心の中にモヤモヤを溜めこむのをやめて、声に出して伝えることは、とてもいいですよ。旅行中に溜めこんでしまうと、帰ってきてからの生活にも響いてしまいますから」

それは困ります、と頷いたあと、ふと相談者は口にします。

「そういえば、旅行中って、妙にイラっとしてしまうときや、一人きりの時間が欲しくなったりします。あれは、疲れのサインと受け止めればいいでしょうか?」

志村先生は、頷きました。

「そうですね。そういうときは、素直に心の声に従うと休まるものです。

逆の立場から言えば、疲れている相手を、無理矢理連れ回すのも禁物です。そういう意味では、事前に揉めないためのルールを決めておくのもいいですね」

旅のお守りに! 頼れる漢方ケア

「旅先では疲れや急な気候の変化など、思いがけない不調が起こりやすいもの。そんなときこそ、漢方薬を忍ばせておくと心強いですよ」

そう語る志村先生は、旅の場面ごとの漢方ケアを教えてくれました。

出発前と移動中のアプローチ

「出発前に意外と多いのが、楽しみすぎて目が冴えて眠れなくなる方。あるいは逆に、予定が近づくにつれて、気が重くなる方も多いです」

「すごく、わかります…! 私、あれこれ考えすぎて寝つけなくなるタイプです」

「そうした落ち着かない気持ちを、やわらげる処方がありますよ。

それから、旅行中は食が進みがちなので、出発前は『腹六分目』くらいを意識しておくといいです。胃腸を軽くしておくと、消化力を整えることができるので、安心です」

「移動中の乗り物酔いも、漢方で対策できますか?」

「ええ。胃の中の水分代謝を整える処方が役立ちます。これは体質に合わせて、相談しながら選びましょう。

あとは、飛行機や新幹線は想像以上に乾燥しているので、喉や肌の乾燥ケアも忘れずに。これは、宿泊先の空調にも通じるポイントですね」

滞在中と帰宅後のアフターケア

「ホテルや旅館の乾燥、本当に苦手です…」

「はい。空調が強すぎたり、乾燥していたり。慣れない環境に体を合わせるのは、エネルギーを使います。体調を崩しやすいので、念のため、風邪薬も持っておくと安心ですよ。滞在中に眠りが浅くなる方には、睡眠ケアもできます。

あとは、食事やお酒が続くと胃腸に負担がかかるので、胃腸薬や、肝臓ケアも大事ですね」

写真:illustAC(一部加工)

「じつは、一番心配なのが、帰宅後の疲れなんです。家に着いたとたん、旅の疲れがどっと出ることもあって」

「疲れを癒す処方もあります。胃腸を労わりつつ、楽しかった余韻から少しずつ、いつもの日常へ戻していきましょう」

相談者は、感心したように言います。

「旅行で体調を崩すのが心配だったので、すごく心強いです」

「体調やお悩みに合わせて、きめ細やかな処方ができますから、ぜひ気軽にご相談してくださいね」

アクシデントも、思い出に変える心構え

最後に、女性は少し考えるようにして、苦笑いを浮かべました。

「どれだけ事前に準備をしていても、現地で道に迷ったり、予約がうまくいかなかったりすると…ついイラッとして、相手を責めたくなってしまいます。そんなときは、どう心を落ち着ければいいでしょうか?」

志村先生は、その心配を受け止めるように頷きます。

「旅にアクシデントはつきものです。例えば、ミントや柑橘系の香りをかぐだけでも、気分の切り替えを助けてくれます。そうして一息ついてから、『どう解決しようか』と、おふたりで相談しても、遅くはないでしょう。そんなときこそ、ふと目に入った景色が心に沁みて、いい思い出になることも多いですから」

「そうですね。ミントのタブレットも用意しておこうかな…。せっかく子ども達がくれたプレゼント。トラブルも含めて、楽しんできます」

「はい。旅行の工夫は、これからも続いていくおふたりの人生にも、きっと役に立つと思いますよ。どうか素敵な旅にしてくださいね」

写真:illustAC(一部加工)

おわりに

旅先での夫婦の衝突を、中医学の視線で見てみると、ふたりの相性だけが原因でないことがわかります。気の消耗や乱れが招いている場面も多いもの。これがわかれば、事前に余白を作り、お互いの心と体をいたわる工夫を取り入れることで、旅行をより心地いいものにできます。中医学の知恵を味方につけて、ぜひご夫婦で思い出深い旅を愉しんでください。

※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。

中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。

身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
インスタグラム:CoCo美漢方神戸@cocobikobe0310
※ご相談のご予約はインスタグラムからお願いいたします。

●構成・文/もぱ(京都メディアライン)

●アイキャッチ画像/photoAC(一部加工)

 

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